【一話完結】不登校の僕、席替えで学校一の美少女の隣になると何故か溺愛されていた

マッソー!

不登校の僕、席替えで学校一の美少女の隣になると何故か溺愛されていた

「はぁ…」


僕こと鏡音瑠依かがみねるいは人知れず賑わいのある学校の廊下で溜め息をついていた。溜め息を学校でつく、それだけで何か察する人はいるのではないだろうか?


そう、僕は学校が苦手、というより本能的にダメなのだ。

ドラえ〇んがネズミがダメなように、僕も学校がダメ。

今だって廊下をぶるぶると震えながら歩いている。きっと周囲からは情けない僕が目に映っていることだろう。さながら生まれたての小鹿のような僕を見て嘲笑しているか、あるいはまるっきりの無関心か。


高校生にもなって情けない限りである。が、学校が全てなんて前時代的な考えを僕は持ち合わせていない。そもそも高校は義務教育の範疇ではない。

それすなわち、行かなくても問題はない、という風に受け取ることもできる。

もちろん、行けるに越したことはないし、今のご時世高校すら卒業していない人をどこが雇ってくれるのだろうか。だから僕は不登校を推奨しているつもりはまるでないし、不登校のリスクも十分に承知している。


さっきも言った通り中卒だと就職には厳しいという意見が世の中にはあるだろう。しかし僕はネットでハネた…もとい成功をした。

みんなは一度くらいは「切り抜き動画」というジャンルの動画を視聴したことはあるのではないだろうか。配信の一部分を切り抜いて面白可笑しく編集して動画投稿サイトに投稿するのだ。この「切り抜き」という事業だけで僕の稼ぎは月数十万は軽く超す。こんな稼ぎを高校生の内に覚えてしまったら会社で汗水垂らして働くなんて考えは浮かんでこないのだ。

まぁ、一人でも生活できる資金があるということが分かってもらえればいい。


場面を現実に戻すよ。

久しぶりの教室、緊張しないわけがない。そもそも僕はこの高校で色々な因縁が絡まり合って不登校になったのだ。胸が締め付けられるような痛みを感じる。

ドアの前で情けないことに膝が泣いている。

しかし先生の指定する日に登校すれば進級させてくれるというのだ。

なんて僕にとって甘く、温い言葉だろうか。

高校卒業の肩書は欲しい。あるに越したことはないのだ。


僕は覚悟を決めてドアをスライドさせた。

すぐに何名かの視線が僕に刺さった。が、顔を無表情にしてスルーする。

今は君たちに反応するわけにはいかないのだ。

僕は何事もなくこの登校日を終えたい。

僕は席を探すように視線を彷徨わせる。


「どこだ……」


思わずそんな声が出るくらいに頭と目を酷使した。


「あれ、おかしいな…」


見当たらない、うん。まさか「お前の席ねぇから!」されたわけじゃないだろうし。記憶の回廊を探すが…ない。

いや、ないわけではないのだ。

きっと、恐らく、多分、maybe、十中八九、僕の席は窓側の一番後ろだったはず。

しかし、その席はすでに埋まっている。

陽キャに占領されているわけではないだろう。そこに座っているのは失礼ながらも陽キャといった部類の人間には見えなかったから。つまりそこが座っている人の席なのだ。

その人の席。僕の席ではない。


「あぁ…そういうことか」


僕の中で答えが見つかった。

きっと『席替え』をしたんだろう。それなら腑に落ちる。

いやはや、まさか僕がそんなことを見落とすなんて。

しかし困った。それじゃあ僕の席はどこだろうか。

勿論のことながらこの学校に「俺の席どこだっけ?」と聞けるような友人は存在しない。なぜなら不登校だから。悲しいかな。


仕方ない、朝のHRが始まるギリギリまでトイレで過ごそう。

緊急退避場所としてトイレは極めて優秀である。

一人で昼食を食べても何も、誰の干渉を受けることがないのだ。

なんて優秀な場所だろうか!一人で弁当を食べると教室だと周りの視線が気になる。屋上なんてそれこそ陽キャの溜まり場、小説のような僕たちのような人間の特等席というわけではないのだ。

まったく、僕の友達はトイレだったようだ。

僕は友人の場所トイレに向かい、時間をつぶしにいった。



トイレで過ごすこと数分、スマホを取り出し時間を確認するともうそろそろ始まる、といった時間だったので教室へともう一度向かう。

空いてる席が二つ以上あったらどうしよう…今更ながらこの作戦の穴に気が付いてしまった。えぇい、なるようになれ!

