未来空港のデッキにて

茹だる夏の空は爽やかに青く

白く盛られた入道雲がそのキャンバスを埋めて

その間を縫う飛行機雲

今日はどこか高く見えた


僕が憧れた誰かの姿に見えたからか

彼女はどこまでも高みを目指した

言わぬが誰かはその姿を陰で嗤ってただろう

宛ら現代のイカロスだった


「もう無理だ」なんて彼女は言わなかった

僕が諦めた『未来』って奴を貪欲に追いかけてた

いつかの僕が邪魔をしようと、

挫折を味わおうとも折れることはしなかった


青い空を切り裂く一筋の白い雲をずっと眺めてた

あの日見たあの飛行機は今どこにいるんだろう

僕の『未来』って言う荷物を忘れた、あの

好きだったあの人だけを乗せてった、あの


あれから沢山夢を追う人達を見てきた

そして数知れず夢を叶えてく人を見て

中には偶然自分が好きな舞台に立つ人もいた

そういう人を、僕はいつかみたいに見送ってた


未来便が止まる空港は

今日も夢を追う人達でごった返していた

手にはそれぞれ違うチケットを握り締めて

同じ便に乗る誰かと今か今かと出発を待っている


僕の手には期限切れた古い航空チケット

どこにも旅立てなかった夢行きの

そいつを大事に握りしめてた

もう使えやしないのに


今、轟音を立ててまた未来便が飛び立っていった

怖いもの知らずを乗せた飛行機は高く高く

そうしてまた青い空を我が物顔で切り裂くのだ

自分勝手に各々の未来へ向かうのだ


僕もそうなるはずだった

けどそう出来なかったのは、あの日諦めたからで

だから嘆く権利だってない

だから今日もここで旅立つ人を見送るのだ

未来空港のデッキにて


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「未来」行きだった切符 @seikagezora

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