第20話 私の1番の魅力

 各々が買い物を終え、レストラン街へ向かった。ここでも各々が行きたいお店に散らばった。たくさんのお店がある。何を食べようか悩んでいた。歩いていると、あるお店を見つけた。


 (あ、ここ…)


 私が見つけたのはパスタ店だった。このお店は雑誌で紹介された人気店。お昼になると行列ができるほどだ。この日はそれほど混んでいなかった。すると、後ろから拓真が声を掛けた。


 「一倉もここ知ってるのか?ここのパスタ美味しいぞ!」


 「たくちゃん、このお店来てるんだ」


 「おすすめはカルボナーラだよ!」


 「美味しいよな!他のメニューも美味しいけど特にカルボナーラが」


 一緒にいたのは星野孝弘。拓真とは中学校時代、同じ部活動に所属していた。健二に負けないくらい恰幅の良い体系をしている。とても優しそうな雰囲気が伝わる男性だ。


 「健二と孝弘、よく休み時間に相撲取ってたよな。教室で」


 「あったな。健二、強くて1回も勝てなかったけどな!」


 3人で笑い合った。そして、3人で店内に入り、メニューを注文した。


 「星野孝弘っていうんだ。同じ野球部で」


 「まあ、俺のこと知ってるわけないよな。俺は優奈ちゃんのこと知ってたけど。拓真を通して」


 「よく聞いてきたよな。『どんな子なの?』『彼氏いたりするの?』とか」


 「必死だったな。ははは!」


 拓真曰く、クラスメイトの女子生徒から人気があったらしい。


 「人気あったよな。嫉妬したもん」


 「まさか、拓真より人気出るなんて思わなくて」


 「みんなを楽しませてくれたし。そりゃ、人気出るよな」


 「でも、拓真も人気あったじゃんか!他のクラスの子からバレンタインチョコ貰ったりして。俺が貰ったのほぼ義理チョコだったぞ!」


 「え!そうなの?」


 「知ってたろお前!」


 孝弘は笑いながらそう言い、拓真の肩を「パンッ」と叩いた。テーブルには笑いがこぼれた。


 私は孝弘をじっと見つめていた。


 「癒される…。孝弘君見てると」


 「マスコットみたいな存在だったからな。孝弘は」


 「俺、マスコットだったのかよ」


 「野球部とクラスの顔だったじゃんか」


 「嬉しいけどよ!」


 「そりゃ、女の子話し掛けやすいよ」


 「そうか…。マスコットキャラでよかった!」


 「ははは!何、開き直ってんだよ!」

 

 拓真は笑いながら孝弘の肩を「パンッ」と叩いた。


 「良いコンビだね!」


 「バッテリー組んでたからかもな!俺がピッチャーで、孝弘がキャッチャーだったから」


 「ははは!そうかもな!」


 しばらく話していると、メニューが到着した。私はカルボナーラを食べた。


 「美味しい!」


 「だろ!?このお店、孝弘に教えてもらったんだ。グルメっ子だから」


 「いろいろ知ってるぞ!」


 パスタを食べ終え、お会計をし、店を出た。


 店を出ると健二が孝弘に声を掛けた。


 「よかったな!会話できて」


 「夢が叶った!ありがと、健二!」


 「大袈裟だな」


 私達は笑って2人の会話を聞いていた。


 全員が集まり、ショッピングモールを出た。私は健二と話しながら道を歩いた。


 「孝弘はほんとに人気があったんだ。俺も嫉妬したよ。でも、あいつがいたから中学時代を楽しく過ごせたんだ。いい奴だぜ、拓真に負けず」


 私は孝弘を目で追った。楽しそうに愛梨と会話している姿を見て人柄の良さが伝わってきた。


 「たくちゃん、負けちゃダメだよ!」


 微笑みながら拓真に言うと、拓真はこう答えた。


 「多分、一生勝てない」


 「ちょっと!たくちゃん!」


 「弱気だな」


 「孝弘には俺にはない雰囲気があるんだ。それは、作ろうとしても無理なんだ」


 「まあ、俺にも作れないだろうな」


 「健ちゃんまで!」


 「一倉、これは後天的に作れるものじゃないんだ。孝弘が生まれながらに持ち合わせたものなんだ」


 「どんなに努力しても作れないだろうな」


 「そうなの…?」


 2人は「ああ」と声を合わせた。そして、健二が続けた。


 「一倉が話し掛けやすい雰囲気を持っているのも同じだ。後天的には作れない」


 「ああ。無理だろうな」


 「そして、俺達に元気をくれるからな。いてくれるだけで」


 「それだよ!一倉の1番の魅力は」


 私は照れてしまった。


 「ちょ、ちょっと2人とも…。冗談は…」


 「俺はほんとにそう思ってるんだ。この前、偶然コンビニで久しぶりに会った時なんかそうだ。楽しくてな、一倉といるのが」


 「俺もそうだよ」


 「照れちゃうじゃん!」


 だが、2人の表情は真剣だった。本当にそう思っているのだろう。


 少し間を置き、健二がこう話した。


 「一倉がすぐ照れちゃうのもそうだ。あんな頻繁に照れることなんてできねえよ!」


 「一倉にしかできないだろうな。どうやったらあんな頻繁に照れることができるのか教えてほしいくらいだ!」


 「ちょっと!」


 いつもの2人に戻った。だが、安心している自分がいた。


 「怒られちゃったな、拓真」


 「ああ。でも、怒ってもそこまで怖くないのも一倉って感じだよな」


 「まったくだ!」


 「ははは!」


 「2人とも!」


 「やべ!逃げるぞ、拓真!」


 「待って、健二!」


 私は走って逃げる2人を追いかけた。その姿を見て、愛梨は中学校時代を思い出していた。


 (中学時代と変わってないね、3人とも…。優奈、幸せ者だよ。いい友達に囲まれて…)


 2人を走って追いかける私をやさしい表情で愛梨達が見つめていた。

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