路上喫煙について
私はあまり外へ出る質ではないのだが、外へ行くと気付かれるのは、四方八方に張り巡らされた路上喫煙を律するための喚起文である。
それを見かける度に私は溜まらず立腹してしまうのだが、大抵の人はそうでもないらしい。
路上喫煙を制するための文句としてよく言われるのが、受動喫煙の危険性ということである。言わんとするところは、まあ、わからないでもないが、しかし、どうもそれには首肯出来ない。大抵の人間は、受動喫煙以上の害毒を外に向かって放ちっぱなしであることに無自覚すぎるのではないか。体臭や痴漢的遊戯などは言うに及ばず、街中での無邪気なる哄笑やじゃれ合いなどが傍にどれだけのストレスを与えているのか自覚がないのか。一歩外に出れば、世間は無意識の害毒という名の瘴気に満ち満ちているのだ。それをば、等閑にふしておきながら、紫煙として目に見えるタバコだけを槍玉に挙げて、禁じようとするのは、如何にも子供っぽい短絡なる思考回路ではないか。
よし全日本国民の皆様方がそんなにも子供じみた振る舞いを国を挙げて遂行しようと、そういうのなら、もう私などは、絶望して、見切りを付けるしかないのだが、しかし、この傾向は、何も本邦に限ったことではなく、むしろ、禁煙ムーブメントとは、世界市民たる自己意識、あるいは体裁を念頭になされた愚行であるからして、最早、逃げ道はないとしか、言い様はなく、まさにコスモポリタン的な暴力であって、喫煙者は世界中から伸ばされた健康的な肢体からリンチ、陵辱を受けているということであって・・・・・・そんな事を考えながら歩いた夜道から見えた、ネオンに邪魔されてその溌剌たる輝きを妨害された星々を見て、喫煙者は何れ喫煙所に留まらず、どこかここじゃない別の惑星に強制的に移住させられ、管理され、健康体に矯正されるか、それか、見捨てられて、異星人として迫害されるようになるのではないか、そして、この地球という青い惑星には、タバコも酒も知らない、健康体の、二百歳まで寿命を延ばした直系の人間たちがニコニコ貼り付けたような欺瞞的スマイルで生き続けるのであろう、などと考えてしまって、暗澹たる気持ちに陥らないわけにはいかなかった。
そも六十路まで生き延びてしまうことを、どこかで恥であるという風に、感じられない、夭折の美学すら持ち合わせていない人間とは、私は没交渉の感がある。しかし、何をいったところで、傍系の人間、否、喫煙星人たる私の話になど、だれも、耳を貸してはくれないだろう。
のほほん曼陀羅 春野明日羅 @wwawaka
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