日々

藤沢冬歌

1

昔は人の幸せが好きだった。

でもいつからか、自分より幸せな人を見るのが嫌になっていた。特に、自分の言葉で、自分に応援されて自分より幸せになった人を見るのが嫌になっていた。

自分より幸せならその人を見ればいいし、自分の言葉で幸せになったのなら俺もその言葉を思い出して行動すればいい。それだけの話だ。

だが俺はただ自堕落な生活を送りたいがために、今まで何も行動に移してこなかった。

そのくせ、自分で勝手にその先はどうなるかとかを想像して決めつけていた。行動しない自分がいいようになるように。また、最良の未来はどの程度動けばいいのかを見るために。

だがいつも想像するのは良い姿だとは限らない。見たくもない、例えば自分の心が限界を迎えた時の姿だったりとかも気になってしまえば想像してしまう。しかしまぁ大抵、そうはなりたくないからそうならないための行動はしていた。それで成功していたから、良いと思っていた。

ただ、昔は俺も元気な一人の少年だった。もちろん過程で他の人もいい思いをするかとか考えていた。

しかし、人の幸せが嫌いで、ネットに依存し、高校に友達がいない底辺で病んだような俺が到底そんなことを考えている暇はなかった。

周りは幸せになった。それは俺もとても喜ばしい事だった。それは俺が彼らに対して望んでいた姿だったから。

でも、自分は。今の自分の姿や気持ちは、あの時想像した最低な姿になっていた。


ずっとネットに籠っていた。高校に入ってから、教室でもスマホをいじり、偶にサボり、行きも帰りもネットを使っていた。

今日、早退した帰り道の途中に友人からとあるサイトのリンクが送られてきた。高校野球の県大会予選の速報だった。

小学生の頃から野球しかしていない友人から送られてきたから、てっきりそいつの活躍でも載っているんじゃないかと思ってリンクを開いてみた。

スクロールして見ていると、違う名前が見えた。俺が中学生の時に野球部に誘った幼馴染の名前だった。小学校の時、俺が毎週末に野球をしてその話を毎日帰りながら話していた奴だった。

努力家で、しかも野球の才能があった。中学から始めたのにあっという間に俺と同じほど上手くなり、そして抜いた。中学生の時県選抜にも選ばれていた。

俺は中三の時体調を崩し、不登校になり、部活も行けなくなった。野球もどんどん下手になった。最後の大会で負けて部活を引退してからは完全に野球から離れていった。

だが、そいつは野球推薦で高校が決まっていた。そして今、県大会の予選で活躍していた。

俺に野球の才能がないのは分かっていたし、途中から野球自体が好きではなくなっていたから嫉妬はしなかった。それよりも今の俺が本当に酷くて醜くて、涙が出てきそうになった。友達が活躍したのも嬉しくて、それも重なって泣きそうになっていた。ただ、また悪い癖が出た。人の幸せが、喜べなかった。今俺が友達がいない学校で苦しんで、早退して、吐くほど嫌な気持ちになった時に他人が、しかも親しい友人が世間からスポットライトを浴びようとしていた。その事実が完全に脳に入ってきた時、いよいよ耐えられなくなって、駅のトイレで吐いた。

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