タバコの煙
果実Mk-2
第1話
「最近喫煙者は肩身が狭くなって、ちゃんとした喫煙所も閉鎖してるし」
「そんなこと言うならやめたらどうだ?町田」
「神崎、俺が何時から吸ってるか知ってんのか?」
「イキんな21、一年ならやめれるだろ」
「黙れ!俺は高額納税者だぞ!」
「はいはい、ほら丁度そこに喫煙所あるから行ってこい」
「あ、ほんとだー」
前に吸ったのが一時間半か時間的にはちょうどいいな、ってタネ切れてる......
近くにコンビニは無いし、スーパーとかも売ってねぇし、誰かに貰うか......ちょうど誰かいるし、その人に聞いてみるか。
「あの、すみません、タバコがちょうど切れちゃって一本貰えませんかね?」
「ん?私?」
「はい、ホント一本でいいんで......」
偶然話かけた人はドタイプな女の人だった、高めの身長に長めの髪。
自慢じゃないが高校は男子校で大学も男友達しかいない、コンパとか行っても酒は飲めないしで女の人と関わりは全くなかった、そんな俺にはこの人は砂漠のオアシスと言うか。
「ん?要らない訳ないだろうけど早く取ってね」
「その、それじゃあ、ライター......」
「あぁ、君電子?」
「はい、家族に臭いって言われて、変えたんですよ」
「そうなんだ、優しいんだね」
「そ、そんなんじゃっアッツ」
あれ?ライターってどようやってつけてたっけ、タネ挿してちょっと待ってれば勝手に吸える電子に慣れてて、中々火が出ない。
「あ、もしかしてライターつけるの下手なの?ちょっと貸して」
そういって女の人がライターを俺から取り上げ、火を出してくれた。
けど、そうするとこの人に近づく訳で、免疫がない俺には
「ほら、早くしないと火が消えるよ」
「は、はい」
「私、結構キツイの吸ってるけど大丈夫?」
「え?エッホエッホ」
気付かずに煙を吸い込んで肺に入れた事でむせてしまった。
「電子吸ってる人にはやっぱりキツかったか、でも私もこれしか持ってないからごめんね?」
「い、いえ自分が買い忘れたの原因ですし」
「むせ過ぎだよ君、あ、ちょっと涙目にもなってるし」
あ、ちょっと笑ってる、タバコがキツイのも遅れて言ったから、忘れっぽいのか茶目っ気があるのか分からないけど、すごく美人だ。
「もう一本吸っていこうかな」
そういって、この人はタバコに火をつけ吸い始めた、キツメの奴なのにむせる事はない、本当に慣れてるんだ。
「結構吸うんですか?」
「んーまぁ一日に二箱って感じかな」
「結構なヘビーですね」
「そうだね、そういう君はどれ位なんだいい?」
「一日一箱いかない位ですかね」
「そういう君もヘビーに片足突っ込んでるじゃないか」
「否定はできないですね」
「私は周りに吸ってるのが居なくてね、こうして話しながら吸う機会も少ないんだ」
「自分もですね、周りは健康の為にって」
「そうなんだよ、その割には酒はガンガンと飲んでいくんだ」
「これじゃ、どっちも健康に悪いじゃんって」
吸殻を灰皿に落としながら話した。
「どうだい、もう一本?」
「それじゃ、頂きます」
「今度は自分でつけるんだよ?」
「流石にできますよ......よし、今度はつけれた」
「渡しておいてなんだけど、私はもうすぐ電車の時間だからね、ここらで行かせてもらうよ、君と話すの楽しかったよ」
女の人が行ってしまう、タイプだし話していて楽しかった出来れば名前、欲を言えば連絡先を聞きたい、ナンパとかって思われないか?思われるよな。
「あ、あの」
「なんだい?あ、ここら辺はコンビニ少ないからね、これをあげるよ」
「いや、タバコじゃなくて、良かったら連絡先交換しませんか?」
「んーそうだね、もしも次に会ったならその時に交換しよう、だからと言って毎日ここに来るのは無しだ」
次か......ここら辺じゃ見かけた事が無いから無理だろうな、ってか軽くあしらわれた、やっぱり美人だとこうやって連絡先とかよく聞かれるのか?
