第18話 幸せとは②

 朝6時過ぎ。この日は気持ちよく目覚めた。着替えを済ませ、朝食作りを始めた。


 (楽しみ!だけど、緊張してきた…)


 久しぶりに友人に会うということもあってだろうか。それとも、初めて会う人がいるからだろうか。いや、両方だろう。


 気持ちが落ち着かなかった。


 (私と話したことない人はどんな人が来るんだろう…。多分、健ちゃんと仲良い子だよね)


 鞄に財布などを入れた。


 (メガネは駅に着く前に外そう…)


 オシャレでかけようとも思ったが、なんだか気が引けてしまった。


 久しぶりに会う友人は私を見てどう思うだろうか。初めて話す子は私を見てどう思うだろうか。楽しみになったのと同時に少し不安になった。


 時計を見ると、9時30分。まだ時間がある。私はメガネをかけずにコンビニエンスストアへ向かった。といっても特に購入するものはなかった。気持ちを落ち着かせるためだったのかもしれない。だが、財布は持参した。


 店内に入るとあてもなく歩き回った。すると、カフェの常連のお客さんに会った。


 「優奈ちゃん!今日はお休みなんだ?今日お店行こうと思って」


 「麻衣子さん!今日お休みなんですよー」


 「そうなんだー。寂しいけど他のみんなにも会えるし、こうして優奈ちゃんに偶然会えたし。コンビニ来て得した気分!」


 「もう!麻衣子さんたら」


 私はお茶を購入し、店を出てしばらく麻衣子と話した。


 「今日は遊びに行くんだ!いいなー。楽しんできてね!」


 「ありがとうございます!」


 麻衣子と別れ、アパートへ戻った。


 (近所だし、メガネかけずに出ちゃった。でも、そのおかげで麻衣子さんに気付いてもらえてお話しできたし…)


 幸いにも、帰り道に被害に遭わずに済んだ。


 アパートに着き、部屋に入ってゆっくりした。


 テレビを観ていると10時30分になっていた。私はテレビを消し、坂下駅へ向かった。


 10時45分過ぎに到着し、みんなを待った。少しだけ緊張している自分がいた。みんなどんな反応をするのだろうか。受け入れてもらえるだろうか。そんな心配を抱えながらみんなを待った。


 数分後、誰かが私に手を振っている姿が見えた。女性のようだ。ロングヘアーの女性。


 クラスメイトだった三島愛梨だ。私が中学校時代一番仲が良かった友人だ。愛梨は小走りで私に駆け寄り、抱きついた。


 「優奈、久しぶり!いろいろ心配してたんだよ?被害に遭ったって話聞いて…」


 「愛梨も知ってたんだ…。ごめんね、心配かけて…」


 「無事でよかったよ…」


 「ちょっと!泣いてるの!?」


 愛梨は笑みを浮かべていたが、その表情にはうっすらと涙が見えた。


 愛梨と話をしながらみんなを待った。


 「優奈ちゃん?初めまして」


 しばらくして駅に着いた初対面の子が私に挨拶をしてくれた。私も挨拶を返した。


 小田雄一。短髪で爽やかな男性だ。愛梨の1年時のクラスメイトだ。


 「雄一、髪切ったんだ。爽やかになったね」


 「中学の時は長かったからな。営業してるから第一印象を良くしたくてさ」


 「似合ってるよ!」


 「嬉しいな!」


 雄一は部品メーカーの営業職に就いているそうだ。愛梨曰く、中学校時代はおちゃらけていたそうだ。だが就職後、真面目に仕事に取り組み、上司からは高い評価を得ている。


 「あの雄一が真面目になるなんてね。想像もしなかったな…」


 「社会に出ていろんな壁にぶつかって、人のやさしさに触れて…。そこから真面目に生きようと思ってさ…」


 「雄一らしくない台詞…。大人になったね」


 「俺もびっくりだよ。ここまで真面目になるなんて」


 2人は笑い合うと、愛梨が雄一について話してくれた。


 「雄一は1年生の時から優奈のこと知ってたんだよ。私と優奈が同じ部活ってこともあってよく話してて、その様子を見て…」


 「でも、なかなか声掛けられなかったんだよな。他の男子から人気あって俺なんか相手にされないなと思って」


 「恋愛は奥手なんだよね、雄一って」


 声を掛けようとしたが勇気が出ず、話すことができなかったそうだ。


 「でも、よかったじゃん。こうしてお話しできるようになって。営業やってるおかげかな」


 「多分な!」


 しばらく、3人で話をした。すると、続々と集まってきた。その中に健二と拓真の姿も見えた。


 私を含めて16人。私が話したことがない子は雄一を含めて9人。私は雄一以外の8人とも話ができるだろうか。


 そんなことを考え、切符を購入し、ホームに並んだ。


 電車を待っている間、健二と話した。


 「一倉、ありがとな。来てくれて。嬉しいんだ。俺もみんなも」


 「やめてよ、健ちゃん。照れちゃうじゃん!」


 「ほんとにみんな一倉に会いたがってたんだ。まあ、俺も拓真も同じなんだが」


 「もっと照れちゃうじゃん!」


 拓真はそんな私を見て声を掛けた。


 「一倉は昔からすぐ赤くなるよな。反応が面白くてクラスの男子がよくちょっかい出してたし」


 「俺達もよくやってたよな。懐かしいな…」


 2人は中学校時代を懐かしんでいた。同時に私は中学校時代を思い出していた。


 「私ってどう見られてたんだろ」


 「頑固なマドンナ」


 「ははは!そうそう!」


 「ちょっと、健ちゃん!」


 「わあ、一倉が怒った!」


 「雨降るかもな!」


 「たくちゃん!」


 拓真の言葉とは正反対に、雲から青空が顔を出した。


 こうして昔と変わりなく接してくれる友人がいることも幸せの1つなのかもしれない。

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