第38話 美咲探偵事務所(閑話2)

 ーアキカゼ医療商社 社長室ー


 社長秘書は,わずか2日後には,AAとBBの私立探偵事務所から中間報告書を入手した。彼女は,社長をつかまえて言った。


 秘書「社長,見てください。この中間報告書の写真!彼女ですよ。あの自殺した直子です! ミサキは直子だったんです!!」


 秋風社長は,その写真を見て震えた。


 全身がブルブルと震えた。手に持っていた報告書をその場で落とした。


 秋風社長「彼女は生きていたのか,,,,,」

 秘書「いいえ。違います。死人が蘇るはずはありません。葬儀に出席したし,火葬場にも行ったんですから。でも,なんらかのパワーで肉体を得たんだと思います」


 秘書は,そういって,さらに言葉を続けた。


 秘書「というのも,この事務所は常識外のことができる化け物集団です! 決して普通の人が近寄ってはいけない場所です!」

 秋風社長「それはどういうことだ?」


 秘書「はい。仕事柄,警察には,いろいろと賄賂をおくって情報を入手しています。特に麻薬捜査関連ですが。でも,それ以外にもいろいろ雑談で情報がはいります。その中で,絶対に近づいてはいけないのが,この事務所です。『千雪組』です!命を捨てるならそれでいいのですが」


 秋風社長は,意味がよくわからなかった。


 秋風社長「よくわからん」

 秘書「はい,私もそういって,情報屋に問い詰めたのですが,一言その人はいいました。あそこは,暗殺者集団と考えればいいと。彼らに殺された人数は数知れずいますが,証拠はいっさい残しません。警察はいっさいあの千雪組には,かかわらないそうです」


 秋風社長「今後?ということは,過去にはいろいろあったのか?」

 秘書「どうも,なんどかやりあったそうです。ですがしっぺ返しをくらって大変な目のあったと彼らはいっていました。人間なら対処できるけど,でも化け物は対処できないと」


 秋風社長「化け物??」

 秘書「はい。どうやら,われわれ一般市民がどうこうできるようなレベルではないようです」

 秋風社長「だが,このまま黙っていては癪だな」

 秘書「はい。それで,お耳をお貸しください」

 秋風社長「オッ? いいアイデアでも?」


 社長秘書は,ちょっと考えてから返答した。


 秘書「ミーチューブで打撃を受けたのですから,同じくミーチューブで反撃しましょう。社長,ご決断を。もし,われわれが後ろで糸を引いていたとバレたら,われわれは命はありません。やりますか?それともやめますか?」

 秋風社長「ばれる可能性は?」


 秘書は,AAとBBの私立探偵事務所に依頼する方法を十分に吟味したので,バレる可能性は,ほとんどないと思った。でも,安全を見て,控えめに答えることした。


 秘書「そうですね。美咲探偵事務所に訪問したAAとBB探偵事務所に仕事を依頼した者と,われわれの接点は,遮断できていますから,まずバレないと思います。ですが,相手が化け物だということを考慮して,五分五分でしょうか?」


 秋風社長は,ミーチューブで公開にするにも控えめな感じすれば,仮にバレなくても,殺されることはないだろうと判断した。そして,,,彼はGOサインを出すことにした。


 秋風社長「そうか。このままでは,当社は破産に追い込まれる。もう顧客のほとんどが去った。去り際は早いものだ。腹をくくろう。万一,殺されてもいい。GOだ。すすめたまえ!」

 秘書「わかりました。十分内容を吟味して対処します」


 ー---

 それから1週間が経った。


 あるミーチューブが話題になった。


 『死亡したはずの美女! 巨乳になって生き返った! 』


 このミーチューブの内容は,そのタイトルだけで,センセーショナルだった。死亡したのは,ある会社の女性社員で,その顔写真が映し出された。ただし,目の部分は特別なモザイクがかけられていた。その女性は,巨乳美女となって,ある探偵事務所の社員になって蘇った,という奇想天外な内容だ。


 さらに,『この探偵事務所には,蘇った巨乳美女以外にも,巨乳美女を助手にしていた!』という副題までついていた。その美女も,特別なモザイクがかけられていた。


  また,その映像には,ある探偵事務所の場所が映しだれていた。でも,背景や事務所のある建物にも,特別なモザイクがかけられていて,実際にどこにあるのかまでは,予想できないはずだった。