「まぁ、無かった事にしてさっさと戻ろ」
灰皿にかなり残ってるタバコを捨て、神崎の元に戻った。
「戻ったぞ」
「おせぇよ、あちぃ日に長時間待たせんな」
「わりぃわりぃ、つか十分そこらで文句言うなよ」
「お前なんか臭くね?」
「は?喧嘩か?」
「いや、いつものタバコと違う匂いがしてさ」
「あーちょうど切れててな人から貰ったんだよ」
「はー珍しいな、珍しいのか知らんけど」
「まぁ、珍しいんじゃね?運が良かったって事で」
「そうなんか、これからどうするよ、俺は帰りたい」
「買いたいもんは買ったし帰るか、んじゃ運転よろしく!」
「アッシー君がんばりまーす」
あの喫煙所の美人と会ってから2日、あの喫煙所には行ってない、そもそも会える訳ないしな、そんな俺はコンビニの仕事を適当にしながら退勤の時間を待ってる。
「タバコのえーっと624を二つ」
「はい、こちらでお間違いないでしょうか?」
「あってるよ、ってこの前のタバコがなかった子じゃないか」
客なんてどれも一緒だし、顔なんか見なくても接客は出来るしで、気にはしてなかったけど、この前の人だ。
「あ、この前はどうもです、連絡先の事は忘れて貰ってもいいんで......」
「あれは、私が声をかけられた時によく使うんだよ、実際に会えば交換するし」
「そ、そうなんですね、1180円になります」
「はい丁度、レシートはいいから、それで後どれくらいで終わりそうなのかな?町田君」
「十時までなんで後十分っすね、それに何で名前」
タバコをくれた女の人は左胸を指で指した。
「あぁ名札」
「それじゃ、私は車で待ってるから、黒の普通車だから」
「あっはい」
「それじゃ、頑張ってね」
迷惑な客が来るわけでもなく、すんなり終わった、今日はちゃんとタバコは買った。
「はい、アルバイトお疲れ様」
「どうも......」
「ほら、乗りなよ」
「それじゃあ、失礼します」
「君固くなり過ぎだよ、ほらどうしたのこの前会った時の感じはさ」
俺の肩を軽く叩きながらそう言った、正直落ち着ける訳がない、ほぼ一目惚れした人に偶然会って、その人の車に乗ってるってどうなってんだよ。
「あれは初対面だったし」
「もしかして、人見知り?」
「まぁ、多分......」
「その反応は、答え言ってる様なもんだよ」
「それで、連絡先なんですけど」
「まあまあ、そう焦らないで夜はこれからなんだから、ドライブに付き合ってよ」
そう言うと車を発進させた、俺は焦ってシートベルトをした、運転姿も綺麗だこれが美人の特権って奴か。
「タバコは勝手に吸っていいから」
「そうですか......」
「吸わないの?なら私が吸っちゃおっと」
胸ポケットからタバコを取り出し口にくわえ火をつけた、タバコ特有の煙たさと匂いが車内に充満した。
「それより、何でドライブに連れてかれてるんですか?」
「まー私が暇なのと、君ともっと話したかったからかな」
「それは光栄です」
「君に次に会った時に連絡先交換しようって言ったじゃない、実際本当に会ったら交換はしてるんだ私」
「やっぱり美人だと話かけられるんですね」
「お世辞が上手だねぇ~」
「お世辞なんかじゃないですよ」
「まー嬉し。それでね、こうやってデートに私から誘ったの初めてなんだ」
ハッキリ言ってありえない程驚いてる、急にデートとか言われても人生でデートとかしたことないし。
「おー驚いてるね」
「そ、そりゃ急に言われたら」
「二、三人にデートに誘われたけど、あんまり楽しくなかったんだよね」
「まぁ、知らない人とタイマンで出かけるって楽しくはなさそうですよね」
「それでね、私から初めて君を知りたいと思ったから、こうしてデートしてるの」
「や、そのすごく嬉しいんですけど」
「けど、なんだい?」
「俺なんて面白い人でもないし、知ってもらう様なのじゃ......」
「それは私が勝手に決める事だから君の意見は存在しないのだー」
アクセルを踏みスピードを上げ、笑いながらバッサリと俺の意見を無視した。
「ちょっと!危ないですって!」
「大丈夫だって、この時間警察も居ないし」
「それとこれは別でしょ⁉」
「しょうがないなぁ、それにもうすぐ目的地だしね」
地元なのにあんまり知らない、展望台に着いていた。
「ん-疲れたー」
「ここどこですか?」
「あ、私最近ここら辺に越してきてね、最近のお気に入りの場所」
「答えになってない」
「夜景がきれいで人が来ない、二人っきりで話すには丁度いいよね」
「ロマンチストなんですね」
「そうかもね」
「それで、どうですか、俺の事知れましたか?」
「どうだろうね、この前の喫煙所と今のドライブだと、私の好きな部類の人って事しか分かんないかな」
「そっ、そうですか」
「世の中色々すっ飛ばして関係を深めるなんてできないし、まずは友達からって所かな」
また、タバコ吸ってるし。
「確かにそうですよね」
「あ、タバコ欲しかった?」
「自分のがあるんで......あれ?ない」
「君が欲しいのはこれかな~?」
彼女は俺のタバコをいつの間にか持っていた、スリの才能でもあるのか?
「タバコが吸いたかったら、私のを吸いなさい」
と言って俺にタバコをさしだした、渋々そこから一本受け取り口にくわえた。
「いただきます、って火......」
「あぁ、ちょっとじっとしててね」
そういって、彼女は俺に顔を手で覆い動かない様にし、火のついたタバコで火をつけた。
「ほら、火が付いた」
「え?えっとこれって?」
「シガーキス、私の憧れの一つ、これからよろしくね町田君?」
タバコの煙 果実Mk-2 @kaji2
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