君の声と僕の心

5,不吉な事件の予感

それから、一か月くらい。上城ちゃんのいじめは懲りずに日常化しているらしい。同じクラスじゃないから、白石伝いに聞いた話でもあるけど。

依頼が来るまで動けないなと思った矢先、いつもの呼び出しが来た。

この学校の新聞部は、表の顔は普通だ。まあ、裏と言っても、

教師側から退学させたい、

つまり問題児の生徒の情報をつかむ、諜報員をしているだけだ。

そのおこぼれで新聞は構成されている。もちろんエンターテインメントとして偽証しているから、よく偽物新聞フィクションゴシップなんて呼ばれている。


「…で?今回俺の出番はありそう?」

「んー微妙ってとこね。女子の話だし…

 証拠はあんたにつかんでもらうことになるとは思うけど。

 正直、この子たちなんでぼろ出してないのか不思議なくらいだけど。」

「あーわかる。なんでこんなにばれないんだろうね?

 ほんと、なんでいじめなんかするんだろうね…俺は悲しいよ…

 愛しの砂竹がいなかったら俺学校辞めてぐれてるね!」

「いじめの原因なんて人さまざまよ、そこをおってもしょうがないもの。

 あと蒼井、何気に口説きを入れるのをやめなさい。

 そういうのは本当に好きな子にやるものよ。」

「はーい、わかりましたよーっと。じゃあ俺は証拠握ってくるから対処よろしく。

 白石とやらもかかわってるんでしょ?件の転校生はだんまりみたいだし。

 頑張ってね、砂竹。」


ただでさえ寂寥感あふれるこの部室から、部員も消えると静かになる。先ほどまで会話していた蒼井瞬という男は、話術に長けており、相手の言葉を証拠とする新聞部のもう一人の部員である。新聞部はこの二人で構成されている。蒼井は出ていくと、耳に意識を集中させる。だれが何を話しているか、何か今回の件に関する噂はないか。一つの甲高い声が、蒼井の意識を捉える。蒼井はそれに気づくと、ICレコーダーの電源を入れ、自然にその音源へ近づく。その声の主は自慢げに話し続けていた。


「そうそう、白石の名前使って呼び出したらあいつすんなり来たんだよね。

 あなたがなんでいるんですかって言われたから、

 白石から伝言頼まれたんだよねーって言い返して、

 そのまま普段私が思ってることを言ったら顔面蒼白にしててさー、

 ざまあみろって感じ!」

「上城…だったっけ?あいつなんかウザいよねー。

 お高くとまってるっていうか。そもそも学校にあんな髪の色してくんなよ、

 目立ちたいのかよ。そういえば、そいつけっきょくどうしたのー?」

「予定通り角材で殴って倉庫に閉じ込めたけど?さすがにそんな寒くないし、

 死にはしないっしょ!」

「うわ真帆えぐいねーまあでもそれくらいしないと

 あいつの反応おもしろくなさそうだしー」


キャハハ、と彼女たちはそのまま廊下へ消えていく。ICレコーダーが今の会話を記録したのを確認する。次に、ポケットからスマホを取り出して、先ほどまで一緒にいた彼女へと連絡を取った。


「俺は、俺のやるべきことをしなきゃねー!」


蒼井もまた、事件解決のために動き出した。


6,冬、夕暮れの倉庫の中で

………。頭が、痛いなあ…。ここ、どこでしょう。

自分が目覚めた場所は、やけに埃っぽい。どこかに閉じ込められたんだろうな、と

予測する。何度も、今まで、あったことだ。今更、泣きわめこうだのとは思わない。薄暗い部屋の中で、自分の腕時計を見て、時間を確認する。長い針が、斜め下に向いてるのをかろうじて読めたくらいだけど、十分。あのメモでのこのことついていった私も悪いんだろうな。でも、なんで私に優しくなんてしたのかな。私と仲良くして、裏切れば、面白いって、そう、思ったのかな。思っていたより、私はショックらしい。こうなっちゃうんなら、期待した意味なんてやっぱりなかった。私は独り、助けなんて来ない。壁際に移動し、着ていたコートを毛布代わりに目をつぶる。このまま、終わってしまいたいと透明なしずくが彼女の頬から滑り落ちた。