教室のドアをもう一度開ける。


「うぐっ…」


ほとんどが席について担任が来るのを待っていた。

残念ながら都合よく僕の席だけ空いている、なんてことはなかったようだ。

はっきり言おう詰んだ。しらない誰かがチェックメイトだ!と言ってる幻聴すら聞こえるくらい僕は混乱した。

視線を彷徨わせる。教卓の前に一つ、廊下側の一番後ろの席が一つ、中央に一つ、窓側の一番前の席が一つ、といったところだろうか。

席をざっと見てみるとどうやら男女が混じっている。それも規則正しく。男の後ろは女、女の後ろは男、といった具合に。同性同士が隣り合っている所は無さそうだ。つまり女子が隣の席が僕の席の可能性が高い。

もう一度空いている席を見てみる。

見たところ三つの席が女子が座るところ、二つの席が男子の座るところといったところだろうか。しょうがない、賭けるか。大丈夫、当たりとハズレの二択じゃないか。確立にして50パーセント。無理だな。

僕は覚悟を再度固め、教卓の席の一番前へと歩きだしたところ――


「あぁ鏡音、お前の席は廊下側の一番後ろだ」


背後で凛とした女性の声が聞こえた。間違いない担任だ。


「あぁ、そうなんですね」

「悪いな、席替えした後の鏡音の場所を知らせてなかった」


ほんとだよ。しかし正解は廊下側の一番後ろの席だったらしい。

なるほど、僕は賭けに負けたらしい。これには素直に先生に感謝しよう。

おかげで勘違いしたまま生活せずにすんだ。

廊下側の一番後ろか、格好の陰キャポジだ。

これ以上ないくらい僕にぴったりの場所だ。


僕は先生に教えてもらった席に移動する。

周りに友達がいるかなんて確認が必要無いのがボッチの特権。

これは強がりなんかじゃないからな!

席に腰掛ける。これで僕の一日に憂うものはなくなった。

精々なにもわからない授業を右から左に流しながらも眠らないように頑張ろうか。


ふと、僕の隣の人物が気になった。不登校の隣なんて、僕だったらごめんだ。

ちらっと左を見やる。「あっ…」思わず、そんな声が口から洩れた。


僕の隣にいた人物は、黒髪ロングの清楚系美少女。それに尽きた。

まず目を見張るのは大きな黒の瞳。オニキスという黒の宝石がある。まるでその宝石かのような輝きがあった。そして形のいい細い眉。その眉がより一層瞳を際立たせているのは一般人の感性を持つ僕でもわかった。

そしてそこにある、存在感が限りなく薄い鼻。

唇はほんのり桃色で瑞々しくもあり、思わず触れてみたくなるような魔性の魅力があった。そしてなんといってもその、白の肌。まるで雪国からやってきたかのような白さだ。間違いない、僕の隣の女子はこの学校で一番可愛い。


だからだったのか。先ほどからの周りの男子からの殺意の籠った視線を向けられているのは。確かにそりゃそんな目を向けたくなる。たとえこの子の隣が僕じゃなく、イケメンだったとしてもそういう視線を向けられていただろうということは想像に難くない。

そのくらい、僕の隣の子は可愛かった。僕がこれまで見た中で一番だった。

テレビの向こう側にいてもなんら不思議ではない容姿をしていた。


ふと、彼女と目があった。まずい、僕の視線が不快だっただろうか。ジロジロみていてもあまり気分の良いものではないだろう。

目を逸らそうとすると、彼女が、そのあまりにも可愛らしい作り物のような顔を緩ませた。そう、笑った。にこやかな笑みを、この僕に向けた。

逸らそうとしていた僕の意志を、簡単に揺らがせる笑みだ。

目と目が合う。ただそれだけで僕の心は魅了チャームにでも罹ったかのように釘付けにされた。

否応にして、僕の鼓動が高鳴る。こんなに鼓動が高鳴ったら相手に聞こえるのかな、なんてことは考えなかった。僕が思ったのは、鼓動がこんなに高鳴ったら死んでしまうのではないのだろうか、というロマンチックの欠片もないようなことだった。


「ふふふ…やっと会えた…」


彼女は可愛らしい声をあげた。鈴の鳴ったような声とはこの声を言うのだろうと思う。しかし、やっと会えたとはなんだろうか。勘違いではない。明らかに僕に対して言っている。僕にはこんなに可愛らしい女友達はいなかった、はず。いや、いないだろう。そもそも僕には友達と呼べる人は中学のときからいないし、ましてやこんな美少女に会ったこともない。当り前だ、こんな顔を見たとしても忘れる筈がない。それほどまでに彼女の顔は整っていた。


