第21話 愛され女
「捕まえた!」
「一倉、足速いんだもんな…」
「逃げきれなかったな、健二…」
2人に追いつき、2人の肩に手を置いた。そして、私も中学校時代を思い出していた。
「懐かしいね。中学時代もこうして2人を走って追いかけたっけ…。2人がちょっかい出すから」
「あの時から変わらず足速いぞ、一倉は」
「健二、逃げ切れなかったもんな。まあ、俺もだけど」
「ふふーん!」
2人の肩を「ポンポン」と叩き、会話をしながら歩いた。すると、拓真が私を見つめながらこう話した。
「よかったよ…。一倉がまたこうやって元気に俺達の前に顔見せてくれて」
「ちょ、ちょっと、どうしたの…」
「心配だったからな…」
「俺も…」
「泣きそうになってない!?2人とも!」
中学校時代を思い出してだろうか。
「泣かないでよ、2人とも。めったに泣かない2人が泣いちゃったら私まで泣いちゃうよ…」
2人の目を見ると少し赤くなっていた。2人は袖で目を抑え、何かを我慢する様子を見せた。
「あ…、目に何かゴミでも入ったか」
「赤いぞ、健二」
「拓真も赤いぞ」
「ほんとか?」
お互い、あっかんべーをするように目の下を広げた。そして、2人はそのまま私に顔を向けた。あっかんべーをしたまま。
「なんてな!泣くわけないだろ、俺達が!」
「そうそう!」
「もう!騙したね!?」
「ははは!」
「2人とも…!」
だが、私は自然と笑顔になった。2人も私につられるように笑顔を見せた。
「こうやって騙されなければいいんだけどな、一倉は」
「やっぱり心配だな」
「ごめんね、心配かけて」
その後も3人で会話をしながら道を歩いた。
数十分後。私達はスポーツエンターテインメント施設へ着いた。施設内にはビリヤード台やバッティングセンター、ボルダリングコーナーなどがある。
「一倉、こういう場所好きだろ?スポーツ好きだし」
「健ちゃん、分かってるね!」
各々、自分がしたいスポーツを楽しんだ。私はボルダリングコーナーへ向かった。
(やってみたかったんだよね!あそこまで行けるかな)
私は壁を登り始めた。その様子を健二を含む多くの利用者が見ていた。私は少し恥ずかしかった。
「おお…!」
「凄い…」
そんな声が飛び交った。
(照れちゃうな…)
気付くと最上部に達していた。私は壁を降り、着地した。
すると、若い男性に声を掛けられた。
「お姉さん、凄いね。ボルダリングやってたの?」
「いえ、今日初めて登りました」
「初めてであそこまで登れたの!?」
男性はとても驚いていた。
男性は頻繁に施設に通っているそうだ。だが、最上部に達するまでにはだいぶ期間を要したそうだ。
しばらく言葉を交わし、男性と別れた。そして、健二が声を掛けた。
「一倉、凄いな!あそこまで登れるのか!」
「気付いたら最上部にいた」
「気付いたらって…。それも凄いけどよ!」
「優奈ちゃん、凄いね」
声を掛けてきたのは水野凛太郎。キリっとした顔をした男性だ。
「凛太郎っていうんだ。一倉と同じ陸上部だったんだぞ」
「多分知らないよね。別々に練習してたから」
凛太郎は砲丸投げの選手として大会に出場し、県大会入賞を果たした。現在、飲食店で働いている。
「凛太郎、よくここ来てるもんな」
「ボルダリングやりたくてな。でも、最上部まで登れなくてさ」
「登れそうなのにな」
「まあ、筋持久力とかそういうものも必要らしいからな。俺にはそれが足りなかったのかもな」
「てことは、一倉にはそういうものが備わっているってことか…」
(筋持久力…。私にあったかな…)
気付かないうちに鍛えられていたのだろう。
「足は速いし、ボルダリングで難なく最上部まで登っちゃうし。運動神経抜群だな、一倉は」
「羨ましい」
「勉強もできるしな」
「ちょっと、2人とも!」
「これで、男に騙されなければ完璧なんだけどね。優奈は」
愛梨がそう話した。
「そこなんだよな!」
健二は腕を組んで私を見つめた。
「でも、最近は声掛けられなくなったし、そのおかげで被害に遭わずに済んだし…」
「でも、俺達のジョークに騙されてるけどな」
健二は笑いながら話した。
「健ちゃんとたくちゃん、騙すの上手いんだもん!」
「遊ばれって意味では似てるかもな」
「でも2人の場合は、優奈のこと大事に思ってるからこそ、そういうことをしちゃうんだと思うよ」
「まあな。大事に思ってなきゃあんなことしないさ。拓真も同じだ」
「照れちゃうな…」
「これはほんとだからな!」
愛梨は私の肩に手を置いた。
「よかったね!みんなから愛されて」
「一倉の魅力がみんなを虜にしてるのかもな。男女問わず。いずれ、その魅力に気付いて本気で好きになってくれる男が現れるさ!」
「そうだよ!」
私は2人の優しさに涙が出そうになった。私が涙を堪える姿を見た健二と愛梨は私に目線を合わせ、こう言った。
「おい!何、泣いてんだ。一倉!」
「優奈、どうしたの!?急に泣き出して!」
すると、その様子を見た拓真が私達の元へ歩み寄った。
「健二、何泣かせてんだよ!」
「俺かよ!愛梨だろ!」
「私!?凛ちゃんでしょ!?」
「俺、何もしてないだろ!」
「同罪だ!お前ら!」
「一倉!俺達が悪かった!泣くなあ!」
施設内は笑いに包まれた。
喧嘩しているように見えるが、実際はじゃれ合っていたのかもしれない。
私を笑顔にするために…。
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