蒼井から連絡が着て、舞が僕に連絡してとまるでリレーのように僕のもとへ来た連絡は、正直信じられない、それこそフィクションのような、実際にあるようなものじゃないと思ってしまった。倉庫に閉じ込めるだなんて、普通の人ならしないはずだ。まあそんな起こったことを気にしている場合じゃない。問題は。今日が冷え込むということだ。天気予報には今年一番の冷え込みとでてたし、部活をやっていた僕でも寒いんだから動いてない人たちならもっと寒いだろう。すっかり日も暮れて、気温は下がり続ける一方だ。この気温と一緒に、すとんと事実は頭の中を侵食してくる。それと同時に、僕は怒られない程度に倉庫に向かって走り出した。うちの学校、なんでこんな広いんだよ。倉庫は三つ、そのうち一つは僕の部活が使っていて部外者が使えるわけがない。つまり二分の一なわけだ。舞は第一倉庫に向かうと言っていたから、僕はほとんど使われてないはずの裏庭の倉庫へ向かう。倉庫についたころには、月が上空へ浮かんでいた。乱れた髪と息を今更ながらに気にして、倉庫を観察する。月のぼんやりとした光しかない倉庫の周辺は、うっそうと茂っているツタが邪魔して扉がどこにあるかもわからなかった。もう一度、とそんな悠長にしている暇はないはずなのに、ゆっくりと、ねめまわすように観察する。ツタの隙間からわずかに見えるドア同士の境目から、のびている明らかに故意的であろう角材。そして、そこについている赤黒い血。認識して、ツタが自分を傷つけるのも構わず角材を取り、ガシャンとドアの壊れそうな勢いで扉を開く。そして、そこで僕が見たものは…どこも傷ついてないように見える、彼女の姿だった。コートを膝にかけ、壁に寄りかかっている彼女の表情は、苦しそうで悲しそうで、彼女がずっと独りぼっちでいるように見えた。そして、うわごとのように、行かないで、独りにしないで、と繰り返している。どんどん上城さんの表情がゆがんでいくのを、僕は黙ってみていられなかった。とにかく彼女を起こそうと、近づいて一切のためらいなく上城さんを揺らした。


「…誰…?や、近づかないで…」


これだけ揺らしていても、彼女の意識はまだ夢の中らしい。さすがに乱暴な真似はしたくないから、じゃあ、と僕は耳元で大声を出した。


「ワッ!!!!!!!」

「ひゃあ…!や、何…!?」

「あ、起きた?おはよう、上城さん。」


起きた本人は、僕のことを疑念を持った目で、いや、怯えるような目でこちらを見ている。


「白石君…どうしてここにいるんです…?

 あなたも、私のことが嫌いなんですよね?」

「えっ、何のこと?僕、上城さんを嫌いなるようなこと、されたっけ?」

「いいんですよ、わざわざ嫌いな私のことを助けなくたって。

 それとも、これも計算のうちですか?」


これだけの会話だけど、僕に対する視線と言葉で、僕を疑っていることがわかる。

でも、そんな目をして疑ってきてもなんとも思わないんだ。今の上城さんは、迷ってるんだ。僕を、信頼するべきどうか。カースト上位の女子たちが何かやったんだろう、当然この倉庫のことはあるとして。


「あのさ、何か勘違いしていないかな。

 例えば、僕が、君のこと嫌いだとか。」

「…!そう、でしょう?いいえ、そうに決まってます。

 どうして私、だまされちゃったんでしょうか…わかってたはずなのに。

 こうして、裏切られるってことくらい。本当に…なんで?」


紡がれていく言葉は、とどまることを知らず、加速して、

それでもマイペースに、一つ一つを形にしていく。


「私は…独りでもよくて、寂しくて、

 誰も助けてくれなくて、誰かに救ってほしくて、誰も信じれなくて、信じたくて…  

 え…?なんで、私こんなことしてるの。違う、そうじゃない、私、私は…」


否定して、肯定して、言葉ごとに矛盾する少女の瞳を僕はじっと見ていた。そして、伝わらないかもしれないなんて思いをおきざりにして、僕の中で傷つけないように、僕が持てるすべてのやさしさを込めて。つたない言葉を、僕の心を、素直に伝える。


「自分を否定する必要なんてないと思うんだ、僕は。

 もっと、自分に素直になってもいいんじゃないかな?

