第19話 ありがとね
電車に乗り、吉田駅まで揺られた。到着するまで各々会話をして過ごしていた。すると、1人の男性が私に声を掛けた。
「優奈ちゃん。多分俺のこと知らないよね。田中陽太です。よろしく」
中田陽太。茶髪のミディアムヘアー。パーマをかけた髪型が特徴だ。拓真とは小学校時代からの友人だ。拓真は陽太にこう話した。
「陽太、中学の時、告白しようとしてたよな」
「うん。でも勇気が出なくてさ」
「今となっては信じられないけどな。陽太が告白できないなんて。今では…」
「おいおい!遊び人じゃねーぞ、俺は!」
笑いながらそう返していた。拓真はフォローするように陽太のことを話してくれた。
「陽太は小学校からの友達でさ。昔は気が弱くて、告白どころか女の子に声すら掛けることができなかったんだよ。それが今では話せるようになって」
「女性が多い職場で鍛えられたからな」
陽太は保育士として働いている。元々、子どもと関わる仕事をしたいと思っていたそうだ。高校時代に保育所でボランティアをしたことがきっかけで、保育士を志したそうだ。
「職場はほぼ女性だからな。最初は大丈夫かなと思ったけど、先生が気さくに声を掛けてくれて。そこから社交性が身に付いて」
「なるほどな。そりゃ、鍛えられるわな」
私も多くの男性と触れ合い、社交性が身に付くだろうか。少し、陽太が羨ましくなった。
「陽太って結婚したらいいお父さんになりそうだよな」
「そうか?拓真もなりそうだけど」
「俺も子どもは好きだけどいいお父さんになれるかは…」
「なれるって!」
私は陽太に続いてこう口を開いた。
「たくちゃんはダメなところをしっかり指摘してくれるし。いいところは褒めてくれるし。なれると思う」
「そうだよ!」
「そうか?見てくれてるんだな」
拓真は少し照れた様子でそう話した。
「たくちゃんの奥さんになれる人が羨ましいな…」
「そういえば、恋人とどうなったんだよ?喧嘩したって聞いたけど」
拓真は腕組みをしながら答えた。
「今も音信不通でさ。多分、向こうは俺に愛想尽かしたと思う。まあ、自然消滅になっちゃうかな…」
「自然消滅か…。それも悲しいな…」
「まあな。だったら『別れよう』って言われるほうがまだよかったかもしれないな。未練なく別れることができるから、俺の場合は」
「スパっと諦めるもんな」
「昔からそうだったからな」
私は拓真にこう尋ねた。
「たくちゃんの好きなタイプって知らないかも。どんな人が好きなの?」
「そうだな…。話を聞いてくれる人かな。悩みとかも含めて。包容力があるって言えばいいのかな」
「包容力か…」
「例えば…、一倉みたいなタイプ」
私はその言葉にドキッとした。
「ちょっと!何言ってんの!?」
「ははは!また照れた!」
「からかったの!?」
「どんな反応するかなと思って!」
「もう!」
私は怒ったが内心、少し嬉しかった。
すると、陽太がその様子を見てこう話した。
「でも、合いそうだけどね、2人。多分、ちょっとやそっとのことじゃ喧嘩しないと思う」
「だってさ、一倉」
私はどう返していいか分からなかった。
健二はその様子を微笑みながら見ていた。
電車は終点に到着し、私達はホームへ降りた。改札口を通り、ショッピングモールへ向かった。
ショッピングモールへ着くと、各々欲しいものを探しに散った。私はアパレルショップへ向かった。
このショップではスポーツウェアも販売している。
(運動用に買おう。どれにしようかな…)
見ていると、気に入ったウェアを見つけた。デザインも素材も好みだった。私はそのウェアを購入した。袋を提げ、ショッピングモール内を歩いた。
すると、2人の男女の姿が見えた。大学生くらいの男女。だが、付き合っている感じではなかった。仲の良い友人といったところか。男の子は楽しそうに話していた。そして、女の子は楽しそうに話を聞いていた。
(たくちゃんはああいう風に話を聞いてくれる人を求めているのかな…。たくちゃんは私のことをそう思ってくれたんだ…)
内面を見てくれたことが嬉しかった。
その後、私は書店へ入り、小説コーナーで面白そうな本を探した。
(あ、これ人気なんだよね。映画化されるし)
その小説を購入し、ショッピングモール内の休憩コーナーに座った。子ども連れ、カップル、友人同士。多くの人が来ていた。
(私もいつか恋人とショッピングとかしたいな…)
そんなことを考えながら人の流れを眺めていた。すると、近くの店にいた愛梨が隣に座った。
「いつか恋人と…、って思ってたでしょ?」
「分かっちゃったか…」
「優奈の様子見てればね。大丈夫だよ、優奈なら。絶対いい人見つかるから。現にいるじゃん。一緒に来た男性陣。いいところも悪いところも全て受け入れてくれる人ばかりだから。まあ、男性と関わる機会を増やしたいというのが一番の理由だと思うから、無理にくっつけたりはしないよ」
しばらく愛梨と会話をした。
「ありがとね。来てくれて」
「どうしたの、急に…」
「嬉しくてさ…」
「健ちゃんも言ってたよ」
「みんな同じ気持ちだよ」
「ちょっと、泣きそうになってない!?」
うっすらと涙が見えた。愛梨は目元を拭い、こう話した。
「気のせいだよ!」
「いや、見えたよ。涙」
「泣き真似したからかな」
「何で!?」
その様子を健二と拓真がやさしい眼差しで見ていた。
(ありがとな。ほんとに…)
2人は心の中でそう呟いた。
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