どうしたものか、なんて返事をしよう。

「だれですか?」いや「おはよう」だろうか。

何度も言うが僕と彼女は初対面だと思っている。初対面の人にやっと会えたなんて言われた時の対処法を僕は知らない。

仕方がない、ここは正直に言おう。


「すみません、あなたは誰ですか?」

「ふふふ…そうよね、分かるはずがないよね」

「僕の名前は鏡音―――」

「知ってるよ瑠依くん……………」


遮られた。まるで僕のことを知っているかのような口振りだ。

そして彼女は何かぼそぼそと呟いた。僕が難聴だったり、都合のいい耳をしているわけじゃない。本当に小さな声で呟いたのだ。

名前を言ったが、まさか僕の名前を知っているなんて。

こんな不登校の名前を、しかも下の名前まで。

なんだろう、気になって仕方がない。


「僕とあなたはどこかで知り合ったりしてました?」

白崎望愛しらさきのあ

「あ…」


瞬間、僕は固まる。いいや、彼女が望愛なわけがない。

彼女はこんな……こんなあまりにも可愛らしい容姿をしていない。

僕の知っている望愛は地味目…だったはずだ。

失礼だが、こんなに可愛くは…なかったはずだ。


「どうしたの瑠依くん?」

「え…」


どうしよう、思えば望愛の声に似ている。あの地味目だった容姿からは考えられないようなきれいな声と、あまりに似ている。

鳥肌がたった。


垢ぬける、なんて変わりようじゃない。

高校デビューなんて柄じゃ彼女はなかったハズだ。

彼女の心はあまりに繊細で、触れればそのまま音すら立てずに壊れてしまうかのように儚かった、ガラスの心。

僕が、僕の全てを代償にしても守らなければいけないと思った彼女はもう、いない。あの時の彼女は、その面影すら残さずに消えていったのだろう。


「ふふふ、瑠依くんのおかげだよ」

「え…」


さっきから、声がまともに出ない。

喉の奥に何かが詰まって声が出ない。


「瑠依くんが私を守ってくれたから」

「……」

「だからね、邪魔なやつは、瑠依くんをいじめるような奴は、私たちをいじめたようなやつらはもう、いらないよね?」

「あぁ……」


言葉にならない声が出る。

だからか、僕の見知った、ある意味で顔見知りのやつがいないのは。

入学式、この高校に来た時にはいた四人がいない。

四人がいる筈の席が空白になっている。

彼女の、望愛のオニキスのような輝きを放っていた綺麗な瞳が、濁る。

瞳の奥からは、何も感じない。無が、望愛の瞳には映っていた。

なぜ、四人が居ないのか。望愛がさっき言ったことから考えるに…


「あの四人はどうした」

「あの四人って?」


望愛は何にもないような表情を浮かべる。

もし、あの四人がいないのが偶然じゃなかったら。

たまたま休んでいるわけではないとしたら。


「あ~あの四人ね」


固唾を飲む。

周りにはクラスメイトがいる筈なのに、酷く周りが静かな気がする。

まるで彼女が、望愛を中心にしてこのクラスが廻っているいるように。

彼女は、望愛は言った。


「いらなくない?」

「いらない?」

「そう」


いらない?確かに俺たちにとってみればどうしようもない憎悪の対象だ。

だけど、どうした、望愛。

君は人をそんな、ごみのように扱う人じゃなかったはずだ。

君の心は、清く、気高く、美しかった、はずだ。


「私と瑠依くんをいじめるような、塵は、私たちを邪魔するやつは、いる意味ないよ。存在する価値が、ないんだよ。このクラスには、この世界には、私と瑠依くん、二人だけで充分なんだよ。それ以外は必要ないし、私はその存在を許容していないんだよ。」


望愛はまるで、このクラスの支配者のような。

この世界の絶対者のような、傲慢なことをさも当然のように言った。

だからだ、おかしかったんだ。

、全部、おかしかったんだ。


「だからね、瑠依くん」


望愛は鈴のような、きれいな声で。

つくり物のような、きれいな顔で。

全てが自分のものかのような不遜さで。

さも当然かのように。

全てを愛おしむかのように。

僕という、瑠依だけを望むように。

僕だけをただ一人、愛すように。


「大好き」









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初めて一話完結のものを書きました。

当初の予定とは全く違う終わり方になりました。ラブコメのつもりだったんだけどな……(遠い目)

好評でしたらより詳しいものを書くかもしれません。

感想をお待ちしております。

それではまた次作で、お会いできることを。

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