 この部分の動画は,以前仕事の依頼で,訪問を受けたAAとBB私立探偵事務所が隠し撮りしたものだ。


 この映像だけなら,さほど問題にならないと思われた。人物もモザイクがかけられていたし,事務所の所在もモザイクがかけられていたからだ。


 秋風社長や秘書は,アップされたミーチューブを見て,実質的な反撃にはならないが,でも,少しだけ気が晴れた。


 しかし,,,世の中,モザイクを解除する方法など山ほどある。このミーチューブが話題になったせいで,モザイク解除の精度争いが始まった。


 極めつけは,モザイク解除ソフト10種類を試して,どれがもっとも優れた効果を発揮したかというミーチューブが出現してしまい,ミサキの生前の顔や,巨乳美女に生まれかわったミサキの顔,さらに巨乳美女の助手の顔まで,無修正でアップされてしまった。

 当然のごとく,事務所の所在も無修正にされてしまい,事務所の所在がたちまち特定されてしまった。


 ホーカの映像,,,それは,すなわち,千雪の映像に他ならない。絶対に,無許可で世間に出してはならない映像だ。無許可で出すことは,いかなる報復も受けてもよいという意味だ。つまり死を意味する。


 最初にモザイク付きでミーチューブにアップされた動画には,関連するホームページに誘導されるようになっていて,関連する記事が細かく記載されていた。


 そして,,,運が悪いことに,その誘導されたホームページは,以前,テレビ報道で,ひと悶着を引き起こした日の出放送局系列の孫会社が制作にあたっていた。


 ー----

 ー 日の出放送局局長室 ー


 この日,秘書が慌てて,局長室に来た。


 局長秘書「局長! 大変でー-す。今度は孫会社がやってくれましたーー!」

 局長「何事かね。騒がしい」

 局長秘書「このミーチューブを見てください。あの,あの千雪さんがでています。もう,われわわれ全員,皆殺しにあいますー-。わー-ん,わー-ん」

 局長「なんと!!」


 局長は,すぐにそのミーチューブの内容を確認した。そして,大きく溜息をついた。そして,,,腹をくくった。


 局長「この件は,後任に任す。私は局長を辞任する。これは,100億の賠償ではきかんだろう」

 局長秘書「関連社員が殺されるのはまだいいです。お金でけりがつけばまだみっけもんです。でも,局長まで殺されるかもしれません。もう2回目ですから。もし,私が千雪さんだったら,絶対に許しませんよ。今,辞任しても無駄かもしれません。この件,なんとか,手を打ってから止めてください!」


 せっかく,腹をくくったのに,慰めの言葉もかけない局長秘書がうざかった。


 局長「ええー-い,うるさい。わかった。とにかく,すぐにミーチューブとホームページを削除させろ。すぐに謝罪広告を出せ。そこからだ。それから,この関係者を集めろ!」


 ー---

 千雪御殿

 千春「リンリン,うちの周囲に,カメラ持っている人がいっぱい集まっているよ。なんで?」

 リンリン「しらないわ。ほっときなさい」


 ピンポーン,ピンポーン,


 千雪御殿の受付「はー-い,なんでしょうか?」

 YY放送局「YY放送局のものですが,ミーチューブに掲載された美咲探偵事務所は,ここでいいのですか?」

 千雪御殿の受付「なんのことですか?」

 YY放送局「このミーチューブをみてください。映っている建物がここと一致しています。ここに巨乳美女のXX探偵事務所があると公開されています。事実確認をしたいのですが」

 千雪御殿の受付「その携帯をちょっと貸してください」


 千雪御殿の受付は,その携帯を借りて,リンリンのもとに駆け寄った。


 受付「リンリン! 大変です! この建物がネットで公開されています。千雪さんがでています!」

 リンリン「なに!?」


 リンリンは,その携帯を見た。なんと,千雪が映っていた。明らかに隠し撮りだ。それとこの建物と美咲探偵事務所ということもだ。リンリンは,千雪人形のホーカとミサキにこのミーチューブを見せた。


