第39話 美咲探偵事務所(閑話3)
マスコミが千雪御殿に押しかけてから1週間が経った。
その頃,テレビで集団自殺の映像が流れて,世間が大騒ぎになった。
それは,大きな川に架けられた橋の上から40人ものマスコミ関係者がどんどんと橋から飛び込んでいく映像だった。たまたまそれを通りがかった人が携帯で映像を撮って,マスコミに売り込んだ。
川に飛び込んだ者は,ふたたび水面に浮かんでくることはなかった。
そして,その翌日もさらにまたその翌日も続いた。
マスコミ関係者は,戦々恐々とした。原因はまったく不明だと公表した。連日,テレビでこの原因が何かを議論していた。ただ,奇妙なことに,彼らは,決して美崎探偵事務所のことは,一言も口に出さなかった。彼らは,当然,知っていた。美崎探偵事務所に行った連中が全員自殺したことに。
さらに,美崎探偵事務所をミーチューブとホームページで公開した関連のスタッフも,同じ橋から飛び降り自殺していった。その数は10名にも及んだ。
さらに,被害は続いた。2社のAAとBBの私立探偵事務所の全社員も同じ橋から飛び降り自殺した。
治安部隊は,その橋を封鎖したがダメだった。自殺しに来たものは,治安部隊に阻止されると,その場で自分の喉元を刺して自決した。
一部には,橋からの飛び降り自殺した者は,美崎探偵事務所が関係しているのではないか,というHPがいくつか公開された。そのHPは,幸いにも千雪側に発見される前に,管理者側によってすぐに削除された。
治安部隊がこれ以上被害を拡大させないため,政府を動かして,特別にネット監視部隊50名を採用して,美崎探偵事務所に関するネット規制を強化した。
ー---
ー アキカゼ医療商社の社長室 ー
社長秘書は,秋風社長に会社を辞めることを伝えた。
社長秘書「社長,美咲探偵事務所のある千雪組で働くことになりました。強制的なものです。もし,反抗すればすぐに殺されます」
秋風社長は,苦い顔をした。
秋風社長「警察に訴えてもダメなのか?」
社長秘書「無駄です。美咲探偵事務所をミーチューブに公開した関連のスタッフや,マスコミ連中が皆,自殺したのはよくご存じだと思います。そんな中で,わたしは殺されずに済んだのです。破格の待遇といえるでしょう」
秋風社長は,何と言っていいかわからなかったが,できるだけ多くの退職金を準備することにした。
社長秘書,いや,今はもう社長秘書ではなく,千雪組の奴隷に成り下がったのだが,洋子は,引っ越しの準備に忙しかった。千雪組が用意している社宅に住むためだ。
テレビをつければ,連日,マスコミ関係者が橋から飛び降り自殺したという報道を相変わらず報道していた。自殺者は,XX探偵事務所にを訪問したマスコミ連中,関連するミーチューブとホームページの制作会社のスタッフ,さらにAAとBBの私立探偵事務所のスタッフだという報道された。現在まで,115名が自殺したと報じた。
XX探偵事務所とは,美咲探偵事務所のことだが,実名報道は厳しく制限された。報道するだけで,その組織は自殺にみせかけて殺されてしまう。
洋子は,引っ越しの荷物を整理をしながら,ふと思った。
洋子『わたしの発案で,美咲探偵事務所を暴くようなモザイク入りのミーチューブを公開させたせいで,115名が自殺に追いやられてしまったのね,,,千雪組って,噂に違わす,とんでもない化け物集団だわ,,,』
そんなことを思いつつ,洋子は,『ふふふ』と小さく笑った。
洋子『わたしもその化け物集団の一員になるのね,,,奴隷として,,,』
ー 千雪邸 ー
洋子が,千雪組の用意した社宅,つまり,マンションなのだが,そこへの引っ越しが完了した。その後,洋子は,美崎探偵事務所の職員として仕事を開始した。
その最初の仕事は,今回のミーチューブとホームページで公開されたことによる賠償額の算出だ。その賠償額を提示するのは,ホームページの会社だ。しかし,そのホームページの会社は,日の出放送局の孫会社にあたるので,実質,日の出放送局に提示することになる。
洋子は,今回の一連の事件による業務遅延,営業妨害,顧客離れなどで,洋子は被害額を多めに見積もって3億円として,ミサキにその案を提出した。
ミサキは,3億円と聞いてびっくりした。なんとも高額な金額だと思った。ミサキは,この案をサルベラに提示した。サルベラは千雪に相談した。金銭に関することなので,千雪にチェックしてもらう。数字なので,簡単に覚えられるし,後で千雪に文句を言われるのも嫌だからだ。
千雪は,サルベラから提示された3億円の賠償金額を見て,せせら笑った。
千雪「もういいわ。一般人の発想はこの程度なのね。今日,日の出放送局の局長が来るから,わたしから金額を提示するわ。後のことはサルベラに任すわ」
