第2話

 翌日正午、昨日と同じ場所で三人を待つ。あの後犯行時刻と各自のアリバイを照らし合わせ推理を巡らせたが、犯人の目星は付かなかった。容疑者候補が目撃証言を集めるのは厳しく関門はいざとなれば無視出来るので証拠にならない。とは言えこの事件は村の存続に関わるので、一日かけて山の何処かに真犯人が隠れていないか探しに回った。

 暫くして未希と汚れた舟見が来て「他には誰も居ない」探索の結果を報告する。実は二人の共犯で今の内にわたしを抹消する可能性は無いと思いたい。梶里咲を待つこと三十分、中々現れないので「あいつは何処に居ます?」苛立ちを言語化する。どうせ忘れて森の奥でバナナでも貪っているだろうけど。

「アタシ、誰が犯人か分かった」すると舟見が話を遮って重大発表を宣言した。自分が犯人でしたという冗談を告げる雰囲気には見えなかった。

「「誰ですか!?」」未希とわたしが声を揃えて答えを嘆願する。舟見は酷く落ち着いた空気を介して言った。

「梶里咲を食ったら記憶が出てきた。梶里咲がフレネッタを食った」衝撃の発言にわたし達は数秒固まり、漸く潤いを回復させた眼球から彼女の口角を捉える。指先にはキラリと光る水色の糸が靡いた。

「……あの子を食べたんですか?」信じられない未希が恐る恐る確認する。

「おう。アイツが怪しいのは目に見えていただろ?食べれば記憶を探って真実を解明出来ると思った。予め跡をつけておいて、夜明け前寝ている隙に首を絞め殺して、後は早めの朝ご飯とした」自信満々な笑顔で言うけれど、当てが外れたら更なる被害者を生み出すつもりだったのか。元々破天荒な梶里咲と静寂を愛する舟見の相性は悪く喧嘩ばかりしていたが、嫌いな奴を食べた感触はどうだったのだろう。あるいは本心では好きだったのか、嫌よ嫌よも腹の内なのか。

「お味は如何でしたか?」あまりの出来事に下らない質問しか出てこない。

「あぁ不味かったよ」正直な答えからは相手が死体になろうと態度は一貫することが分かった。どのような調理で食べたのか気になるけどこれ以上は止めておこう。

「という訳でもうお腹一杯だからアタシの分は要らないぞ」山菜採り用の鎌を見下げる彼女が伝える。人を食った態度とは正にこのことだなと洒落気に浸る余裕は無く、未希と顔を合わせた。

 さて舟見の言っていることは事実だろうか。事実とすれば梶里咲が好奇心か何かでフレネッタを食べたとなるが、虚偽とすれば舟見がフレネッタを殺して濡れ衣を着せる為に梶里咲を食べたのかもしれない。何にせよ仲間を食べた事実に一歩退く。こちらを見遣る彼女にとって証人は多い方が良いので今わたし達を殺す理由は無いはずだ。しかし三人の空間で一人が犯罪者であるとは共有し難い。このまま口車に乗り梶里咲を犯人とするか、舟見の隠し事をどうにかして暴くか。

 倉庫で孤独に映るテレビを頼れば、例の事件は今の所ニュースにはなっていない。三日後、トーマスに何と説明すれば認められるのだ。下手に故人の犯行とすれば怒り狂って連帯責任になるかもしれない。村は未希と暮らす大切な場所、二人きりの逃避行はまだ早い。

「じゃあまた」腹心を布き終えた舟見の後ろ姿を未希が眺める。わたしは虫の音に悩まされ、判断に迷うまま夜を追いかける。

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