 ミサキ「なるほど,,,オリジナルのミーチューブはモザイク入りだけど,いろんな人がそれを解除してアップしているわね。なんとも,どうしたものか,,,」

 リンリン「のんびり構えている場合じゃないわよ。マスコミ各社が押しかけてるわ」

 ホーカ「マスコミ各社には,しばらく待ってもらいなさい。千雪たちと相談するわ」


 ホーカは千雪やサルベラたちに,オリジナルのミーチューブとモザイクを解除したミーチューブを見せて,マスコミが押しかけて来ていることを報告した。そして彼らに方針を決めてもらった。


 大まかな方針を決めるのはサルベラだ。今の千雪に現状を解決できる能力はない。


 ホーカは,携帯を千雪御殿の受付に返して,マスコミ各社全員を,教団の修練用大広間に案内させた。総勢40名程度だ。


 そこにマリアが現れた。彼女は,ただ右手をあげてなにかブツブツ言っていた。彼らの上空に巨大な魔法陣が出現したのだが,それに気がつく者はいなかった。しばらくすると,40名のマスコミ関係者は全員その場に倒れた。それから,千雪とホーカが来て,ひとりひとりに3分間手を頭において精神支配をおこなった。


 美咲探偵事務所はここにはないこと。あのミーチューブは偽りであることを強くインプットさせた。彼らが持っている電子機器はすべて没収した。彼らは電車に置き忘れたものとして認識された。


 この作業は,3日ほど続いた。オリジナルとモザイクを解除したミーチューブや,関連のホームページも,それぞれの運営会社によって削除された。


 ミサキは,千雪邸を調査したAAとBB私立探偵事務所に関する情報を入手することにした。調査と言っても,殴り込みだ。1社はAA私立探偵事務所で5名程度の社員だ。ミサキはその事務所に行き,全員,ぶん殴って気絶させた。


 ミサキは,自分の腕力が想像以上にすごいことに自分でも驚いた。


 ミサキ『わたしの体って,すごいわね。こんなにパワーがあるなんて』


 ミサキは,自分の体の秘めたパワーに驚きつつも,目的の調査レポートを探した。報告書先は個人名で『山道優実』だった。住所と電話番号もわかった。


 もう一社は,BB私立探偵事務所で2名の小さな私立探偵事務所だった。やはり,殴って気絶させた。調査の依頼主は,まったく同じ人物だった。


 ミサキは,この件をホーカに報告した。ホーカはさらにこのことをサルベラに報告した。サルベラは,少し考えてから,依頼主の『山道優実』を誘拐するように命じた。


 誘拐となるとマリアの出番だ。夕方10時に住所に記載されたマンションに行った。そこで電話をかけてみたところ,電話のベルがその部屋から聞こえてきた。間違いない。この部屋だ。


 マリアは,チャイムを押した。そして「宅急便でーす」と声をかけた。ドアが開いた。『山道優実』だ。その次の瞬間,その女性はマリアに腕を握られて,千雪の部屋に転送された。


 ー---

 その女性の会社は,この件では橋渡しをするだけの役割だった。探偵事務所から報告書を受け取て,それを依頼主に送るだけだ。依頼主と言っても,指定された場所に書類を持っていくだけなので,依頼主が誰なのかは,彼女もわからない。


 ここで,捜査が途切れたと思った。


 ミサキ「ねえ,あなた。その封筒を渡した人の顔は覚えている?似顔絵を書いてくれる?だいたいでいいのよ」

 山道優実「はい,女性で眼鏡してましたから,詳しくは書けませんけど,なんとか書いてみます」


 その女性は,頑張って,その女性の顔を描いていた。


 その部屋にリンリンが入ってきた。


 リンリン「サルベラ様,ミサキ,わかったわよ。オリジナルのミーチューブとホームページの系列会社が。KYプロダクションで,資本系列は日の出放送局だったわ」

 サルベラ「そうなの?それは面白いわね。リンリン,明日,日の出放送局局長と会うアポを取りなさい。記事と映像に関わった社員リストを至急提出させなさい。それと情報源もね。謝罪の要求などは後回しでいいわ。実際に日の出放送局局長にうちから訪問する人は,,,そうね,一番暇そうにしている香奈子にしましょう」

 

 香奈子は,この件についてはまったくノータッチだ。いつものように千雪邸のつまらない雑用をしていて,この場にはいなかった。香奈子がサルベラに呼ばれて,一言言われたのは,明日,日の出放送局局長に会って行きなさいというその言葉だけだった。予備知識はまったく教えてもらえなかった。ほかの誰も香奈子にそんな情報は与えない。別に意地悪をしている訳ではない。単純に,軽く見られているだけのことだ。


