練習「アナザークラフト」

黒白 黎

アナザークラフト

 仮想世界に自分の分身を作成し、未知なる世界を探索したり物をクラフトしたり建築したりと奥が深いゲーム。自由自在に自分の想像したものを作れることから世界中から注目を浴びている。

 ネットの住民<KK>と現実(リアル)友人の石田とで『アナザークラフト』の世界へ今日も冒険に出かける。



**



 下層世界。

 ここは、地下深くに位置する洞窟。

 見飽きた風景が続く退屈な世界だ。

 ここを探索することとなったのは、<わびすけ>がヘルプミーと救援要請があったからだ。

 <わびすけ>はリアルで唯一の友人だ。お調子者で図に乗りやすい性格をしている。

 このゲームを始める際に、<わびすけ>はこんなことを言っていた。

「そうか、この世界が退屈だといいたいんだね。奇遇だ。俺もそんなことを考えていたのさ」

 カッコよく包帯を舞いあげていたが、中二心満載で目も当てられなかった。

「まったく、一人で勝手に突っ込んであげく、出口もわからないとは、迷子の犬ちゃんはどうしようもないものだな」

 <KK>がカカカッと笑う。

 <KK>はネット掲示板の19ちゃんねるで知り合った人で、友人でもなければリアルであったこともない人だ。ただ、ぼく達と同じ学生であることだけは打ち明けている。本当かどうかまではわからないが、在籍している学校名を晒しているあたり、本人である可能性もある(特例でぼかし付の写真も送ってくるぐらいだし)。

「犬じゃないよ」

 犬ではないと訂正する。

「猫かな」

「動物に当てはめようとするのやめて」

「人の話を聞かないし、自分勝手に行動する。問題児だ。ラビはよく、イライラしないな」

 <ラビ>とはぼくのアバター名だ。正確には<迷路(ラビリンス)>なのだが、長いので<わびすけ>命名で<ラビ>と呼ばれている。名前を省略させられるのは気乗りしないのだが、呼びやすくなったため、それはそれでいいのだと納得するようにした。

「……昔からの友達だから」

「そんな友達ほしかったものだ」

 意外なことを口にする。

「なに言ってんだよ、同じゲームをする仲間じゃないか」

「仲間…ね」

 友達とはまだ言えない。まだそこまで信用しているわけではないからだ。腹を割って話せるほど気前がよいわけでもない。まだ<KK>のことを友達として、仲間として呼べるのかは別の問題だ。

「おおぉーー!! 愛しの<KK>! それに我が相棒<ラビ>! 助けに来てくれたことを感謝する!」

「大げさだなー」

「まったく。ろくに装備もせずに最下層に潜るなんて、お前は一体どんなゲームをしてきたんだか」

「申しわけねー。詳しく話せば短くなるんだが…」

「長くなるから、話しはあと――え?」

 手を合わせてすまんすまんと謝りながら、一行は帰宅する。

 拠点(ホーム)に戻るなり、椅子に腰かけ足を組む<わびすけ>。態度が気になるのか<KK>は少し苛立っていた。

「さて、どうして装備せずに潜り込んだのか詳しく話せ」

「んーとね。最初に潜ったのは浅瀬の洞窟だったんだ。モンスターと戦っていたら足場が崩壊して、最下層まで落ちてしまったんだ。そこから必死で逃げたよ。上に上がろうにも道具を持ち合わせていなかったし、別の場所へ移動するにもモンスターが強すぎて、装備がどんどん壊れていくし、道具も底をつき始めた。<ラビ>たちに救援要請したわけさ」

 <KK>は少し苛立ちを隠しながら冷静に尋ねる。

「逃げるための必需品<煙玉>や<脱出召喚>、<帰還巻物>はもっていかなかったのか?」

「いやー<煙玉>と<脱出召喚>は持っていったんだが、モンスターに襲われて<煙玉>は底をつくし、<脱出召喚>を使って外へ出ようとしたんだけど、モンスターの自爆に巻き込まれてどこかへ失くしちまったんだ。だけど、幸いなことにいま、必要な物資はちゃんと手に入れて来たぜ。ほら」

 テーブルの上にさらけ出されたのは、<鉄>、<金>、<アメジスト>、<銀>、<オパール>だった。

 装備品を作るのに<鉄>、<金>、<銀>を使う。

 装飾品を作るのに<アメジスト>、<オパール>といった宝石が必要となる。

 ここまでして手に入れてくるとは大した奴なのだろうか、それとも単なるバカなのか。

「助かったからいいものの、もし助けるのが遅かったら、やばかったんだぞ」

「わりーって」

「死んだら、アイテムや装備の紛失、レベルリセットと、ペナルティーが大きいんだぞ。お前だけの問題じゃないんだからな!」

「褒めるなって!」

「…褒めてねーよ。今回のことは『よくやった』と言いたいが、次からは『いくなら、俺達も誘え』だ。いっただろ、お前だけのゲームじゃない。俺達もいるんだ。今日はもう寝る。明日期末試験だからな。おつかれー」

 そう言って<KK>はログアウトしていった。

「<KK>始終苛立っていたな」

「試験のこともあるだろうし、なによりも、誘ってくれなかったのが気にしていたんじゃないのかな?」

 <わびすけ>は目を大きく開き驚いていた。

「せっかく洞窟を見つけたんだ。<KK>は探索したくてウズウズしていたよ。昨日、メッセージできていた(嘘)。それで探索する前に探索し、なおかつ助けるために迷惑をかけたから、怒っていたんだよ」

「そうか…アイツ…」

 要約反省してくれたかな。

「…そんなにやりたかったのかー」

「は?」

 額に手を当てながら<わびすけ>はカッコよくいう。

「俺としたことが、<KK>を誘わなかったことが、アイツは気にしていたんだな。そうか、今度から気を付けるよ。それよりも、まだ探索しきれていないんだ、また行ってくるぜ」

「あっ! おいっ!!」

 一人で勝手に洞窟へ戻っていく。肝心の装備は<KK>から勝手に拝借し持って行ってしまった。拠点のだから、自由にしていいという考えからくるものだろうだが、案の定、追いかける前に拠点に戻ってきた。

 装備ひとつない状態で。

「死んだ」

 ぼくはすぐに<KK>にメッセージを送った。

『<KK>の装備を奪って死んだよ』

 そのあと、朝日が昇るまで怒られたのは言うまでもない。

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練習「アナザークラフト」 黒白 黎 @KurosihiroRei

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