第2話

「で? このエッチなDVDでユウキくんは何をしていたのかなぁ~?」


 思わず顔が赤くなる。

 それ、わかってて聞いてるでしょ?


「『ぜろから始める、幼馴染との甘々初体験』……ふむふむ」


「タイトル読み上げないで……」


「『転生したら、幼馴染専用のスライミュだった件』」


「やめて」


「『俺の幼馴染が、こんなに可愛くてエッチも上手なわけがない』……あれ? 幼馴染モノばっかりだね?」


「あああああ……!」


 もう人生おしまいだぁ……!


 俺とメリィの仲良し幼馴染という関係も、ジ・エンド。

 これからは、朝、玄関先で顔をあわせる度に「キモッ。変態オカズ野郎」って蔑まれて唾吐かれて、SNSで晒されて、クラスで孤立して、イジメられて……


「あああああ……!」


 頭を抱えてベッドにうずくまると、メリィはそれを不思議そうに覗き込んでくる。


 きょとん、と大きな瞳を丸くして。

「もしも~し?」

「お~い、ユウキ? ユウキく~ん?」

「ユ・ウ・キ・くん♡」


 「なんて妄想してたんでしょ」。という語尾すら聞こえなかった。


「今日も幼馴染が可愛いよぉおおお……!」


 俺は錯乱して叫んだ。


 すると、メリィはぽかーんと口をあけて固まった。


「えっ。え? 今、なんて言ったの……?」


 こうなりゃヤケだ。白状しよう。


「メリィが、今日も可愛いなって……」


「!!!?」


 それまで、俺をからかうように、にまにまと眺めていたメリィは、なぜか顔を真っ赤に染めて、ベッドの上で後ずさりする。


「ふぇっ……! か、可愛いなんて、そんな!」


 なんか、表情的には照れてるっぽいが。

 俺的には驚くことなんてなにもないし。


「え~、今更? メリィが可愛いなんて当たり前のことじゃん。幼稚園では必ずプリンセス役。バレンタインにチョコあげてもいないのに勝手にホワイトデーのお返しが来たり。中学のガチモテ無双っぷりなんて、放課後の体育館裏が告白予約でいっぱいみたいな――」


「でも、全部断ったもん!!!!」


 急に大きな声を出されて、今度は俺の方が固まる。


 メリィはハッとしたように、話題を逸らそうと、手にしたDVDを見た。


「『ゼロから始める、幼馴染との甘々初体験』ふぅ~ん。ユウキはこういうのが好きなんだぁ。主演女優、柏崎かしわざきマリィ……えっ?」


「知ってんの? 柏崎マリィ」


 俺はたまたま、メリィと名前が似てるからって、ついでに容姿も色白巨乳で似てるからって国広に教えてもらって。わくわくしながら借りて、このザマ。


 すると。メリィはわなわなと震えだし、小さな声を漏らす。


茉莉まりちゃんじゃん」


 その顔、もしかして。


「知り合い?」


「う、うん。従姉……」


「えっ。すごっ」


 柏崎マリィといえば、現役女子大生にしてAV界隈のスターとなりつつある、期待の新人だ。身近にそんな女優さんがいるなんて、すごい。


 だが、「すごい」の意味をどこか勘違いしたらしいメリィは、俺がただ感心しているのでなくて喜んでいると思ったらしく。


「……会ってみる?」


 と、上目遣いで呟いた。




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