 ー----

 ー----

 ー AA私立探偵事務所 ー

 

 α隊の隊長と5号がAA私立探偵事務所を訪問していた。


 AA私立探偵事務所の所長が暴力にあったということで,警察に訴えたのだ。本来なら現場の警察官が対応する案件だが,なぜか治安特別捜査部のα隊が出動した。というのも,人間離れしたパワーを持つ女性の犯行ということと,千雪邸から50km圏内の事件のためだ。この範囲の事件は,ほとんどすべてα隊が担当することになっている。


 α隊隊長「それで,盗まれたものはありましたか?」

 所長「この報告書です。これはコピーですが,どうぞご覧ください」

 α隊隊長と5号は,その報告書を見てびっくりした。そこには,はっきりと千雪の写真が載っていたからだ。

 α隊隊長「なるほど。それで,これが盗まれたということは,なにか,心当たりはあるのですか?」

 所長「あります。たぶん,ミーチューブとホームページで,この美崎探偵事務所とこの巨乳美女が公開されたからだと思います」

 α隊隊長「何?公開された?」


 α隊隊長と5号は,ことの重大さにびっくりした。彼らは,すぐにその公開された内容を見せるように要求した。


 α隊隊長と5号は,公開されたミーチューブとホームページを見た。そして,自分たちには,もうどうすることもできないことを知った。


 所長「あのー,暴力をふるった女性の映像があるのですが,見なくていいのですか?

 α隊隊長「ああ,それね,,,見ても見なくてももうどうでもいいです」

 

 α隊隊長が,もうお手上げたというポーズをした。全然理解していない所長は,なんとしても犯人を捕まえてもらいたかったので,一番大事な情報をぜひ見てもらいたかった。


 所長「ぜひ見てください。どうぞ」


 α隊隊長と5号は,暴力をふるった映像をみた。顔ははっきりと映っていた。ミーチューブに映っていたミサキだ。変装ではない。見られても問題と思っているようだ。


 α隊隊長「ありがとう。参考になった。戸締りをきちんとしなさい。この事務所はもうたたんでしまうことをお勧めします」

 所長「それは,どいういう意味でしょう?」

 α隊隊長「私たちは,あなた方の死体を見ることになる,ということです」

 所長「・・・」


 所長は,一瞬,なんと返事していいのかわからなかった。


 所長「え?あのビデオに映っている人に,私たちは暴力を受けたのです。はやくつかまえてください」

 α隊隊長「どこにいるかもわからんのに,どうやってつかまえるんだ?映像をよくみたまえ。この腕の動き。人間がこんな動きをしますか?相手は,化け物ですよ。われわれは人間を相手にします。化け物は相手にしません。命が惜しいからです。部下にも一切化け物には関わらせません。この意味わかりますね。すぐ事務所をたたみなさい。今,逃げれば命は助かるかもしれない」

 所長「ですが,,,,」

 α隊隊長「もう一件,別の探偵事務所をいかなければならない。では失礼」


 α隊隊長と5号は,次のBB探偵事務所を訪問した。やはり,美崎探偵事務所の調査レポートが盗まれていた。また監視映像には,同じ人物が映っていた。α隊隊長は,前の事務所にしたのと同じアドバイスを繰り返した。


 ー---

 帰り道,5号は隊長に言った。


 5号「千雪は,今回,どうでてきますかね」

 α隊隊長「今回は,ちょっとやばいかもしれん。死亡者が多数でてしまう可能性があるだろう」

 5号「私もそんな感じがします。今回は,政府の責任は関係ないですよね」

 α隊隊長「ああ,テレビではないからな。ミーチューブの事業は政府の許可は不要だから,政府は関係ないだろう。それゆえ,被害が多くなるだろう」

 5号「それを阻止するのは無理ですかね?」

 α隊隊長「10号の茜にどのような状況くらいは聞くことができるが,阻止は無理だろう。阻止するものが全員殺されてはどうしようもない。傍観するしかあるまい」


 α隊隊長と5号は,あたかも他人事のように話した。


ー----

ー----

 -日の出放送局局長室-


 香奈子は,局長とその秘書に会っていた。


 香奈子は,自分が千雪の秘書であることを告げた。香奈子はなんでここに来くるように言われたかのかもわからない。


 それでも,あたかも知っているかのように振る舞った。


 香奈子「局長,わたしがここに訪問した理由はご存じですね?」

 局長「わかっている。あなた方がほしい情報は,すべてまとめた。今回のミーチューブとホームページに関わったメンバーの氏名,その住所,電話番号,そして関わった内容を記載した」


