第5話 恋とは



 恋愛とは、恋とはなんたるや。


 俺は元々誰かに恋をしたことがない。そもそもが男女が付き合ったところでなにをするのか?


 子孫繁栄の為に〇〇○ピーをしたり、〇〇ピーをしたり、〇〇○〇〇○自主規制をするのか? 俺にはわからん。


 恋愛経験弱者の身延は考える。


「──考えたところで、なんだがな」


 なので自分が頼れる数少ない相手に聞いてみることにした。




「――ふむ。恋愛とは、恋とはなんたらや、か」


 俺はリビングに行くと一人ソファーに座り新聞紙を読んでいた実の父に説いた。


 父、この場合は身延父と呼ぼう。

 身延父は少し白髪が混じった髪、身延よりも男前な顔つきをしている。

 身延父は新聞紙を読むのをやめると近くに置き、身延の質問に考える姿勢を示す。


 我が父。俺も両親の恋話など聞いたこともないが、仮にも結婚をしている身だ。俺には到底考え得ないことを知ったうえで母と結婚したのだろう。


 さて、父の答えはどうくる?


「……そうだな。私は……」


 両手を組む身延父は宙を眺める。そして虚ろな目で。


「……私も、恋がわからない」

「……」


 父がふざけていると思った身延は近くにあった椅子を持ち上げる。


「待て、待ってくれ息子よ。一旦落ち着け。そしてその椅子を下ろしてくれ」

「……」


 身延は父を椅子で殴り飛ばしたいという衝動をなんとか納め父の話を聞く。


「私も少々ふざけすぎた。だが聞いてくれりく君。私は本当に恋が……恋愛がわからないんだ」

「……」


 そう言うと本当に「恋」についてわからないのか深刻な顔を作る。


「でも、母さんと父さんは結婚したんだろ? それは好き合っていたから、ではないのか?」

「……それは、そう、なのかもしれないが……」


 身延父は言い辛そうにそう言いながらも周りを確認する。


「? どうしたんだ?」

「い、いや、母さんがいないか確認していてな」

「あぁ、母さんなら今風呂に入ってるぞ」

「そ、そうか」


 俺の言葉に安心した様子を見せる父さん。


「母さんが、何か関係あるのか?」

「ま、まぁ」


 身延父はコクリと頷く。頷くと少し何かを決心した様な顔付きになる身延父。


「そうだな。りく君ももう高校生だ。この話は話しても良い頃合いなのかもな」

「何かあるなら、聞かせてくれ」

「わかった。ただ驚かないで聞いてくれ」


 父の言葉に息子は真剣に向き合う。


「私は母さん、奈々に――監禁されていた」

「……」


 その言葉を聞いた身延は頰が引き攣るのを感じた。


 父さん、父さん。多分驚かないで聞くのは無理がある。いきなりカミングアウトしすぎで草。


「そう、私と奈々は幼なじみ同士だった。そんな私達は幼少の頃から家が近かったからか実の兄妹のように育った。その時私は奈々にまだ恋心を持っていなかった。だがある日……」

「……」


 なんかペラペラ話し始めたんだけど。これは聞いて良い奴なのか?


「りく君と同じ高校二年生のある日、私は同級生に告白された。そして――奈々に監禁された」

「……」


 その監禁された経緯を教えてくれ。そして俺と同じ歳に時系列を並べるのはやめてくれ。頼むから。


「私は訳がわからなかった」


 だろうな。


「だが、私は奈々を説得する為になんとか足掻いたが……激しかった」


 何が?


 色々と疑問があった。だが話を遮ることなく今は聞く。


「そんな生活をして行くうちに――私は奈々のことを意識し始め、そして好きになり結婚していた」


 展開早すぎで南光坊天海。本当に何があった。父さんは何かに目覚めたのか?


「ふぅ。だから正直、恋について上手く語れないのさ。私がわかったことは一つ。物理的に「好き」という想いをぶつけることがいいと思う」


 あ、多分これ何かに目覚めてるわ。


「どうかな? タメになったかな?」


 なるわけねーだろ!とは言いたい。言いたいが、ちゃんと俺と向き合った上で話してくれた訳だからな。


「まぁ、多少は。話してくれてありがとう」

「そうか。ただまだ何か聞きたそうな顔をしているね」

「……あぁ、俺は一つ聞いてみたいことがあった」

「なんだい?」

  

 笑みを薄く浮かべた身延父は聞いてくる。なので身延は話してみる。


「なんで俺に兄弟がいないんだ?」

「君が早く寝ないからだよ」

「……」

「……」


 返ってきた言葉はそんな生々しい内容だった。


 聞いた俺が悪かった。悪かったからその真顔をやめろ。


 この空気をどう変えたらいいか悩んでいた時「りく〜お風呂入っちゃいなさい〜」と母の声が聞こえてきて助かった。


 ただその間身延父の顔は真顔のままだった。


 その夜身延の隣の部屋、両親の部屋から「ドタバタ」と変な音が聞こえたとか。




 わかったこと。


 恋とは恋愛をしているものはもしかしたら……なのかもしれない、と。


 身延は考えた。


 全てが全て恋をする人がおかしい人ばかりではないことはわかっている。

 だが身近の両親が恋をする過程でそんなことになっていたと話を聞かされてしまい、恋愛がまた怖くなった。


 リスク、恋そのどちらを天秤にかければいいのか俺にはまだわからない。



 PS.その夜のグリーンからのメールのやり取りは深夜2時まで行われたことをここに記す。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る