カフェオレ
芦田 白
1.最悪な朝
あれは少し肌寒くなってきた九月の中頃だった。
私は朝起きると見たことのあるようなないような男のベットにいた。ああ、またやってしまったと思いながら、昨晩の記憶を思い返す。昨日は確か親友の文花に誘われて久しぶりに飲みに行った。酎ハイを二杯ほど飲み自分の予想以上に酔ってしまっていた事までは覚えている。「なんで文花の送り断ったんだろう」と独り言を言っている、そんな中でも男は起きそうにない、しかもうつ伏せで寝ているせいで顔を確認しようにも怖くてできない。
とりあえず下着をベット脇に探しに行ったが見当たらない。それは洗面所まで行くとやっとお目当てのものがあった。
「この男意外と悪い男じゃないかも」
そのときなぜ私がそう思ったのかは多分二日酔いと下着を綺麗に畳んでおいてくれるという二つが合わさったからだろう。
そう思っていると、寝室から布団の擦れる音が聞こえた。急いでソファーの影に隠れた私は二十六年間ともに歩んできた心臓が強く鼓動していることに気がついた。そして布団の中から出てきた男に私はキョトンとするしかなかった。
「え、海斗?」
「なんで海斗が私と寝てんの?」
私はどうなっているのか訳がわからなかった。しかも自分が海斗のことを少しでもいい男と思ったことに少しイラついた。
海斗は大学二年生の頃にほんの一瞬付き合っていた男だ。海斗は大学デビューして一年とままならない私に対し慣れない愛情表現をこれでもかと浴びせてた挙句3股が発覚し別れた。あの時はいい人生勉強になったと思って本人の前ではおとなしく別れたが、後から自分以外にもあんな甘い言葉を多用していたのかと思うととても納得できるものではなかった。それから私は彼のような人に引っかからないように男の人に舐められない態度を取って強く生きている筈だった。
「なんでってお前が急に泣きながら電話してきたんだろうが、まさか覚えてないのか?」
「え、ほんと?」
「嘘つく理由なんてないだろ」
この時私は本気で昨日の自分を机の上にあったガラスのコップでボコボコにしてやりたいと思った。
「大変だったんだけどお前の面倒見んの」
「そんな私やばかった?」
思い出そうとしたがやっぱり思い出せない。
「俺がおんぶしてるときに吐いたのどこの誰だ?」
「それはほんとにごめん」
吐いたことよりこの男におんぶされたことが何より悔しいこの気持ちから自分がどれだけこの男のことを嫌いなのかを再認識させる。
「じゃあ帰るね予定あるし。」
「お礼ぐらいしてくれてもいいんじゃないか?」
彼はいつもこうだ、なんだかんだ言って1秒でも長く私と一緒にいたがる。断る気力もなかった私はデタラメの用事を手帳から消して、適当にカフェで朝ごはんでも奢ると行って玄関先で彼を待った。
海斗が玄関から出てきたのは私が玄関から出て十分ほど経ったときだった。外は起きた時の涼しそうな天気から打って変わって強い日差しが照りつけている。しかも彼は近いからと言って私が別れを切り出したカフェにしようと言ってきたのだ。やっぱりクズ男って、変わらないのかと思いつつも何も思っていないかのような淡々と歩いた。
「ちょっとお手洗い行ってくる」
デリカシーのない彼と一端距離を置きたかった私は一回席をたった。
「お待たせしました、スペシャルモーニングプレート二つと、アイスコーヒーとアイスカフェオレになります」
戻ってきて席に座ろうとした時店員さんが料理を運びにやって来た。無論私は注文なんてしていない。
「勝手に頼んだのはいいんだけどなんでアイスコーヒーとカフェオレなの?」
「え、だってお前カフェオレ好きだったでしょ?」
確かに私はカフェオレが好きだが彼には一回も好きだなんて言ったことはない。
「なんで私がカフェオレ好きだった知ってるの?」
「いや、だってお前どんなカフェ行っても絶対カフェオレ頼むじゃん」