 香奈子は,この情報でおおよそ内容を理解した。どこかのアホなやつが,千雪の映像を無許可でネットにアップしたのだ。香奈子はニヤッとほほえんだ。


 香奈子「なんか,これ,死亡者リストのようですね。今回は,これだけで結構です。では,失礼します」


 香奈子には,交渉する権利はない。『子供の使い』という立場だ。さっさと帰るに限る。


 局長「こちらは,もう少し状況がわかり次第,千雪さんと面談を申し込みたいのだが」

 香奈子「はい,千雪様も首を長くして待っていると思います。では,失礼します」


 香奈子が去った後,局長秘書は局長に小さい声でつぶやいた。


 局長秘書「あの資料,渡しちゃいましたね」

 局長「彼らも調べようと思えば,すぐわかることだ。われわれの印象をよくするほうが大事だ。他人を救うよりわれわれを救うほうが大事だ。すぐ役員会を開く。準備してくれ。私はもう局長を辞める!」

 局長秘書「だめですよ。この件が終わるまでは。逃げれませんよ」

 局長「・・・」


ー---ー

ー----

 ー 千雪邸 ー


 千雪邸の1階は,リンリンの事務所になっている。その片隅に,ミサキが座っている。助手としてホーカがいるが,ホーカは,普段は,自分の体内の部分を霊力で構築することに専念している。そのためか,ミサキの助手としての仕事は,頼まれ事以外何もしない,


 今,ホーカが取り組んでいるのは,消化器系統の機能を霊力で構築することだ。この機能は千雪が作製した雪生や小雪にはないものだ。その意味では,ホーカは,千雪以上に千雪の複製体を作製する能力に長けていると言ってもいいのかもしれない。


 ミサキは,誘拐して連れて来られた山道優実が描いた似顔絵を見ていた。この似顔絵以外に,山道優実から,年格好,性別,身長155cm程度,痩せ型,髪型などの特徴を得ていた。


 サルベラから,24時間以内にAAやBB探偵事務所に依頼した人物を特定せよとミサキに厳命が下った。


 ミサキにとって,この千雪組の組織がどのようなものなのかよくわかっていないが,命令違反になると,ミサキに与えられた肉体が没収されてしまうだろうと容易にわかった。


 美咲探偵事務所に悪意を持つ人物,,,それは限られている。秋風社長の周辺の人物で女性に限定される。つまり,秋風社長の3人の愛人,正妻,社長秘書あたりだ。


 ミサキは,可能性の低い順番に調査して排除する方式をとった。彼女は,外部の私立探偵を雇って,正妻の情報を入手するように依頼した。顔のアップの写真と全体像の写真があれば事足りた。その情報を得て,すぐに正妻が関与していないことが判明した。身長が150cmもなく,小柄な女性だった。


 3人の愛人と秘書では,決定的に違うところがある。それは胸の大きさだ。愛人は,いずれもEカップ以上の胸だ。山道優実が手渡した相手は,Aカップか,せいぜい大きくてもCカップまでだ。


 愛人たちも,この件で排除された。その結果,社長秘書が容疑者として残った。でも,このまま,愛人たちを放置しておくのも癪に障る。というのも,愛人たちは,自分の体を匕首で刺した連中だ。もっとも,精神支配によって,そのように行動するようにホーカによって精神支配されたのだが,,,


 ミサキは,愛人たちによって,殺されたことになっている。その殺された女性が,怨霊となって,愛人たちの前に現れて,復讐しに行く,,,至極当然のことだ。


 怨霊と違う点は,ミサキは,強靱な肉体を得たということだ。匕首程度でこの強靱な肉体を傷つけることはできない。せいぜい,体に巻き付けた血を入れた袋を突き破るくらいだ。


 ミサキは,夜になるのを待って,愛人のタマキの自宅を訪問した。


 ピンポーン,ピンポーン!


