第3話
わたしは真実を告げようと思った。タイミングは何時にしようと考えながらいつもの場所へ向かうと、先に未希の立ち姿が見えた。「おーい」と呼び掛けながら近寄ると足元に死体が転がっていた。注視すればそれは舟見の死体だった。
「…………舟見が!」二日連続となる村人の悲劇に座り込み、舟見の大穴の空いた胸を覗く。ドロンと流れる血液からして死んでからそう時間は経っていない。辺りに血痕は無いことから別地点より持ち運んだのではなく、集合を利用して殺害したと思われる。立ち尽くしたままわたしを見下ろす未希はショックのあまり声が出ないのか。一体誰がやったのだ、恐怖の根源を求めれば彼女が振り返る。
「舟見を食べちゃった」未希は光の失せた瞳からわたしを捉えて言った。棍棒を背中に隠し、スカートが脱げそうな程赤色に染まり唇にもその一部が貼り付いていた。親友が友達を食べた。立て続けの残飯との邂逅に人間性を失いそうになるが、何とか意識を保って問う。
「何で……?」
「舟見の発言の真偽を確かめたかったから。結果は真だったよ。だから食べなくても良かった」舟見の記憶に加えて梶里咲の記憶を手にした未希は梶里咲がフレネッタを食べる光景を追憶したのだろう。これで未希が嘘を吐いているならば次はわたしが食べられる場面だけど、恐らく正しい証言だ。嘘というより真実の一部を見たのだろうけど。だが何より今まで共に過ごしてきた十数年をそう簡単に噛み潰してしまって良かったのか。
「そんなグチャグチャに……」
「説得力を出す為に敢えて食べ残しにしたの。あと噛み切れないし」
「…………味の感想は」気が動転してこれしか言葉に出来ない。
「そんなことが知りたい?」汚れた歯を剥き出し、先程殺人したばかりの人間が迫って来て言う。
「美味しくはないよ、そりゃあ。脂肪分が多い」やはり女性の肉は質が落ちるのねという狂人嗜好は脇に置いて、彼女の振る舞いからして人食が未体験というのは嘘であったようだ。何処で誰を、何人を食べてきたのかはもうどうでもよかった。
「私達だけ生きていればそれで良いでしょう?」彼女の言葉はとても嬉しく共感出来るものだが、現実は人殺しが易々と道を歩けるような造りではない。今後の人生計画の一案として、初めに言おうと思っていた台詞を再度準備する。
「……わたしからも一つ告白があるよ」食べない目的の一つにわたし達の為の夢があった。
「わたしを食べて?」食べられないなら、食べられてやろうと思った。
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