よそんちの侍従が、可愛すぎる件について。
マイネ
よそんちの侍従が、可愛すぎる件について
今、高貴なる方々の間で変装し、庶民に紛れ込み、街歩きを楽しむことが大流行している。
例に漏れず、私がお仕えする好奇心旺盛なお嬢様も、興味津々だ。婚約者のお坊ちゃまと一緒に、次回は街歩きをしよう!と、お約束をされていた。
「ということだからメアリー。庶民のお洋服の準備、よろしくね?」
「かしこまりました。お嬢様。」
次回のお約束までに、お嬢様の庶民服を手配する業務が舞い込んだ。お嬢様の侍女である私、メアリーにこの業務が舞い込むということは同時に、
お嬢様の婚約者のお坊ちゃまの侍従であるフィンにも、同じ業務が舞い込んでいるのである。
通常であれば、お互いの主君の衣装を用意し、当日を迎えるのがセオリーだが、
婚約者の坊ちゃんの侍従フィンは、つい最近、侍従となった青年だ。
フィンは、少年をギリギリ終えた感じの青年だ。顔はまだ幼く、天使と見まごう可愛らしさを残しつつ、大人の顔へと変化を遂げようとしている、なんとも儚くアンバランスな仕上がりなのだ。また背も少し小さく可愛らしい、そして、口が聴けない。
今は侍従として召し上げられたばかりなので、仕事を必死に覚えてる最中だ。
おぼつかない足取りで、荷物を運んでいたり、給仕をしているのを見ると、ハラハラして
全て仕事を取り上げて、代わりにやってしまいたくなる。
だが、心を鬼にして、彼の成長のためにと、ハラハラしながらも見守っている。
フィンは慣れないながらも、一生懸命取り組んでいる。そして、業務が上手に出来た時、ニコッと嬉しそうに微笑むのだ。その破壊力たるや、凄まじいのだ。
一言で言うと、尊い。
少年が好きな特殊な性癖などでは、決して無い。
だが、可愛いものは可愛い。
秘められた母性本能が爆発する勢いで、悶える。
メイドも下女も巻き込んで、みんなで悶えている。
そんな可愛らしい彼だが、今回の業務は荷が重そうだ。
通常のように、仕立て屋に行くのではなく、服を主人に代わって選び、購入し、準備する必要がある。
そして、この庶民服というのも、また難しい所だ。あくまで庶民に見えるような、貴族の服を準備する必要がある。
間違っても肌触りがガサガサの服や、中古服など、用意してはいけない。
お庭でお嬢様とお坊ちゃまがご歓談中に、フィンに声を掛ける。
「フィン。街歩きのお洋服を準備する必要がありますが、出来ますか?」
「…」
フィンは不安そうな表情ではあったが、
筆談にて[頑張ってみます]と返してきた。
うん。可愛い。頑張るのは大いに結構だ。
だがしかし、頑張った結果、出来ませんでした。
ではダメなのだ。適切に準備する必要がある。
「そうですか。もしよろしければ、一緒に購入しに行けたら、と思ったのですが、如何ですか?」
「…」
驚いた後に、嬉しそうにキラキラとした目で見つめられる。
そして筆談で、
[ありがとうございます!是非よろしくお願い致します。]と書いてきた。
うん。なんだろう…。本当に尊い。爆発する。
日々の修行により会得した、澄まし顔を保ちつつ、大いに悶える。
「そうですか。では、一緒に参りましょう。2日後でよろしいですか?あとメモ帳を貸してください。」
「…」
フィンが頷くのを確認し、筆談用のメモ帳を借りる。
そして、メモ帳に簡単な地図を記載する。
目的の場所を丸で囲み、矢印で地図の上部に[ここに来て]と書きこむ。
「では、ここで待ち合わせして、お衣装を購入しに行きましょう。場所はわかりますか?」
「…」
地図を見て目をキラキラさせ、こちらに向かってコクコクと頷いた。
はい可愛い。何だろう。心臓が過労死しそう。
何この子…可愛すぎない?