 予想通り,タマキがドアを開けた。そのドアには殺したはずのミサキが立っていた。しかも,目の周りを赤く化粧して,あたかも怨霊のように化粧していた。もっとも,外を出歩くときは,サングラスを掛けていたので,それに気づく者はいない。


 タマキは,びっくりして,そのまま後ずさりをした。


 ミサキ「あなたに殺された恨み,はらさでおくべきか!!」


 ミサキは,芝居がかった表現でタマキに迫った。


 タマキ「あなたを刺したのは,わたしでないの! いや,わたしだけと,意識がもうろうとしてて,刺したことも覚えていないの!!」


 タマキは,あの時の心理状況を説明して,ミサキに理解を求めようとした。


 ミサキ「覚えていない? でもわたしを刺したのは事実でしょう? あなたの意思でないなら,いったい誰があなたに命じたの?正直に言いなさい!!」


 そう言われても,タマキは,返事することはできない。だが,あの日,タマキが誰かにスタンガンのようなもので気絶させられたことを思い出した。それは,その女性は,眼鏡をかけていて,素顔はよくわからなかったが,巨乳の女性だったことを思い出した。


 タマキ「えーっと,そうね,,,あの日,変なおっぱいのでかい女性が部屋に入って来て,わたしをスタンガンで気絶させたわ。そうよ。きっと,彼女がしたんだわ!」


 タマキの推理は的を得ていた。しかし,ミサキは,その女性が誰だかを要求した。答えられるはずもない要求だ。

 

 ミサキ「そう?まったく知らない人の依頼で,人を殺すの?あなたは?え?それは誰?すぐに白状しなさい!!」


 そう言われても愛人のタマキは,返事のしようがなかった。


 パン,パン,パン,パン,パン,パン!


 ミサキは,愛人タマキに往復ビンタを何度も何度も与えた。ミサキは,これがしたかった。こうすることで,少しは気分が晴れるというのもだ!


 ミサキ「今度は,叩くところ,どこがいいの?そう,胸がいいのね。あなた,わたし以上に巨乳だわ。癪に障る!」


 ミサキは,むりやり愛人タマキの上半身を裸にして,Fカップのおっぱいを露わにさせた。


 ボン,ボン,ボンーーー


 ミサキは,Fカップの胸を何度も叩いた。


 ミサキ「どう,しゃべる気になった?」


 いくら叩かれても,分からないものは,答えようがない。それに,殴られたせいで,痛くて,声がすぐに出なくなった。


 愛人タマキは,うめき声しかでなくなった。


 ミサキの強靱な体からの攻撃は,予想以上に愛人のタマキに打撃を与えてしまったようだ。


 ミサキ「しゃべらない気ね?じゃ,もう一度,お仕置きよ!」


 パン,パン,パンーー


 ミサキは,再び愛人タマキに往復ビンタを何度も与えた。


 バタン!


 愛人のタマキは,意識を失って倒れた。


 玄関のドアを開けっ放しになったせいか,この騒動に異変を感じ,隣近所の住人,4,5人ほどが様子を伺ってきた。もしかすると,すでに警察に通報された可能性もある。


 でも,ミサキはそんなことを気にする必要はない。愛人のタマキは,決して被害届けを出すことはないからだ。


 ミサキは,集まった人たちに怒鳴った。


 ミサキ「見せもんじゃないわよ。さっさと散りなさい!」


 ミサキは,そう捨てせりふを残してマンションを去った。


 ミサキは,この体を得てから,自分がだんだんと粗暴になっていくのがわかった。強者の驕りなのかもしれない。


 ミサキは,他のスミレとナル子の愛人宅に訪問して,同様に暴力を振るって,気晴らしをした。


 結局のところ,弱い者いじめにほかならない。


 3人の愛人宅を訪問したあと,最後にいくところは,社長秘書のアパートだ。彼女が,黒幕の可能性が高いので,誘拐することにした。


 誘拐の方法は簡単だ。スタンガンを社長秘書にあてて気絶させるだけだ。そして,タクシーを飛ばして千雪邸に連れていけばいい。


 市販のスタンガンは,威力が弱いので,特別に強力な電流が流れるように改造したものだ。一歩間違えば死亡していまうレベルだ。


 ー----

 千雪御殿,第1会議室


 会議室には,サルベラと香奈子がいた。香奈子は,千雪の秘書でありながら,今は,会議の書記係のような仕事をさせられた。なんといっても,香奈子は頭がすこぶるいいので,報告書をまとめるという事務仕事をさせるにはぴったりな人材だ。


