初デート
青山と会う日になってしまった。『土曜日、2時に遊園地でいい?』と来たラインにグッドマークのスタンプを送って、それ以降は連絡を取っていない。そのせいで余計にソワソワする。服やアクセサリー、メイクを考えるたびに、私たちはもう他人だということを思い出して気が沈んだ。でも、こんな思考になってしまうのも仕方ない。遊園地は彼と初めて来たところだから。
14年前。
「夏川、今日の放課後って空いてる?」
「今日?空いてるよ」
「じゃあ、遊園地行かね?」
「それってさ……」
「初デート、しない?」
「行く!行く!」
憧れの制服デートだ!嬉しくてつい頬が緩む。
放課後までの時間はあっという間だった。ホームルームが終わると、青山が教室の前で待っていてくれた。
「お待たせ」
「うん。あ、髪、変えた?」
「そうなの!よく気づいたね。唯衣にしてもらったの」
「かわいい。似合ってる」
不意打ちはずるいって。
「もう一回言って?」
「ばか。言わない」
「え~。残念」
「ほら、早く行こ」
遊園地は金曜日の放課後だからかそこまで人は多くなかった。ほぼ全てのアトラクションを制覇した。唯一乗れなかった観覧車は、私が高いところが苦手だから。次来るときは乗れるようになってるといいな、なんて言いながら2人で帰った。
その"次"は来ないまま私たちは別れて、観覧車には乗れないまま大人になった。
あのときの青山は眩しいくらいにかっこよくて、優しくて、全部が好きだった。
どうか今は当時とは真逆の人でありますように。また恋に落ちることがありませんように。そう願いながら遊園地の中へ足を踏み入れた。
土曜日は高校生や家族連れで賑わっている。そんな場所で何年も前の恋人を見つけるのは無理がある。心ではそう思いつつも人混みの中を探してる。
不意に、人と目が合った。身長が高くて綺麗な顔立ちの男性だった。私の方に近づいて来る。
「夏川……?」
「えっ?」
思わず間抜けな声が出た。
「俺、青山爽一」
「あおやま……あ、え?」
よく見てみると、確かにそれは彼だ。あまりにも雰囲気が変わっていて気付かなかった。
昔は韓国系の服や髪型を好んでいたのに、今ではすっかり爽やかな好青年になっている。
「えっと、久しぶり」
「久しぶり。元気だった?」
「うん、元気。そっちはどう?」
「こっちも元気」
会ってみると、久しぶりなはずなのに何年もずっと一緒にいたような気分になる。心地が良い。きっと2人とも、今でも気が合うと思う。
思った通り、他愛もない会話をしながら私たちは園内を歩き出した。
1割の法則、ってあると思うんだ。授業中に生徒が寝てる人数が1割未満なら、それはその生徒が悪い。でもさ。1割以上なら、それは先生の授業がつまらないってことなんだよ。きっと。
教師という職に就いた彼は、彼なりの自論を展開した。相変わらずだ。
その話を私は興味深く感じ、聞く。これも、相変わらずだ。
ただひとつ、あのときと変わったのは、もう彼から手を差し出されることはないということだ。
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