このくらいの少年?青年?は、大概が鼻垂れなケツの青いクソガキと、相場が決まっているはずだ。なのに、可愛いなぁおい!何これ、本当尊い。
「では2日後、よろしくお願いしますね。」
「…」
返事をするように、フィンが笑顔で頷いた。
その様子を確認し、改めてお嬢様方の、方へ向き直る。
いやもう本当尊い。可愛い。この笑顔大事にしたい。と、心の中は大荒れだが、日々の修行の成果である、澄まし顔をまた浮かべたのだった。
………………………
そして2日後、業務を終えて待ち合わせ場所へ訪れた。
約束の時間より少しだけ早く来てしまったので、そのままフィンを待つ。
「よう!姉ちゃん良い身なりしてんじゃねぇか。俺らにも恵んでくれよ」
と、道行く輩がいきなり絡んでくる。
内心で、ここの治安どうなってるのよ。
と思いつつ、冷めた眼を向ける。
「て、テメェ調子に乗りやがって!何様のつもりだコラァ!」
と、いきなり殴りかかっきた。
嘘でしょ!?と思ったのも束の間
訪れるであろう衝撃に、思わず目を瞑る。
だが、予想した衝撃は来なかった。
目を開けるとフィンが両手を広げ、私を庇い立っていたのだ。
「フィン!」
「…」
必死な形相で「行って」と声なく、伝えられた。
脚をもつれさせながら、慌ててその場を離れる。
背後で、「テメェこのチビ許さねぇぞ!!」と言う叫び声と共に、鈍い音が聞こえる。
不安に駆られながらも駆け出し、周囲に居た治安隊を引き連れ、急いで先程の場所へ戻った。
すると、丸くなってズタボロになったフィンが居た。
「フィン!ごめんなさい私のせいで!」
言いながら、ボロボロと泣き出してしまう。
こちらを見てニコッと笑ったフィンが、限界を迎えたのか意識を失う。
その手に必死に握られている紙を見つける。
私が書いた地図だった。
自分が暴行を受けながらも、必死に守っていたのだ。それを見つけて、もうどうしようもなく胸がいっぱいになった。
フィンに暴行を働いた男達は、程なくして捕まった。
フィンはすぐさま病院に連れて行った。幸い、骨折などは無かったが、受けた傷が熱を持っているため、2日は入院することになった。
その後、フィンの主人のお家に、経緯を説明し、フィンの休暇の手筈をとった。
そして、2人分の街行きの服装を手配し、私もお休みを頂いた。
私のせいでフィンに怪我をさせてしてしまった。
やるせない気持ちを抱え、病院へとお見舞いに行く。
フィンの着替え、会話用の筆記用具、日用品、必要と思われるものを全て持ち、病院へと向かった。
眠るフィンの顔を見て、また罪悪感に襲われた。
その日は置き手紙を残し、時間も遅かったので、病室を後にした。
…………………………
その夜、フィンにどう償えば良いのか考えた。
責任をとって辞職し、賠償金を払おうと決意した。
実家からも、早く結婚して帰ってこいとせっつかれていたし、この辺が潮時なのかもしれない。
翌日。改めて病院へお見舞いに行く。
今日のフィンは起き上がっていた。
こちらに気がつくと、ニコッと微笑み、可愛い笑顔で迎えてくれた。
その顔には傷が痛々しくあった。だが、怪我をおわせた身で、誠に申し訳ないのだが、フィンは今日も可愛いかった。
「フィン。昨日は私のせいで貴方に怪我をさせてしまい、本当にごめんなさい。」
「…」
フィンは笑顔でフリフリと首を横に振る
「いえ、私のせいよ。本当にごめんなさい。貴方にどうやって償ったら良いか、考えたんだけど、治療費と賠償金を払って、そして、今後も顔を合わせ続けるのは嫌だろうから、仕事も辞めようと思うの。」
「どうか受け取って欲しいの気負わずに。
それに私にとっても、ちょうど良かったのかもしれないわ。実家からも、早く辞めて嫁に行けと言われているし。まぁそれは、今は関係ないんだけども、今回は本当にごめんなさい。謝って許され…!?」
そこまで言ったところで、フィンに片手を力強く握られる。
「…」
俯いたフィンの口が動く「…○〇〇○○」
「え?ごめんなさい。なんて言ったの?」
次の瞬間、抜群の笑顔で、フィンがこちらを見る。
そしてフィンは、片手でメモ帳へサラサラと記入していった。
メモ帳へは
[メアリーさん。許しません。責任取らずに、お金払って逃げようなんて、卑怯です。絶対許せません。]
書かれたメモを見て
「ご、ごめんなさい。どうしたら許して貰えるのかしら?本当にごめんなさい。私に出来ることなら、何でもするから、言ってちょうだい。ごめんなさい。」
それを聞いてまた、ニコリと笑ったフィンが
サラサラと記入しだす。
[責任とって、僕と結婚してください。]
記入された文書を見て、驚く。
「え!?………本気で言ってるの?」
ニコリと天使のような笑顔で頷く。
…あっ可愛い。ではなくて、、、
「その、年も離れてるし、フィンにはこれから、もっと良い出会いがたくさん、私なんかと結婚しない方が…貴方のためにも…」
パニックに陥って言い訳を並べ立てる。
するとまた、サラサラとメモを記入しだす。
若干見るのが怖くなってきたが、見る。
[責任とって結婚してください。何でもって言いましたよね?]
と、書かれていた。
フィンは笑顔だ。うん。今日も本当に可愛い。
「…。」
文書を見て何と答えたら良いのか、わからず黙ってしまった。
するとまたフィンが、メモ帳に書き込む。
メモ帳を見ると
[お慕いしています。結婚してください。]
と、書かれていた。
握られた手が、わずかに震えていた。
そして、可愛い顔で上目遣いで見つめられた。
その天使と見まごうフィンの顔を見て、思わず上を向いてしまう。
日々の修行の賜物である、澄まし顔はもう機能していない。私に少年趣味はないはずだ。
だが、今日もフィンは可愛い。
彼と結婚したいのかどうかは、申し訳ないが、まだよくわからない。
ただ、一つだけわかることがある。
この天使可愛すぎ問題と、もう本当に尊すぎて辛い。ということだ。
……………………………………………………
●後書き●
お読み頂き、ありがとうございました。
表現ないですが、
メアリーはお姉様侍女です。フィンは下働きをしていた時に、メアリーお姉様に惚れていて、実は頑張って侍従になりました。
そして、大好きな人から貰えたメモを大事に持って、初めてのデート(仕事)にウッキウキでやってきたフィンくん。うん尊い。
好きな人から貰った些細なメモを、大事に持ってる笑顔な男の子。を書きたかったです。悔いなし。
若干腹黒くなってしまいましたが、あくまで一生懸命で一途なだけです。たぶん。
よそんちの侍従が、可愛すぎる件について。 マイネ @maine25
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