第8話 部活動をしたくない男


 ◇



「須藤先生。人は一人では生きれない。それはただの戯言です。集団行動を乱す奴は悪だ。それも一個人の意見です。故に……部活動など俺は要らないと思うのです。その点について先生はどう思いますか?」

「あー、あのなぁ、身延?」


 身延の考えに頭を抱える須藤先生。


「なんです? もしや貴方もそちら側?」

「どちら側とかそちら側とかは知らんが……ただ単に部活がやりたくないだけだろ」

「えぇ」

「……」


 素直に頷く身延相手に須藤は頭を悩ます。

 須藤は自分の席に腰を下ろしており、身延は須藤の横に立っていた。


 須藤茜。

 一年生の頃から身延のクラスを受け持つクールビューティーな教師。

 艶のある黒髪をポニーテールにし、紺色のスーツ姿。それでも醸し出す大人の色気。

 生徒想いの性格から生徒達から好かれている。今の悩みは身延が制御出来ないこと。


 全ての授業が終わった放課後。

 身延は担任の須藤に職員室に呼び出されていた。

 呼び出しの内容は須藤の口から出た様に身延が一向に「部活動」を励まないということがあった。


 ここ葉凛高校は「部活」を最低一つ入っていなければいけないという決まりがある。

 ただこの男はあの手この手で今まで逃れてきた。ある意味問題児だ。


「私もな、一年生からのよしみでお前がどうしても部活動をしたくないからと言うからなんとか今まで上を騙してきたが……限界が来た。このままじゃ生徒会長や理事長に見つかりどやされるぞ?」


 須藤はこう言うが「どやされる」で済むのかはわからない。


「そこで自分が怒らないという須藤先生。これからもリスペクトします」

「黙れ。お前に何を言っても聞かないから私は諦めただけだ」

「先生俺を見捨てるんですか!!?」

「真顔で近付いてくるな、誤解されるような言葉を使うな鬱陶しい!!」


 そんな戯れ合もあったが身延も須藤が話す内容を理解出来ていないわけがなく、その場で床に手を付く。


 わかっている。須藤先生に匿ってもらって迷惑をかけていたのは。だがそれももう。もし俺が部活動に入部したとしよう……半日で幽霊部員確定だ。だって聞いてくれ。部活動など、そんなものリスクだらけじゃないか……!!


 またもリスクに怯える身延は部活動に入るリスクを考えていた。



 部活動に入った時のリスク。

 

 ・運動部編


『ウェーイ! ウェーイ? ウェーイ、ウェーイ!!』


 な? わかるだろ。運動部は総えて狂ってる連中の集まりだ(※身延君の個人的な意見です)。

 どうせ「ウェーイ」とか言いながら叫び散らかしているに違いない。運動部など好きな奴がやっていろ。ただしカバディはいいぞ。だがそれでも俺は絶対に嫌だ。対人、個人関係なくどんなリスクが待ってるかわからないので却下。


 ・文化部編


『身延氏、今から秋◯でも徘徊しないでござるか? 拙者行きつけのメイド喫茶にでも行って……デュフフ。コポォッ!!」


 な? わかるだろ。文化部も総えてキチガイの集まりだ(※何度も言いますが、身延君の個人的な意見です)。

 どうせ文化部なんてコアなオタクの集まりなんだ。情緒不安定過ぎだろ!! そういう集まりが好きな奴らでやっていろ。俺は絶対に嫌だ。対人……は知らんが、個人としては関わりを持ちたくないので却下。


 これでわかる。部活動はリスクが多過ぎる。


「……身延。どうせまたロクデモナイことでも考えているんだろ」

「はて? なんのことで?」

「……」


 真顔で返してくる身延にまた頭を抱える須藤。

 須藤は自分の机の引き出しを開くと一枚の紙を取り出す。


「身延。今週の金曜までにこの「部活動申請書」に書いてこい。これは決定事項だ。わかっているよな?」

「……検討しときます」

「いいからやれ」


 苦虫を噛んだような顔付きの身延。

 凄みながら渡してくる須藤から手渡された「部活動申請書」を渋々受け取る。


「捨てるなよ。必ずへ持ってこい。猶予は3日だ。3日もあれば十分だろ」

「……了解」


 須藤先生に釘を刺された身延はそれ以上特に言い訳をせずに「失礼しました」と言うと職員室を後にする。



 

「……猶予は3日。今日が水曜だから……はぁ。この後予定があるから今すぐに考えるのは、無理そうだ」


 頭の中で色々と考えながらも校舎から出るために下駄箱に向かっていた時。



        ピロン



 身延が持つスマホに通知を知らせる音が聞こえた。


「はいはい、どうせ母さんか父さんだろ……」


 そう思ってスマホを開いたら。


『身延君お疲れ様。突然ごめんね。今からお話があります。生徒会室に一人で来てもらってもいいかな?』


 レナからのメールだった。


「……校舎内では合わないと約束したじゃないか。それに何処に人の目があるか……」


 「厳しそうだ」と断りのメールを送ろうとした時、そんな身延の考えを先駆ける様な通知が届く。


『安心して。他の生徒会のみんなは帰ってるから。今は最後の戸締りをするってことで私しかいないよ。待ってるね』


 そこで一方的な内容のメールは終わっていた。

 要するに「お前が心配する要因はないからはよ来いよ」ということなのだろう。


「……まだ時間はあるし。グリーンのことだから信じるぞ……」


 少しリスクはありそうだが、これを断った後のリスクの方が怖いと思った身延は従う。



 ◇



「確か、ノックしたらグリーンが内側から合図をおくるだったな。じゃあ……」


 葉凛高校生徒会室に着いた身延は恐る恐る生徒会室のドアをコンコンとノックする。


『……はーい、入って大丈夫だよ』


 生徒会室の中からグリーンの間延びした声が聞こえてきた。

 恐らくそれが「合図」なのだろう。


「失礼します」


 一応礼儀正しく「失礼します」と言いながら生徒会室を開ける。


「身延君、やっほ〜」


 机が六つ並んだ生徒会室内。

 奥には真ん中に生徒会長の机。

 そして隣には副会長の机があり、そこにグリーンが座って身延にニコニコと笑いながら手を振っていた。

 

 






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