ジェットコースターもコーヒーカップもお化け屋敷も、楽しかった。

でもこうして青山の隣に座っているだけのときがいちばん緊張する。心臓の音がうるさい。

「なんか、夏川お前やっぱ変わったな。そりゃそうか。もう何年前?じゅう……よん?」

「うん。14年前。そんな変わったように見える?」

老けたかな、なんて冗談を言うと彼が笑う。

あ、好きな笑顔だ。

懐かしい思いに流されて昔に戻りたくなる自分がいる。

「ねえ、話って?」

「それなんだけどさ……」

少しの間の沈黙。ほんの短い時間。きっと一瞬。なのに私には永遠に感じられた。

それは彼が次に発する言葉が何なのか、いい予感と悪い予感がしたからだ。


「俺、結婚するんだ。誰よりも大切な人で、いま、すごく幸せなんだ。だからそっちも早くいい人見つけて幸せになってね」

「ありがとう……がんばるね」

私は涙を堪えて彼の話を聞く。私の方が先に彼を好きになったのにな。私の方が彼のこと理解してあげられるのにな。そんな心の声は押し殺して一言。おめでとう。私は元彼女としていい奴を演じる。最後の最後まで素敵な人としていられる。

これは、いい予感だ。


じゃあ、悪い予感は。

「もう一回、やり直せないかな」

諦めても忘れられなかった彼からの嬉しい言葉。でもきっと、やり直しても同じことの繰り返し。過去に縋り付くようで、彼しか見えずに成長していない自分が嫌になる。好きなだけじゃ一緒にいられない。もうそんな年になってしまった。ほんとはずっと好きだったよ。滲む視界を彼に見せずに一言。ごめんね。私はひとり立ち上がって去る。ラインをブロックして彼には二度と関わらない。こんなことになるなら、美しい思い出のまま残しておきたかった。


こういうときに限って悪い予感は当たるものだ。

「もう一度、だめかな?」

ほら。

「今更言わないでよ……」

ごめんねと言って立ち去れたらどれだけいいだろう。でも現実は上手くいかない。

彼の顔がぼやける。嬉しいのか悲しいのかよくわからない感情が押し寄せる。頬が濡れる。大嫌い。

「好きだよ。遅いよ。ばか」

口が勝手に動く。黙れ、自分。

「……私、もう彼氏いるんだけど」

精一杯の嘘をついた。

「そっかぁ……。ごめんね。忘れて」

「うん。でも今日、楽しかったよ。ありがとう。」

昔に戻りたいと願ったくらいには。

「じゃあね。ほんと、ありがとね」

何もなかったかのような笑顔を顔に貼り付けて私は園を後にした。

ばいばい、初恋。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

結んで解いてまた結び 東さな @a_sana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