第23話 たーげっと 三バカ
◇
「さて、先生に頼まれた通りノートも集めたしこれを渡して俺も昼に入るか」
男子生徒は一人、科学室でクラスメイトから集めたノートを整理していた。
四時間目。教科は物理。移動教室で科学室での授業を終えた。今は今日日直の男子生徒……新田しかいない。
「戻ったら豊が葉凛部の男子が誰なのか話し合うとか言っていたが……そっとしておいてやればいいのに。グリーンさんと知り合いなのは少し気になる気持ちはわかるが──「お望み通り教えてやろうか?」──え? グエッ!?」
新田が独り言を呟いていると突如として誰かの声が背後から聞こえて来る。
それに驚き反射的に背後を向うとした新田だったが振り向く前にその相手から首を軽く絞められ身動きが取れなくなる。
な、首が。誰が……このっ! ちか、ら、強す、ぎ……誰か――
野球部に所属し178㎝という体格の良い新田。それなりに鍛えている為簡単に誰かに力で負けるとは思っていなかった。なので振り払おうと抵抗するが、こうもあっさりと身動きを封じられるとは思っていなかった。
それも自分が首を絞められるまで誰かが近くにいたことを全く気付かなかった。
「質問だ。俺の質問に「YES」か「はい」又は「頷き」で答えろ。ふざけた真似をしたら、おとす」
「!」
新田が恐怖に駆られている時、背後からそんな低い声量の声を投げられる。
今の状況で馬鹿な真似をするほど考えなしではない新田は声を出さずにコクリと頷く。
「ふん。理解が早くて助かる。一つ。お前の名前は新田康介。野球部に所属している」
「(コクリ)」
新田は抵抗をしない。
言われたことを言われたまま行動に移した。
「なるほど。二つ。お前の友人に谷元淳。尾崎豊がいる」
「……」
その質問に新田は答えない。いや、答えられなかった。答えたら自分が自ら友人を売る行為になってしまう。だから、新田は――
「ダンマリはなしだ」
「うぐっ!?」
それを許さない。
新田の首を絞めている腕に力を入れる。
その時に新田が呻くが取り合わない。
「二度目はないぞ。谷元淳と尾崎豊の二人はお前の友人か?」
「(コクリ、コクリ)」
相手が本気だと理解した。
完全に恐怖に呑まれた新田は壊れたおもちゃのように何度も頭を上下させる。
「動くな」
「!」
その底冷えする低い声で新田は面白いように動きを止める。
「安心しろ。次で最後の質問だ。三つ。谷元淳に彼女又は好きな人はいるか。知ってること全て吐け。今から口を開いても良い」
「お、俺は──」
絞められていた首の力が少し緩み話す自由を与えられた新田は既に恐怖に呑まれていた。その勢いで――
「……ご苦労。解放してやる」
その言葉と共に解放される。
話を無言で聞いていた新田だが、その間特に口を挟むことはなかった。
解放された新田は新鮮な空気を求めるようにその場で首を押さえ蹲ると呼吸を繰り返す。
「っぁ、ゲホッ、ゲホッ……」
「……」
その様子を新田の首を絞めていた人物、身延はつまらなそうに見ていた。
今回は少し強引なやり方だったが必要な情報は入手した。後は
顎に手をやり考えていた身延は今も蹲る新田に近寄る。
「!」
新田は自分の首を絞めた人物が近づいて来ることを感じ体を縮こませる。
「おい、卍男。こっちを見ろ」
「! え……?」
身延は新田のことをそんな前で呼ぶ。
ただ身延がさっきとは変わり普通に話しかけたことでようやく新田は何かに気付く。
「お前は……身延? なんでお前が……」
振り向き、身延の顔を確認した新田は疑問に思うがさっきまでの出来事が情報過多過ぎてついていけない。
「あぁ、身延だ。だがすまないな。色々と考えたいこと言いたいことはあるだろうが今は俺の話に従ってもらう。さっきも話たが……谷元の情報を集めている。お前には俺に借りがあるはずだ、逃げられると思うなよ」
身延の考えが全て理解出来ていない新田は戸惑いの感情を浮かべていた。
リスクを避けてたら少し愛が重い彼女に溺愛されました 加糖のぶ @1219Dwe9
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