 上城さんは、十分頑張ってると思うんだ。」

「…私は、独りでも大丈夫、そのはず、なのに。

 私のこと、嫌いなんでしょ…?だったら、つきはなして。

 わたしは、もう…」

「僕がいつ上城さんのこと嫌いって言った?

 僕は…そんなことを、言った覚えはないんだけどな。」

「うそ、うそにきまってる…

 結局、裏切るくらいなら…わたしに、かかわら、ないで、たすけないで

 おねがいだから…あんなおもいはもうしたくないの…」

「僕が裏切るって保証はどこにもないよ。

 そんなに、僕は信頼できないかな…?完全に信じてほしいとは言わないよ。

 でも、僕は上城さんの味方でありたいから。」

「…どうして?どうして、こんなに私に優しくするの。

 同情、なんて、いらない…」

「うーんと。説明するとなると難しいかも。そんな理屈で動いてないからさ、僕。

 でも、人を助ける理由なんてなくてよくないかな。

 それとも、こんな僕じゃ味方になるには役不足?」

「本当に、信頼していいの?私は…しんじていいの?」

「いいんだよ。僕は君を裏切らないことだけ約束する。絶対だよ。

 あ、指切りげんまんでもする?」

「…ふふ、なにそれ…でも、ありがとう…。」


長いようで短いやり取りを終えて、二人はお互いに笑いあう。

不安定で、孤独だった少女はもういない。

独りぼっちでもなくて、独りよがりでもない。

共存した、決して一人じゃできない二人ぼっちだ。

倉庫の外では、心配いらなかったねと安堵する二人の人影。

いじめの終わりが見えた、月影のさす夜のことだった。


「あー、そろそろいいかしら?あんたたち、帰りなさい。」


後ろから聞こえてきた声に現状を理解して顔が爆発しそうなくらいに赤くなる。


「ちょっとまった、舞。どこから聞いてた…?」

「確か二人が一緒に寝そべり始めたときからだったよね、砂竹!」

「こんなところであからさまな嘘ついてどうするの。

 ごめん覚えてないわ。でもほとんど内容は聞いてないから安心していいわよ。」

「…ほんとですか?聞いてたり、しないですよね…?」

「全然よ。ほら、いつまでこんな辛気臭いところにいるの。とっとと帰んなさい。

 白石は上城ちゃんを送ってきなさい。はい、これ荷物ね。」

「二人はいいのか?」

「俺らは事後処理しないといけないのー!ほらとっとと帰った帰った!」


半ば押し出されるような形で校門まで移動し、帰り道に送り出される。


「誠も送り狼になるなよ!え、俺?やだなあそんなこと考えてな…っで!」

「はいはい、あんたが話していると余計に遅くなるでしょ。

 じゃあ明日ね、白石、上城ちゃん。」

「ああ、明日な。」  「…またね。」


二人を見送り自分たちは新聞を作りにかかる。


「あーあ。今夜は徹夜かしら。いったい誰がこんな制度作ったのよ。」

「ほんと、この学校はブラックだよ…

 砂竹がいなければ俺もどうなっていたことやら…」

「手を動かしなさい、手を。証拠は集めてくれてありがとね。」

「うんうんもちろんだよ!ね、これおわったらどっかいかない?

