神に魅入られると 完
朝香るか
第1話ハスミという娘
彼女の名はハスミ。
彼女はよく笑っていて
太陽みたいな明るいヒトだった。
「毎日笑ったほうが幸せにすごせるでしょ?」
前向きなハスミ。
修道女にあこがれて門をたたいたものの「そなたは来てはならぬ。向いておらぬ」
幾度も拒否をされていて、職業としては認められない。
だから彼女の日課は町はずれの
祠に花をささげることだった。
周辺の山を束ねる神といわれている神様がまつられていた。
彼女は毎日通っていた。毎日捧げること3年。
ついにその神様の目に留まった。
(よく来る娘であるな。雨の日だって雪の日だってあるのに。修道女になりたいが故の点数稼ぎなのだろうかの)
いつしか祠の神は彼女に惚れてしまった。
毎日とはいえ彼女が神の近くにいるのはほんの数分。
神とは祀られそこにいることで人々の願いを叶えているのが役目だから。
だから動くことは出来なかった。
それでも神は
彼女とのささやかな時間を大切にしていた。
(よく来る娘よ。村人は私の存在など見向きもしなくなり、寝ていたり宴をしたりで忘れているというのに)
とても女一人では生きていけなくて、結局結婚することになった。
そんな彼女と神の関係は縁談によって終わりを告げた。
俺の親友・リバーとの縁談だった。
「ハスミの祈りの時間なんとかならないかな。家事してほしいしな」
「おいおい。神に彼女をとられるとでも心配しているのか? それとも家事の時間を増やしてほしいのか?」
「そうじゃないけれど……なんかいやじゃないか。嬉しげに毎日決まった場所に行く姿を見るのが」
くだらない独占欲。彼女の純粋さを知っているから引き留めることもできやしない。
「それだけ彼女が敬虔な信者だってことじゃないか。気にすることはないさ」
「……そう、だよな」
このときにもっと親身になって聞いてやればよかったんだ。
相談を受けた翌日。
薄暗い曇りの日。雨が降りそうだが、まだ雨は降っていない。そんな天気だから、祠に一緒に置くといってついていったのだ。
急いで俺に何なんとかするようにとまくし立てる。70過ぎの完全に腰も曲がった老婆だった。。
「あんたも祠を見てきてくれないかい?」
オレに声をかけてきたのは彼女の母親だった。
「なにがあったんだ? おばさん」
「今朝祠にいったきり姿が見えなくてね。ほら、あそこって薄暗いだろう。何かあったら怖いから旦那と一緒に行けって言ったんだけれど」
「今日二人で行ったのか?」
「ええ。旦那さんも気になっているようだったから」
普段のあいつならば任せても平気だ。
冷静で決断力のあるやつだ。
でも色恋のことになるとあいつは何をしでかすかわからない。
駈け出した俺におばさんは叫んだ。
「こういうときにたよりになるのはあんただけなんだからねっ」
オレが祠についたときすでに惨事は起こっていた。
オレの前には
茫然と座り込む彼女と
血だまりの中に横たわる親友の姿があった。
「ハスミ。
リバーは……」
「もう息をしていないの……ッ」
きっと彼は助からない。
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