ーーー
ー 千雪邸の第1会議室 ー
日の出放送局の局長と局長秘書,および孫会社管理担当役員の3名が来た。千雪側は,千雪,サルベラ,香奈子,そしてミサキだ。
局長「今回は,誠に申し訳ございませんでした」
局長らは全員土下座して謝った。
局長「今回,前回の件の反省もまだ充分にできていない中,当社の孫会社が不祥事をしでかして,誠に申し訳ございません。本来なら,制作担当者や部長らも同席させる予定でしたが,すでに自殺しておりますので,同席することができません。ご容赦ください。
前回のテレビ報道からまだ半年しか経過しておりませんが,このような事件を引き起こし,重ねてお詫び申し上げます」
千雪はめんどくさそうに,手を振って話を止めた。
千雪「もう謝罪は不要よ。そちらも孫会社まで情報を徹底するのは困難だったのでしょう。率直にいいます。あなた方の誠意を金額で示してください」
局長「わかりました。前回100億円でしたが,今回の影響は,それ以上のインパクトがあるものと判断しました。そこで,150億円を謝罪費用として提供します。ですが,経営的な問題もあり,半年ごとに,50億円の提供でいかがでしょうか?」
局長としては,日の出放送局の利益すべてを投げ出す覚悟でこの提案を行った。もちろん,局長は引責辞任となるのは百も承知だ。
千雪「わかりました。金額については,それで結構です。この件は,これで終了としましょう。明日以降,日の出放送局と孫会社の社員からは,自殺者は出ないことになると思います。後のことはサルベラに任します」
千雪はその場から去っていった。
ミサキは唖然とした。あの事件がこんな風に波及するとは思ってもみなかった。そして,ミサキはすぐに理解した。日の出放送局側は,150億円で社員の命をぎりぎり守ったのだと。つまり,千雪側が行っているのは,脅迫よりも太刀の悪い悪魔の所業だ!
千雪の言葉を聞いて,日の出放送局側の面々は,安堵の顔がこぼえれた。
その後,事務的な手続きが行われて,無事に両者で和解が成立した。
ー---
和解が成立して,千雪邸から戻る車の中で,局長秘書は局長につぶやいた。
局長秘書「でも,千雪さんもすごいですね。自殺者を人目につく方法で公開処刑するなんて」
局長「ああ,よっぽど怒ったんだろうな。ある意味,マスコミ全員への警告かもしれん。倫理規定を守れば,何の問題も起きないはずなのに」
局長秘書は,思い出し笑いをした。
局長秘書「ふふふ。千雪さんも超巨乳ですが,サルベラさんも巨乳ですね。でも,千雪秘書の香奈子さんは,ぜんぜん巨乳ではないですね。なんか理由があるんでしょうか?」
局長は,クスクスと笑った。こんなしょうもない会話ができる状況になったのだ。局長は,すでに,局長の退陣後の人生プランを考える余裕ができた。
局長「巨乳の話も大事だが,それよりも,わたしの退陣のアレンジをよろしく頼む。次期局長をどうするかは,わたしにはもうそんな権限はない。他の重役連中とうまく調整してくれ」
局長秘書は,それを聞いて寂しくなった。
局長秘書「わかりました,,,局長,,,よく千雪側と向き合ってくれました。ありがとうございます。あとのアレンジはお任せください」
局長秘書は,気持ちを切り替えて局長にある提案をした。
局長秘書「局長,このまま,ぱーっと,芸者を呼んで騒ぎましょう!!もう,いやなことは忘れましょう!」
局長は,そんな気分にはなれなかったが,同意した。芸者遊びなどしたことがないので,会社の去り際に,芸者をあげるのも悪くないと思った。
局長「そうだな,,,そうするか,,,」
局長と秘書を乗せた車は,そのまま花街に向かっていった。
ーーー
今回の一連の騒動は,徐々に収束した。
アキカゼ医療商社は倒産した。秋風社長は,愛人を養えなくなったことで,彼女らは,夜の仕事についた。秋風社長は妻とも離婚して無一文となった。
現在,秋風社長は,3人の愛人によって養われている。新しいビジネスの構想をいろいろと練ってるところだ。
秋風社長は殺されることはなかった。ミサキが千雪に殺さないように依頼した結果だ。アキカゼ医療商社が倒産したことで復讐が完結したものとした。それに,これ以上,むやみに自殺者を出すのは避けたかった。
千雪は,ミサキの願いを聞き届けるかわりに,ミサキにある条件を出した。それは,千雪の指示で,暗殺者になってもらうことだ。
その後,ミサキは千雪組の暗殺者としての技量を身につける訓練をすることになった。
ーーー
第2節 千雪が行くー月本国編ー @anyun55
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