第6話 レナ・グリーン ①


 ◇


 

 の身延とメールのやり取りを堪能できたレナはピンク色の可愛いパジャマ姿でスマホを胸に、枕に顔を埋めていた。



「うー! 今日は本当に最高な日だよ。身延君ともその、こ、恋人同士にもなれて。と遅くまでメールのやり取りをする……夢、叶っちゃった」


 そんなことを言うとまたその火照った顔を隠す様に枕に押し付ける。


「……でも、本当に良かった。思っていた通り優しいし。身延君も私と……付き合いたかったとか? 両想いだったら、嬉しいな……」


 レナは頰が緩むのを感じながらスマホで隠し撮りした身延の横顔を眺める。


 そんなレナが身延を好きになった、意識をし始めたのは必然的だったのかもしれない。


 レナは両親共にアメリカ人だ。ただ日本で生まれ育ったレナは自分も歴とした日本人だと思っている。生まれながら持つその美貌と天性の人懐っこい性格からか子供の頃から男女関係なく慕われていた。

 ただ中学生へと上がると男女共に異性を気にする様になってくる。それはレナもレナの周りの人間もそうだった。それにレナは小学生高学年から中学生に上がるにつれて胸の膨らみの主張が激しくなっていた。


 そのせいかはわからないが異性からの目を気にすることが多くなった。それは昔からの友人からもそんな目で見られていた。時には告白をされたこともあった。レナとて自分のことを好いてくれるのは嬉しい。

 自分に好意を示してくるのは見てわかった。でも誰も彼も自分自身のことをしっかりと見てくれていないと感じてしまった。


 みんなは私のだけを見て誰もなど見ていなかった。


 私は内面を好きになって欲しかった。

 それに知ってる? 女性はに敏感なんだよ。


 恋愛への憧れは人一番あったと思う。物語の様な素敵なシチュエーションは望まない。けど、のことを見てくれて私が好きだと思える人に逢いたいと願った。


 私は高校に上がっても変わりなく私の外面容姿目当ての男性から告白されることが増えた。上手く告白を断ることができない私は仲の良い友人達に守って貰うことも暫しあったけど申し訳ない思いで一杯だった。

 ある日私がそのことを友人に話すと「レナは押しに弱いから心配」という言葉が返ってきた。


 やっぱり自分が変わらなくちゃ。


 そう思った私は少しでも変わればと思い生徒会に入った。

 

 生徒会に入った私は先輩や友人に助けられながらどうにか自信をつけれた。今も告白を断ることは心苦しい。それでも昔よりは変われた。そんな私に転機が訪れる。


 二年生に上がった私は放課後生徒会の仕事が終わって手が空いたから各教室に何か不備がないか副会長として見回りをしていた。

 私は二年生最後の教室。二年三組の教室の前に来て中に入ろうとした時、教室内に誰かがいることを察知して直ぐに中の様子を盗み見みることにした。


『あれは……掃除をしてる? でもなんでこんな時間に掃除なんてしてるのかな? それに一人でなんて……』


 葉凛高校は帰りのホームルームが終わると週に決まっている掃除当番のクラスメイトで教室の掃除を行うのが決まり。なのには一人で掃除をしていた。


 そんな私の頭に初めに浮かんだのが「いじめ」という単語だった。


 葉凛高校では「いじめ撲滅」を推奨している為そんなことはないと信じたいレナだが、本人に聞いてみないとわからない。相手が男子という迷いはあったがレナは動く。



 ガラッ! レナが勢いよく教室のドアを開けると中の男子生徒はレナに顔を向ける。

 その時にまた視線を向けられると思い身構えてしまう。でも予想を裏切りそんな視線は一向にこない。おかしいと思いその男子生徒の方に顔を向けると……。


『……』


 何もなかったと言いたい様に黙々と掃除を行なっていた。

  

 その時私は自分の顔がカッーと熱くなることを感じた。異性は自分のことを意識して変な視線を向けてくるのは本当だ。でも意識して敏感になっていたのは私も一緒だった。


 そのことがわかったレナはその場から逃げ出したい思いで一杯だったが、なんとか平常心を取り戻す。


『その、一人で掃除をしてるみたいだけど、他の人は?』

『……いない』

『ッ!!』


 レナは返ってきたその言葉と……その男子生徒の顔を見て驚く。


 勿論「いない」という言葉には驚いた。でもなによりも驚いたのが男子生徒の顔……だった。

 顔は無表情を貼り付けて、レナなど映していないという様にどんよりと虚ろいだ目だけがそこにあった。


 ただおかしい。普通だったら怖いとか思うかもしれないのにその時は……ドキリと胸が疼いた。


『用が無いなら帰ってくれ』


 レナがそんな初めての感情に戸惑っていると男子生徒はつまらなそうにレナのことを一瞥する。そのまま掃除を再開してしまう。


『あ、ある。あります!』

『……?』


 これで話が終わってしまうのがと思ってしまったレナは大きな声を上げる。男子生徒はまた手を止めてこちらに顔を向けてくれた。


『普通だったら数人で行う掃除を君一人でやってるから……その、いじめ、とか思っちゃって……』


 ただその考えなしの言葉がいけなかった。


『いじめ? その場の状況だけ見ただけで決めないでくれるか? 実に不愉快だ』


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