幼馴染を好きなことが幼馴染にバレて、幼馴染が甘々に開きなおった件

南川 佐久

第1話 幼馴染こそ! 至高!!

「ねぇ。私……メリィさん。今、あなたの隣にいるの」


 そう囁くのは、夏にぴったり、甘々ボイスなホラーASMR――でなく。

 俺の幼馴染だった。


 さらさらと零れる色素の薄い髪と瞳に、華奢な肩――

 それらすべてを圧倒する、不釣り合いなほど豊満な胸。


 その、男子の誰もを虜にするような身体が、今ぴったりと。

 ベッドの中で、俺に寄り添っている。


 メリィは、もう一度唇を開き、囁いた。


「私、メリィさん。あなたの隣に……」


「わかった! 隣にいるのがメリィさんなのはわかったから。なんでメリィが俺の部屋にいるの!? ベッドで寄り添ってんの? やめてやめて、おっぱいくっつけんのやめて!? 俺だって男なんだからぁっ!」


 そう言って、ぐいぐいと身体を引き剥がす。

 俺と、幼馴染のメリィ――もとい、篠崎しのざき芽里めりは、ベッド上で正座する形で向かい合った。


 こんな、外人さんみたいに色素が薄くて、可愛くて、おっぱいの大きいメリィだが。おばあちゃんがロシア人というだけで、れっきとした日本人である。

 ただ、見た目も名前もそれっぽいからメリィ、と呼ばれているだけで。

 生まれた時から隣家に住む、正真正銘の幼馴染だ。


 そんなメリィはにんまりと、イタズラっぽく。

 手にしたDVDのパッケージを振る。


「……そうだね。ユウキも、男の子だもんね」


 メリィの言いたいことはわかる。

 だって、メリィの手にしたソレは、本来なら俺みたいな十五歳が持っていてはいけないような、R18の――


「エッチなDVD」


(!)


「……誰に借りたの? タカヒロくん? カズナリくん?」


「……国広くにひろです」


「わ。いがぁ~い!」


 と言って、ぽん! と手を叩く無邪気な幼馴染が、今日も可愛い。


 たしかに、国広はクラスじゃ優等生な人気者だ。こんなエッチなDVDなんざ、持ってる必要もないと思われるのも無理はない。

 だが。彼女のいるいないと、エッチなDVDを持ってる持ってないはまったく別の話なんだよメリィ。別腹ってやつだ。

 女子には、わからないだろうがな。


(にしても……メリィ。その格好、パジャマか?)


 部屋着丸出し、ショートパンツにキャミソール。

 そんな無防備な恰好で、俺の部屋に来るなんて。

 誘ってるのか? 洒落になんないよぉ……


「ど~したのぉ? ユウキ、どこ見てるの?」


「いや、別に……」


「エッチ♡」


「見てないってば!」


(……見てたけど)


「何カップに見える?」


「知らないよ!」


 とにかくデカいこと以外!


 あ~もう……! メリィには敵わない。

 俺は、真っ赤になった顔をそらして頬を掻いた。


「そんな恰好でウチ来るなよ……」


「別にい~じゃん。ユウキだし」


(それ、どういう意味……?)


「パパさんママさんも、もうピンポン鳴らして『私ですっ!』で玄関のロック解除してくれるし」


「オレオレ詐欺か?」


「顔パスだよ、顔パス」


「顔見てないじゃん……」


 そんな風に、「私ですっ!」で鍵あけちゃうから、下着姿同然の幼馴染が、今俺の部屋にいるんだろ? インターホンって何のためについてるかわかってるぅ?

 年頃の息子の部屋に、こういうカッコの幼馴染を入れないように付いてるんだよ?


(え~……どうすんの、この状況……?)


 俺は、メリィのことがずっと好きだった。

 物心ついた幼稚園の頃から、ずーっと、もう十年以上になるか。


 だからこそ、無防備な恰好のままで訪ねてくる――ある意味では俺を信頼してんのかなんだかわからない、この関係を手放したくなくて。


 ――ずっと告れないでいる。


 だって告ってフラれたら、絶対絶対、気まずいじゃん!

 もう一緒に学校いけなくなるじゃん! 

 たま~に、お弁当のおかず交換できなくなるじゃん!

 イコール間接キスできなくなるじゃん!?


 放課後だって、部活の帰りにタイミングがあえば、一緒に帰る仲なのに……

 そんな束の間の幸せすら、手放すことになるなんて――

 リスキィすぎるだろ。


 ……だから告れない。


 でも、多分だけど。今のこの状況……

 メリィには全部、バレている。

 だって俺は、ついさっき、国広に借りたDVDを堪能して、


 『幼馴染こそ! 至高!!』


 と叫んでいるところを。

 ベランダ越しの隣家から、メリィに見られてしまったのだから。


 そうしたら、秒でメリィが飛んできて。

 ――このザマだ。

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