第18話 記憶消去

 対消滅時のエネルギーによって軍艦は周囲にいた攻撃機を巻き込んで爆発していた。既に、敵の軍艦も攻撃機も残っていなかった。


「よし上手くいった。タイタンに向かうぞ」

「一人で行けよ、犬使いが荒いなぁ」

「ワープで一瞬だろ?」

「お前はな。俺は操縦しないと」


 ノブは本気で操縦を憶えようと思った。


 ワームホールを通り土星の輪の外側にワープアウトする。輪の外側にあるタイタンは岩と氷の惑星窒素の大気でおおわれている。

 そう御情報を与えている。そう間違えるような赤外線や電波をだし地球人を錯誤させている。実際は窒素の中には地球と同じ割合の酸素が蓄えられていて温度も地球と変わらない程度に設定してある。

 水星よりも大きい衛星であるにもかかわらずその重さは水星の半分もない。それもそのはず内部は空洞でそこに居住区や星を動かす制御システムがあるからだった。そう、この衛星も月と同様人工衛星だったのだ。ただ一つ月と違うのはそれを作ったのがイントルーダー、ベロキラプトル型の宇宙人という点だった。


「内部に侵入して破壊するのか?」

「いや、そんなことしてたらいつまでたっても終わらない。幸い宇宙は魔素が豊富だ。だから星を消してやる」

「いやいや、フリーザじゃないんだから」

「フリーザに出来て俺にやれないことはある!」

「そりゃ沢山あるだろ」

「でも衛星は壊す」

「まぁ、無駄だろうけど。やってみれば」


 一言多い犬を保健所ではなく中国に売ってチャウチャウと一緒に食べてもらおうかと本気で考えたノブであった。


 ノブは自分の周囲に球形のシールドを張り中に空気を保ったまま宇宙空間に転移した。


『攻撃したら、船の中に転移して一気にワープするからな、ワープの準備しろよ』

『ガキに言われなくても分かってるさ』

『くそっ!』


 ノブは手足を大の字に広げエネルギーを溜め、次に掌を少し広げた状態で両手を前に突き出してエネルギーを集め、最後に両手首をくっつけて、エネルギー波を撃った。


『ファイナル~、フラッシュ!』


 ノブは直ぐ様船の中に転移する。


「おい、今のパクリだろ! 駄目だろ、ぱくっちゃ!」

「煩い! やりたかったんだよ。ほら早く転移しろ」


 転移した直後、巨大な光がタイタンを覆う。

 一瞬砕けた残骸が外部へ放出された後、その残骸は衛星の重力によって衛星内部へと集まって消滅した。


「おお、かなり眩しかったな」


 ノブ達は木星軌道上までワープしてその光景を見物していた。

 敵基地は破壊された。これで敵の残党も本星へと帰るだろう。これで漸く地球の問題に安心して対処できる。暫くの間イントルーダーは大人しいはずだからだ。

 ノブは達成感に暫しの間浸りながら地球へ向かうのであった。




 ◇◇◇◇



 ノブは残り少ない魔力で地球へ転移すると紗菜を探した。


「紗菜を探せ! ソナー」


 ノブは紗菜だけを感知し反射する魔法で紗菜を探す。

 数秒後、紗菜からの反射を感じ取るとノブは紗菜のもとへと転移する。



▼△▼△▼



「紗菜大丈夫か?」


 突然現れたノブに訝しがるも注意がそれていて気が付かなかったのだろうと美桜は納得する。

 少し前から見ていたノブは美桜が刺すところも美桜の独白も聞いていた。


「紗菜を刺したところは見ていた」

「子供が言う事を誰が信じるの?」

「だったら教えてくれよ、紗菜を殺して、陸副会長を殺人の罪で刑務所に入れて相続とは関係のない美桜さんに何の得がある?」

「私は、八条信長の孫よ。だから私が一人で祖父の財産を相続するのよ。だからうまく立ち振る舞って、兄弟で争うように、陸の弁護士の藤原琴葉と共謀して二人が争うように仕組んだのよ」

「そうか、美桜さんは伊織の弁護士もやってたな。だったら二人が伊織も殺害したのか?」

「陸の名前を使って組織に実行させたのよ」

「白状して満足したか?」

「未だ財産貰ってないのに満足する訳ないじゃない。ねぇ、どうしてあなたに言ったか分かる?」

「殺すつもりだからだろ? 自分の所業の達成感から誰かに自慢せずにはいられなかったんだ。その相手が僕だったんだね」

「良く分かってるじゃない」

「今の会話その犬が録画してるから、もう警察に自首した方がいいよ? 今なら自首で減刑されるから。自首したら減軽、死刑の減刑は無期懲役。つまり制度上、何人殺しても自首すれば死刑にはならないはずだよ。美桜さんにぴったりの制度だね。何人殺害したか知らないけど。じゃあ、僕は行くよ、紗菜を殺すわけにはいかないからね」


 そう言うと、美桜をスタンの魔法で痺れさせその間にロープで拘束。メイドにこの人が犯人だからと伝え、録画したSDカードを渡した。

 その後漸く到着した救急車が紗菜を運び出し病院へ連れて行き紗菜は一命をとりとめた。どうやら心臓はそれていたようだ。


 その日病院を訪れたノブはまだ意識を取り戻していない紗菜に少量の飲み薬を与えた。その中に入っているのは薬などではなくナノボット。

 それが紗菜の傷を治療してくれる。これから先もずっと治療してくれる。


 未だ傷は治り始めたばかりだが直ぐに意識を取り戻す紗菜。


「紗菜、俺達は月へ戻るよ。でも、月のことは地球人には知られちゃいけないんだ。だから記憶を消さなくちゃいけないんだ。分かるよな」


 紗菜は声を未だ出すことは出来ないのか黙ってうなずいた。


「紗菜、私はこれからもずっとあなたを月から見守ってるから何かあったら駆けつけるから、でもあなたの記憶に残れないのが寂しい。でも見てるから」

「そんなにみられてたら恥ずかしいよ」


 漸く出した声で紗菜は返事をした。


「スズ、お前普通に話せたのか?」

「煩い」


 ノブはスズがまともに話しているのを初めて聞いた気がした。


「じゃあ、紗菜、記憶を消すぞ、いいか?」

「うん」


 紗菜は静かにうなずいた。


「いきゅらす・きゅおら」

「アニ、それぱくり!」


 片言に戻ったスズであった。

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おじいさんは異世界帰りの元勇者 諸行無常 @syogyoumujou

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