第7話 レナ・グリーン ②
感情というモノを露わにした男子生徒は低い声を出すとレナを睨め付ける。そのことに自分の言葉足らずの失態だと気付いたレナは慌てふためき謝る。
『ご、ごめん! 君を不快な思いにするつもりはなくて、その、私心配で……』
自分でも自分が悪いとは思っている。なので目に涙を溜めながらも謝る。
『……別に。俺の方こそ、言い方強かった。それに……ありがとう』
レナが頭を下げて謝っていると男子生徒はぶっきらぼうに自分も悪かったことを伝えてくる。
相手の男子生徒が話のわかる人で良かった。
『……うん。じゃあ、お互い様、だね?』
『……そうだな』
『でも、なんで一人で掃除を?』
『汚いからだ』
『ヘ?』
予想をしていた答えとは違くの時は素で返していた。
『だから、汚いからだ。お前だってそうだろ? 自分が過ごす部屋が汚ければ掃除をする。当然だ』
『じゃ、じゃあ。別に今日の掃除当番とかじゃあ』
『ない』
『教室が汚いと思ったから、君は自主的に掃除をした?』
『そう言ってる』
『なんだぁー、良かった〜』
『……』
私が何もなかったことに安堵していると視線を感じた。そのことにビクッと震えた私はその視線を追うと……彼から
『あ、その、違くて。私も生徒会の仕事で……あぅ……』
『はぁ、いい。俺も今日のことは忘れる』
『……ありがとう。優しいんだね。掃除手伝おっか?』
『帰れ。お前は生徒会なんだろ。時間は?』
『……え……あぁ!?』
『……』
彼から言われた通り時計を見るとかなり時間が経っていた。この後一年生の教室も見回る予定なのに。
また彼からあのダメな人を見る視線が向けられている様な……絶対向けられているが、私はなんとかその視線を掻い潜り教室から逃走を図ります。
『ま、頑張れ』
私が恥ずかしさからか顔を真っ赤にしながら彼がいる教室を後にする中、後ろからそんな優しい声が聞こえてきます。私はその時振り返れませんでしたが、彼が私に向けて「頑張れ」と言ってくれたことはわかりました。
そのことが何故だがとても嬉しくてりんごの様に真っ赤に染まった頰のまま一年生エリアを回り、生徒会に戻りました。
案の定、頰の赤らみについて突かれましたが……。
でもその時からです。私は彼を……身延りく君を意識し始めたのは。
私は身延君の名前を知らなかった。なので仲の良い友人に聞いたら知ってる人がいました。
『あぁ、その人確か……身延君でしょ? 顔はいいんだけどいつも無愛想で無口だから誰も側に寄らないとか。まぁ、私も怖いから少し、ね?』
その時身延君のことを教えてくれた友人に「身延君は優しいよ!」と伝えたかったのですが、なんでか言葉が出なかったです。
『そ、そうなんだぁ〜。友達から怖い人がいるって聞いてたから。わ、私も怖い人は、ちょっと? でも教えてくれてありがとうねー』
私はそんな心にも思わない言葉を返していました。
ただこの時は身延君を気になっていただけで……恋をしていたわけではありません。この時は私は身延君を知ることで身延君の優しさを知りました。
私が身延君を好きになったのは些細なとても些細な出来事でした。
ある日私は生徒会での朝の挨拶があるから家から早く出ると学校まで余裕を持って登校していました。その時たまたま重そうな荷物を持つお爺さんを助けている身延君の姿を見つけました。
身延君はこの後学校なのに見ず知らずのお爺さんを笑顔で助けていました。そんな身延君の姿を見てその時私の頰が赤くなることを自覚しました。私も一緒に助けたかった。「でもこの後生徒会の挨拶もあるから」と思いその場を後にしました。
私は身延君とお爺さんのことを考えてしまい挨拶運動にしっかりと励めませんでした。副会長として失格ですね。それに身延君はまだ来ません。あと少しで遅刻になっちゃうのに……。
そう思っていた時、遠くから額に汗をかきながらこちらに走って来ている身延君がいました。私は「良かった!」と思いました。ですが時刻を見てみると……。
『はい、身延。今日もお前遅刻な』
『……はぁ、はぁ、すんません』
生活指導の先生の
そう思いましたが、身延君は特に何も言わずにただの「寝坊」だと伝えてました。その時に須藤先生は浮かない顔をしてました。
ただ気になった私は身延君が居なくなったことを見計らい須藤先生に聞きます。
『先生。身延君は遅刻じゃないんです』
『ん? それはどういうことだ?』
『私登校する時に身延君を見たんです。その時彼は困っているお爺さんを助けていました。なのでそれが原因で身延君は……』
『……だとしても遅刻には変わりない。それに身延だって何も言わなかっただろ?』
『でも……』
私はそれでもおかしいと思い何か言おうとしました。でも言葉が出てきません。不甲斐ないです。
『悪かった。私も少しからかいすぎた』
『え? え?』
私が俯いていた時須藤先生はそう言うと笑みを見せてくれます。
『私も
『……今日みたいに人助をしているから』
『多分な。アイツが自分から言ったことじゃないから真実は不明だ。でもグリーンが言うならアイツはある意味優しい嘘をついてるんだな』
『はい、彼はああ見えて優しいので』
『……』
私は身延君が人に褒められるのが嬉しかったのか口に出していました。須藤先生は驚いた表情を浮かべる。が、それも一瞬でニヤニヤといやらしい笑みで見てくる。
『な、なんですか。私は本当のことを言っただけです……』
『ふむふむ、まぁそう言うことにしとこう。ただグリーン』
『は、はい!』
ニヤケ顔を作っていた須藤先生は真剣な顔を作る。
『
須藤先生は本当に生徒思いなのか身延君のために頭を下げて私にお願いしてきました。でも、そんなものいらないです。だって。
『任せてください、私これでも葉凛高校の生徒会副会長ですから!』
だって彼の優しさを知っているのは私だけ。彼のことを気になっているのが私なんだから。
言葉では模範の生徒を演じていますが、心の内は誰にも見せません。
『そうか、じゃあ、頼むぞ……副会長』
須藤先生はそう言うと私の頭を軽く撫でて校舎に歩いて行きます。
『……頑張らなくちゃ。身延君と向き合おう』
そう私は決心を決めます。
私は決心を決めた時から身延君を見かけたら目で追ったり、たまに話しかけていました。身延君は無視はしませんがやはり何処か壁があるように感じます。でも私は負けない。だって、だって……あれ? なんで私はこんなに必死になってるんだっけ?
その時はその気持ちがわかりませんでした。でも身延君と関わっていくことでわかりました。
困っている人がいたら無償で助ける身延君。人が嫌がることを自主的に行う身延君。子供にとても優しい身延君。身延君。身延君……身延君。
私は鈍感ではありません。この気持ちにもう気付いています。初めは興味、好奇心。次に意識をした。そして……彼の沢山の姿、顔を見た私は……恋をしていました。
初めから膨らんでいた気持ちが溢れ出します。私は身延りく君のことが好きなのだと。
「すき、すき、すき。身延君、君のことが愛おしいほど、私は……レナ・グリーンは大好きなんです」
一人呟くとレナは家でだけ待ち受けにしている身延の横顔が映るスマホの液晶に口付けをする。
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