 デートしようよデート!」

「そんなんであんたのやる気が出るならいいわよ。

 早く仕上げないと。明日の朝一で出さなきゃいけないんだから。」

「了解だよ部長!」


二人で文章を組み立てて、レイアウトを考えて。忙しくなるこの時間は大変だけど、蒼井といれば楽しい。冗談だとわかっていても少し期待している自分がうらめしい。

あの二人くらいわかりやすくあればいいのに、なんて思ってしまうのだ。まあ期と目の前の男はそんなこと気にせずのんきに生きているのだろう。うらやましい限りだ。

少しばかりの期待と、仕事と。舞は今日もため息をつきながら、この現状に満足している自分に単純だと笑うのであった。そして、夜は明ける。


7、春のユースフルデイズ

上城さんが倉庫に閉じ込められた事件が起こってから、もう一か月もたってしまった。あの日はすぐに帰ったが、翌日に校内で張り出してある新聞により、いじめを行っていた女子たちは、退学とまではいかずとも、謹慎処分を受けることとなった。さすがにいじめを表立って公表することはなかったようだけど、人の口に戸は建てられないようで、上城さんはいつのまにか人気者扱いされ、僕とほとんど接点がなくなってしまった。ちなみに舞は、上城さんの親友ポジションとしてその隣にいる。ちょっとうらやましい。上城さんの誕生日には、僕と舞と蒼井でお祝いした。上城さんは誕生日にスマホを買ってもらったようで、それからというものの、僕とほぼ毎日チャットで話している。だから、学校での直接の接点がなくても、あんまり寂しいだとか、そんな感じには思わない。季節はいつの間にか春になり、学校の桜は早咲きのようで、おわりかけの梅と一緒に咲き誇っている。そんな柄でもない考えをして窓の近くに突っ立っていれば、その後ろから誰かが話しかけていた。


「やあ奇遇だね、誠!なに?黄昏てるのっ??

 どうしたの珍しい…はっまさか君は誠じゃない…!?」

「いや、僕は白石誠だよ。蒼井こそ、どうしたの。

 こんなところにいるなんてなにかあったの?」


そう、何を隠そうここは屋上だ。

普段は立ち入り禁止だけど、今日は先生に頼んで開けてもらった。

学校の桜と梅を、上から眺めたかったからだ。

そもそも、鍵を借りている僕以外は入れないはずなのに…


「え、俺?俺はただ傷心中の誠を慰めてあげようとここに来たのに…

 鍵?なんのことかな?やだなあ俺ピッキングとかして開けたわけじゃないって…

 単純に開いたまんまだったんだよ…?」

「はいはいそういうことにしておくよ。

 あと僕までフラれてないし、そもそも告白してないから。」

「えー?カスミソウを誕生日に送って言うセリフがそれ?

 いくら上城が鈍感だからってそこに気づかないとは思わないけどなー?」


しょうがない、これは不可抗力だ。

いや、知らなかったんだって。そもそも後付けの花言葉だし。


「いやー誕生日にカスミソウ無垢な愛を送った相手は度胸が違うねー!

 俺なら恥ずかしさで岩の中に閉じこもって宴をしてても出ないね!」

「ちょっと…やめてくれない…?

 僕は感謝のつもりで送ったんだ、決して他意はないんだよ!」

「あれ?じゃあ上城のこと好きじゃないんだー!

 俺があの子もらっても問題なさそうだね!」

「蒼井…冗談でもやめて…。僕は上城さんを譲る気はないよ…。」

「なんだー!そこまで言うならひいてあげるよ、俺ってばなんて優しいのかな!

 じゃこんなところで日和ってないでさっさと行きなよー!

 ほらほら愛しの上城ちゃんが伝説の桜の木で待ってるよ!」

「ちょ、ちょっと蒼井…?」


無理やり屋上から追い出され、蒼井の口車に乗せられてしまったことに気づく。

告白する勇気がなくて日和っていたのは事実だが、こんな形で背中を押されることになるとは思わなかった。ていうか呼び出したの桜の木の下ってどうして蒼井が知っているんだよ…。そんなことを考えて、下駄箱で靴を履き替え、校庭へと出る。桜の木は裏庭と校庭の境目くらいにあり、校舎裏と言っても差し支えないような場所だ。我ながらロマンチックな場所へ呼び出してしまったものだ、教室とかでもよかったっていうのに。一か月、恋をしているにはあまりにも長い期間だった。緊張で手汗がだらだらだ。桜の木の幹に寄りかかって、相手を待つ。