海斗は見せつけるように私に、にちゃっとした笑顔を見せてくる。私の心の中では彼とカフェに、行ったのは二、三回ではなかったかと考え出す。しかし、それと同時に毎回私の飲むものを覚えてくれていたという、ほんの少しだけどかなり久しぶりな感覚が頭を掛け巡った。
「元気にしてるの最近?」
カフェでの軽やかなな音楽と心の中で一人になれていた時間を彼は一言で壊してきた。
「ん、ぼちぼちかな」
私は自分の中の一番当たり障りのない言葉を言った。
「ほんとに大丈夫なの?俺は全然大丈夫に見えないけど」
なんだこいつは、やはり失礼なやつだと繰り返し思っていた。「彼氏に浮気されて別れたんでしょ?」
その言葉を聞いた瞬間にこの季節にはありえない脂汗が身体中から溢れ出て来た。
「なんであんたが知ってんの……」
彼氏と別れて何もかも嫌になっているのは真実だが、そこのとは文花にしか話していない。私は文花が海斗と繋がっているという最悪の状況を予想して、もしそうだとしたら全力で文花を救おうというところまで考えていた。私みたいになる前に。
「何言ってんの、言ってきたのお前じゃん」
それだけはあり得ないと頭の中で考えている途中で彼は続けて言った。
「昨日、もうほんとに無理海斗助けてって泣きながら電話してきたじゃん」
ああ、昨日の私よいくらなんでもやりすぎじゃいか。
「あー、そうなんだ。なんも覚えてないや。まあ彼氏と別れたのは事実だよ。」
私は強がった、そうしないとまた前と同じように彼に呑まれるてしまいそうだったから。
「なんていうか大変だったんだな。その人どんな人だったの?」
「とっても誠実で私のことを1番に考えてくれる人」
「お前やっぱ変わってないんだな」
「は?」
「ずっと傷つけられる側だなってこと」
「なんか痛いところついてくるね」
確かにいつも傷つけられて私の恋愛は終わっていく。まず私は人のことを好きになるとその人のことしか考えられなくなるタイプなので浮気をする人の気持ちがわからない。
「私、浮気する人の気持ちが分かんないの、なんで浮気するの?」
「愛を求めすぎてるからじゃない、人って何かを手にしたら飽きがくるし、段々それだけじゃ満足できなくなってくる。愛って永遠とかいうけど、そんなの幻想で賞味期限付きのとっても甘いお菓子みたいなもんだよ。気持ちの賞味期限はいつかくるからね。」
「実際に浮気した人が言うと説得力があるな」
なんで私はこの男と恋愛について話しているのかと我に返ったので少し急ぎめにモーニングプレート食べ、朝食にしてはやや躊躇する値段を払いカフェの前で別れた。
「じゃあまたね。」
彼は付き合っていた頃と変わらないトーンで別れを告げた。
私は聞こえてないふりをしてそそくさと帰路に着いた。
私は都内の広告代理店で働いており、やっと仕事に慣れてきて少しずつ仕事を任せてもらえるようになってきている所だ、仕事の面では日々新しい事を知ることや経験できるためとても充実している。
しかし恋愛はと言うとこれと言っていいほどいい男に出会えていない、大体自分が誰かを好きになり、平均より良いルックスにより大体すぐ付き合うとこになる。そして、いつも相手の浮気が判明してこちらから振るというのがパターンになってしまっている。
最初の方はどうしてこんなにも男の見る目はないのかと反省していたが三人連続で浮気されていた時にはとうとう男は浮気する生き物であるという結論に至ってしまっていた。
こんなにも男を心の中で軽蔑しているのにも関わらず、すぐ新しい人を好きになりその人しか考えられなくなりこの人は絶対浮気しないと自分の良いように考えてしまう。
振られた直後いつもその考えをやめなければと思ってはいるがどうしてもあの恋に落ちた時の催眠はその時に解くことはできないのだ。こんなことを考えていたら私は大学生の頃から何も変わっていなとまたため息をついた。
カフェオレ 芦田 白 @sora40228
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