第23話 大好きなみんなと

 2時間ほど酒屋でみんなと酒を呑んだ。さらに酒が回ってしまったようだ。お会計を済ませ、外へ出たが、まっすぐ立つことができなかった。私は健二の肩に掴まった。


 「おい一倉、吞みすぎたんじゃねえのか?ほどほどにしないから」


 「だって、楽しいんだもん…。みんなと吞むの…」


 私がそう返すと、健二と拓真はやさしい表情になった。そして、私はこう続けた。


 「こうやってみんなと呑んで、お話しして、男の子のこと知って、友達になって…。私の嫌な記憶を吹き飛ばしてくれてありがとう、みんな…」


 それを聞いた健二と拓真は私の肩をやさしく叩いた。そして、拓真が口を開いた。


 「男のことは知れたんだから、次のステップに進まなくちゃな、一倉は」


 「そうだな!」


 「次のステップって…?」


 「交際相手探しだろ?」


 「普通の恋愛がしたいんだろ?」


 「うん…。でも、見つかるかな…」


 「見つかるだろ。いろんなとこに顔出せば」


 「公園でも、スーパーでも。いろんなとこに男はいるんだからよ」


 「見分ける力はついてきたろ?」


 「悪い男をさ」


 私は少しの沈黙の後


 「うん…」


 と返した。


 だが、実際に交際まで発展するだろうか。私はそれが心配だった。弱気な私を見て、健二はこう語りかけた。


 「一倉は恥ずかしがり屋なところがあるからな…。告白されてもうまく返事できないかもな」


 「恋愛に関してはほんとにダメだから私…」


 「結局、それが原因で交際まで発展しないってことがあるかもしれないな」


 「交際まで俺達がサポートするしかないか…」


 「まあ、そうなっちゃうよな」


 「ごめんね…。こんな女で…」


 「気にすんなよ。恥ずかしがり屋も一倉の魅力なんだからさ」


 「より可愛く見えるからな」


 「たくちゃん!」


 3人で笑いを交え、道を歩いた。


 十字路が見えてきた。私達3人以外は違う方向だ。私はお礼を伝えた。


 「みんな、ありがとう。私と仲良くしてくれて」


 すると、みんなやさしく声を掛けてくれた。言葉1つ1つに私への愛情を感じ、涙が出そうになった。


 しばらく談笑をした後、みんなと別れ、再び3人で会話をしながら歩いた。


 「気に入った奴いたか?」


 健二の問い掛けに、私は顔を赤らめた。私は「みんな」と言いたかった。


 「まあ、あいつらの中から探すってのもありだし、他の男見つけて交際に持っていくってのもありだぞ。自由だからな、恋愛は」


 「気に入った奴見つけて、仲良くなって、一倉の魅力で落としてみろよ!」


 2人の言葉で前向きに恋愛できるようになった気がした。


 歩きながら話題は拓真の恋愛へ。


 「拓真、恋人の女の子どうするんだよ」


 「どうするって…」


 「このまま終わっていいのか?」


 「終わらせたくないけどさ…」


 「連絡してみたら?たくちゃん」


 拓真は少し悩んだ後、恋人に電話を掛けた。


 「出てくれるかな…」


 数回のコール音の後、恋人が電話に出た。


 「好美。ごめんな、あんなこと言って…。俺が悪かった。謝っても許してもらえないだろうけど…。なあ、俺達また…」


 私と健二は拓真の様子を見守った。


 「ほんとか!?ありがとう!」


 どうやら仲直りしたようだ。私と健二は微笑んだ。


 「よかったな、拓真!」


 「ありがとう!2人のおかげだ!」


 「俺達のおかげかよ!」


 「私達、たくちゃんの役に立ってたの?」


 「見守ってくれたおかげだ!」


 普段は落ち着きのある拓真が珍しくはしゃいでいた。その姿がとても新鮮だった。


 「たくちゃん、幸せそう…。おめでとう、たくちゃん」


 そう言うと、健二がこう返した。


 「一倉も幸せにならないとな。拓真以上に。一倉に不幸は似合わないからな」


 「健ちゃん…」


 「一倉が幸せになってくれないと、俺も拓真も愛梨も3日くらい眠れなくなる」


 「それは噓でしょ?」


 「バレたか!ははは!」


 「もう!あはは!」

 

 はしゃいでいる拓真を見ながら健二と言葉を交わした。


 再び3人で歩き、分かれ道で2人にお礼を伝えた。


 「今日はありがとう!誘ってもらえて嬉しかった!」


 「楽しんでもらえてよかったよ!」


 「また遊ぼうな!」


 「うん!」


 2人に笑顔で手を振った。2人は私の姿が見えなくなるまで見届けてくれた。私はまだ余韻が抜けなかった。


 10分ほどして、アパートに到着した。翌日は出勤。私は持ち物を準備した。


 すると、携帯電話にメールが入った。


 (藍子からだ…)


 「楽しめた?」


 私は文面を見て、笑みを浮かべた。


 そして「楽しかった!」と返信した。


 「よかったね!明日お話聞かせてね!」


 翌日。藍子に前日のことを話した。


 「よかったね…。ほんと…」


 「何で泣いてるの!?」


 「泣いてないよ!」


 「だって、ほら…」


 「玉ねぎ切ったから」


 「いつ!?」


 私の幸せを自分のことのように喜んでくれた。


 「藍子、泣かないでよ。ほら、もう開店するから」


 「うん!」


 涙を拭き、お客さんを出迎えた藍子。



 「優奈ちゃん、昨日は楽しめた?」


 「はい!」


 「よかったわね!」


 お客さんとの会話の中で、こう聞かれた。


 「もう1つの幸せは見つかったの?」



 もう1つの幸せ。それは数か月後に掴んだ。


 あえて誰かは言わない。


 心の底から私を愛してくれる男性ひと…。

 

 その数年後。その男性ひととさらに大きな幸せを手に入れた。


 私はその後も仕事を続けている。大好きなみんながいるから。



 「ユウちゃん、今度遊びに行こう!」


 「アンタがいないと盛り上がらないからね」


 「行こう!行こう!」



 「いらっしゃいませ!あれ!」


 「一倉!」


 「珍しいね!というか似合わないね、健ちゃんとたくちゃんがカフェって」


 「ははは!」


 「まったくだ!」



 「優奈ちゃん、残ってくれて嬉しいよ」


 「いなくなったら寂しいからね」


 「結婚しても続けますよ!」



 「来ちゃった!」


 「あなた…!」


 たくさんの幸せを噛み締め、今日も笑顔でお客さんを出迎えた。

 

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遊ばれ女の優奈 Wildvogel @aim3

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