「ごめんなさい…待たせちゃいましたか…?」

「えッいや、ぜ、全然だよ!」


声に呼ばれて、木の幹に寄りかかっている体を慌てて起こす。

変に上ずって、声がおかしくなってしまっただろうか。


「あの…白石君…?」

「な、何かな上城さん!?」

「お話ししたいことって…、なんですか…?」

「あ、ああそうだったね、ごめん変な対応しちゃって。

 それで用事ってのは…」


わざとらしく桜吹雪が舞い、彼女の姿が一瞬見えなくなる。

最後のほうでしか、力になれなかったし、

これは、僕の勝手な思いってことはとっくのとうに分かり切ってはいるんだけど。

拝啓、カスミソウを送った君へ。


「上城さん…僕はずっと前から君のことが…」


僕の名で、募っていて、今の今まで伝えることのできなかった思いを。


「好きでした。」


今、君に伝えます。


8、二人のおはなしの、その裏で

「蒼井、こんなところにいたの?校内中探しまわったわよ。」

「オッ来たね俺の本命!いやーこの場所からだとよく二人が見えるからさー、

 後でからかってあげようと思って!」

「そういうところは性格悪いわねあんた…。

 ま、あの二人は両片思いだし何とかなるでしょ。」

「ほんとだよ!なんであの二人してお互いに新聞部に頼ってくるのさ!

 俺らは恋愛相談の部じゃないよー!」

「そうね。恋愛相談とか受けるもんじゃないって今回よーくわかったわ…。」

「俺なんて告白してるのに一回も返事もらったことがないんだよ…?

 あの二人のほうがうらやましいんだけど…。」

「あんた告白する相手いたのね。」

「え?」

「んん?あたし何か変なこと言ったかしら?」

「うわーショック…俺告白扱いにもされてなかったの…?

 あんなに毎日好きだよとか愛しのとかいってきたのに…。」

「…告白だったのあれ…?てっきり冗談で言ってるのかしらと…」


不意に、砂竹が顔をそらした。あれ、これもしかして脈ありなやつだったりする?


「砂竹ー。ちょっと顔見せてー?」

「…いやよ。こんなの見られたら絶対あんた笑うでしょ…」

「いやって言っても見るもんね!」


砂竹の腕を引っ張りその隠している顔を覗き込む。砂竹は目線をそらして、絶対にこっちを見なかった。でも、その顔は真っ赤で、親からやましい何かを隠す子供みたいに、必死で抵抗していた。男の俺に腕力で勝てるわけないんだけど。


「ちょ…放しなさいよ…見ないで恥ずかしい…。」

「…やばい思った以上に期待してよさそう。

 砂竹、それオッケーってことでいいの。」

「…この顔でそれ以外の答えを導けるなら教えてほしいわ…」


体が脱力したようにその場にしゃがみ込む。

もちろん握っている砂竹の腕ごと一緒に。

思ったよりも、気恥ずかしくて、でも目の前の相手がいとおしくって。

相棒として、隣にいれればそれでいいと、そう、思っていたのに。ああ、俺のほうがあんなロマンチックに告白しようとしたあの子よりも馬鹿なのかもしれない。


「はあー好き。砂竹、大好き。」

「真顔で何言ってるの…はいはい、私のまけよ、私もあんたのこと好きだから、

 だから早くこの手を放してちょうだい…。」

「やだ。俺ずっとこのままでいたい…。このまんま感傷に浸ってたい…」

「あんまり感傷に浸ってると先生来るわよ。この状況見られたくないんだけど…」

「いいもんみせつけてやる…。」


とある春の日の、屋上と校舎裏で。

二つの恋物語は、始まりを告げた。

この四人はきっと、時には笑いあい、ぶつかり合い、

それでも、一歩一歩進んでいくのだろう。

これは、遠いどこかであり得る話。

春の陽気は、彼らを祝福するかのように、そよ風を吹かせた。



                                  fin.







 

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拝啓、カスミソウを送った君へ。 月島文香 @AOKANANA

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