第22話 9人の友達

 夕方6時前、私達は座敷のある酒屋に入った。私達は大きな座敷の個室に通された。


 私の右隣には大宮晋おおみやすすむ。左隣には斎勇人さいゆうとが席に着いた。私は2人会話をした。


  「俺、大宮晋」


 「俺は斎勇人。よろしくね」


 「よろしく!」


 2人はバスケットボール部に所属していた。どちらも短髪で爽やだった。


 「勇人、休憩中によく陸上部の練習見てたよな」


 「まあ、優奈ちゃん目当てでな」


 「そうだったの!?」


 「俺が声掛けてもなかなか気付かなかったよな、勇人」


 「夢中だったからな」


 「ちょっと!」


 また赤くなってしまった。


 「晋、別の女の子と迷ってたよな」


 口を開いたのは私の右斜め向かいに座っていた千田智樹ちだともき。2人と同じく、バスケットボール部に所属していた。


 「ああ。春香ちゃんとな。結局、どちらにも告白できずに卒業しちゃったけど」


 「春香ちゃんか…。そういえば、優奈ちゃんって春香ちゃんと仲良かったよね」


 西宮春香にしみやはるかは私の友人の1人。3年間同じクラス、同じ陸上競技部に所属していた。中学校時代、苦楽を共にした仲だ。


 「春香にはほんとによくしてもらったな…。一緒にお出掛けしたり。卒業後も頻繁に会ってるよ」


 「そうなんだ。久しぶりに会いたいな…」


 「何だ、告白するのか?」


 「恋人いそうだけどな!」


 彼女は現在、出版社に勤務している。昔から本が好きで、いつか本の製作に携わりたいという思いから出版社に就職した。


 「春香、恋人いないって言ってたよ」


 「おい、チャンスだぞ、晋!」


 「待てよ智樹!会えるかもわからないのに」


 「恥ずかしいのか?」


 「いや、そういうわけじゃ…」


 私はあることを思い出した。


 「春香、土日はさっき行ったショッピングモールに行ってるらしいよ。本好きだから書店で面白そうな本探してるんだって」


 「だってよ、晋!」


 「書店か…。漫画買いに行った時にいるかな」


 「昼の1時から3時過ぎくらいまで書店にいるらしいから会えるかもよ!」


 「行ってみようかな」


 「行ってみろよ!晋」


 智樹に背中を押され、晋は書店に行くことを決意したようだ。


 話題はそれぞれの恋愛についてになった。


 「勇人は付き合ってる子いるんだろ?」


 晋の問いに勇人はこう答えた。


 「いるにはいるけど、なかなか時間が合わなくて、会えないんだ…」


 「そういえば、その子忙しいんだってな」


 「連絡は取ってるんだけどな。忙しくてなかなか返信が来ないんだ…。ちょっと寂しくてさ…」


 勇人は高校時代のクラスメイトだった女性と交際している。だが、相手の仕事が忙しく、2カ月ほど会っていないそうだ。


 「別れようとは思わなかったのか?」


 「まあ…、お互いのために別れようとも思ったんだけどさ、向こうから別れたくないって返信が来てさ。悲しませたくないから別れずに今も交際を続けてるんだ…。けど、辛くてさ…。会えないのが…」


 私はその話を聞いて、勇人にこう声を掛けた。


 「その子は時間を作ろうとしてるよ。勇人君のために。時間ができるまで待ってほしいんだと思う。時間ができればまた会えるよ!」


 その言葉で勇人は腕を組んだ。


 「そういえば、別れ話を切り出した時、『もう少しで会えるから』ってメールが来たな」


 「もう少しだけ待ってみろよ、勇人!」


 「待ってみてもいいのかな…」


 晋の言葉で勇人は会える日を待つ決意をした。晋の表情は暗い表情から一転して晴れやかになった。


 私達はお酒を呑みながら中学校時代の思い出などを語り合った。


 しばらくして、私はお手洗いに立った。その時、少しだけ足がふらついた。お酒が回ってきたのだろうか。


 すると、女性2人が私の体を支えてくれた。


 「酔っちゃった?」


 彼女は河原育美かわはらいくみ。黒髪でポニーテール。


 「私達も行こうとしてたから一緒に行こう!」


 彼女は白川佳苗しらかわかなえ。茶髪でショートカット。


 私は2人と一緒にお手洗いへ向かった。私がお手洗いから出ると、2人が待ってくれた。私達は一旦、店の外へ出た。そして、育美がこう話した。


 「優奈ちゃんって好きな男の子いるの?」


 「え…。いないよ、そんな人…」


 「あはは!まあ、言いづらいか!私も言いづらいもん!」


 「育美の好きな人ってどんな人なのか知りたい!」


 「秘密!」


 「ずるい!」


 2人のやり取りを微笑みながら見ていた。


 (好きな人か…。私の場合は…、私のことを好きでいてくれる人…。かな)


 どのくらいいるだろうか。そんなことを考えながら2人のやり取りを見ていた。


 「そういえば、佳苗って恋人いるよね!どんな感じ?」


 「まあ、いい感じっていうのかな」


 「よかったじゃん!」


 「佳苗ちゃんの恋人ってどんな人なの?」


 「年上でね。高校時代の先輩なんだ。優しいし、かっこいいし。言うことなしって感じ!」


 佳苗は嬉しそうに話していた。羨ましいとは思いつつも、私は幸せな気持ちになった。その後、私達は他愛もない会話で盛り上がった。


 しばらく3人で話していると、拓真が私達を呼びに来た。


 「ここにいたのか。お前らがいないと盛り上がらないんだから早く戻って来いよ!」


 「ごめん!拓真!今日もかっこいいね!」


 「何言ってんだ育美」


 「2人、仲良いよね!」


 「からかわれてるだけだよ、佳苗。行くぞ」


 少し呆れたような口調で拓真は返していた。私は3人のすぐ後ろを歩いた。


 すると、拓真が微笑みながら振り向いた。そして、小さな声でこう呟いた。


 「よかったな!一倉!」


 私は微笑みながら小さく頷いた。


 新たに男女9人の友達ができた。


 (健ちゃん、たくちゃん、愛梨、みんな。ありがとう…!)


 戻った個室にはみんなの笑い声が響いていた。

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