 香奈子は,途中から今回の事件に携わったが,ほぼ全容を掴んだ。いや,掴んだと思った。でも,それは,まったくの誤解だった。今回の事件でこれから死者がでるなど,まったく予想もしなかったからだ。後になって,この千雪組という組織の恐ろしさをマジマジと思い知らされることになる。


 この第一会議室に,ミサキが気絶した秋風社長の秘書を連れてきた。


 ミサキは,秋風社長の秘書が,今回の一連の黒幕での可能性が高いことをサルベラに報告した。サルベラは,軟禁している山道優実を電話してこの会議室に来るようにいいつけた。


 山道優実は,なんとなく,この千雪組の組織がとんでもない組織だということがはわかった。でも,一歩間違えば,確実に殺されるだろう。だって,自分が転移魔法で,一瞬にして別の場所に移動させられる化け物集団の中にいるのだ。


 彼女は,携帯を没収されているわけでもないので,軟禁されたと警察に訴えることもできる。だが,警察に連絡したところで,当てに出来るはずもない。


 サルベラから,すぐに会議室に来いと命じられて,1分もしないうちに,慌てて,その会議室に飛んできた。言われたことを即座に実行する。そのことだけが,自分の命を救う唯一の方法だと理解している。


 山道優実「サルベラ様,お呼びでしょうか?」

 サルベラ「あらら?ここまで来るのに,1分もかかったわね。今度は,もっと早く行動するのよ」

 山道優実「ははーー!すいませんでした!!」


 山道優実は,頭を思いっきり下げて謝罪した。


 山道優実「次回から,もっと早く行動するように心がけます!!」

 サルベラ「そうね。この心がけがあればいいわ。ところで,そこに気絶している女性を見てちょうだい。例の報告書を渡した相手は彼女なの?」


 そう言われて,山道優実は,床に気絶している社長秘書を見た。そして,その女性は,まぎれもなく,その女性だった。


 山道優実「あ,彼女です。間違いないです。彼女に報告書を渡しました!」


 この言葉を聞いて,ミサキも安堵した。


 ミサキ「やはりね。これで首謀者が判明したわね」


 山道優実は,自分の役目が終わった。彼女は,当面この千雪邸の部屋掃除係として,強制労働させられることになった。真面目に働けば,そのうち解放される予定だ。それがいつかは,誰もわからない。もし千雪がこの場を仕切っていたら彼女は,確実に殺されただろう。サルベラが仕切っていたのが幸いした。


 社長秘書は,むりやり意識を取り戻された。彼女は,ふらふらする頭を振りながら周囲を見た。どうやら,どこかの会議室にいるようだ。そして,見知った顔を発見した。それは,秋風社長の会社にいた元社員の直子だ。ミサキは,わざと直子の顔に戻していた。


 社長秘書「え? 直子?!やっぱり肉体を得ていたのね?」

 ミサキ「あら?よくわかったわね。そうよ。この肉体,千雪様にもらったのよ。あなたたちに復讐するためにね。ふふふ」

 

 秘書は,ミサキをにらみつけて言った。


 社長秘書「なるほど,,,自殺した直子が,生前の恨みを晴らしたかったってわけね」

 ミサキ「洋子,私を見てあまり驚かないのね。死人が蘇ったのよ!」


 洋子と呼ばれたのは,社長秘書のことだ。


 社長秘書「そうね,,,あなたがあの化け物の『千雪』とかいう組織に関係しているって,わかってからは,驚かないわ。直子は,あのレストランで巨乳美人に化けて,『ミサキ』として秋風社長に近づいたのでしょう?」

ミサキ「さすが洋子ね。勘が鋭いわね」


 彼女らの話など聞きたくもないサルベラは,彼女らを黙らせた。


 サルベラ「話は,後にしてちょうだい。社長秘書に要件だけいうわ。あなたには,2つの選択肢があります。この場で殺されるか,ここで奴隷として働くかです。どちらかを選びなさい」


 そんな選択を迫られては,奴隷として働くことを選ぶしかなかった。


 社長秘書「後者を選ぶしかないですね,,,」

 サルベラ「了解です。では1週間あげます。自分のマンションを引き払い,会社も辞めて,身辺整理をしなさい。細かな話はそれからです」

 

 社長秘書の洋子は,この日から千雪組の一員になった。

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