@tonari0407

"泣いたけど、遠いあの子にこの愛を届けたいな"

 "小池恵子こいけけいこ"は人の輪を重んじる女性だった。


 常に張り付いた笑顔を浮かべ口角を上げる。本当に楽しいのかも怪しい。


 彼女は必死に何かを守ろうとしている。

 それは何だったのか、未だに俺は明確な答えを知らない。


 "色白いろじろい"腕は華奢。

 時折見せるどこか儚げな雰囲気に、いつしか俺はこの手で彼女を守りたいと思うようになった。


 長い付き合いだ。

 生まれたときからずっと一緒にいるから、彼女の色んな顔を知っている。


 俺は彼女の一番の理解者で、

 俺達は深い絆で結ばれている。

 これからもずっと……


 彼女と一緒にいる未来に向けて、俺は医師を目指すことにした。


 社会的地位の高い職業だ。彼女自身や未来の家族を守り支えるには良い仕事だと思った。


 しかし、俺がそのことを打ち明けた時、彼女の顔は青ざめた。


 大きな責任を伴う仕事だから止めろ、と俺に何度も言う。


 最終的に誰に言う訳でもなく小声で呟く。


「"なかね、かおかおかねかなのよ"……。 でも他にも大事な事があると私は思ってる」


 どんな気持ちで彼女がそう言ったのかはわからない。悲痛な表情だった。


 ほら、だからこその医師だろう?

 顔だって君の好みだろう?


 しかし彼女は聞く耳を持たなかった。

 話題を出す度に俺のことを無視する。


 俺だけには自然な笑顔で、

『大好きだよ』

 と言ってくれていたのに、その気持ちは嘘だったのか?

 俺を見つめる瞳には、確かな愛情の色が見えたのは勘違いか?


 本心とは"関係かんけいないケンカ"はいつまでも続く。


 俺は堪えきれなくなって彼女に告げた。


「好きだ。愛してる」


 昔から何度も好意は言葉にしてきたけれど、今回こそは俺の気持ちが伝わるように抱き締めて"きのしるしのキス"をする。


 戸惑いながらも受け入れた彼女は、震えながら泣いていた。






 翌日、小池恵子は首を吊った。

 まるい輪っかは彼女の命を絞めつけて殺したのだ。



 なぁ、実の母親を愛したのはそんなにいけないことか?


 本当の父親は誰なのかとっくの昔に知ってたよ。


 だから医師を目指したんだ。


 ○

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