第3話 告白の答え



 葉凛高校は部活動で屋上を使う時もあるからとかで午後6時までの間開放されている。

 屋上の扉の入り口まで身延は来ていた。


「……」


 目の前にある扉を開け放てば待ち人がいるはずだ。

 即ち「ラブレター」の真実がわかる。

 本当に待ち人はいるのか、否か。

 ただこの男にはそんなことはどうでもいい。

 いなければ「なんだ嘘告か」と安心してリスクを気にすることがない日常に戻るだけ。いればリスクを避けるだけなのだから。


「さて、鬼が出るか蛇が出るか」


 扉を開ける身延。 

 まず初めに身延の目に移ったものは夕焼けに焼けた空。

 次いてもう時期夏を告げると言いたげな温かな風。

 体育館半分分ぐらいの大きさの広さがある屋上には花壇やベンチが何個かある。


 その一つのベンチに腰掛ける人物がいた。


 その人物は日本離れしたような見た目をしていた。

 肩口までの金色の髪の毛。

 そして白磁の肌。

 青い瞳を持つとても美人でプロポーションのいい女生徒だ。


「……」


 その人物を見て「待ち人」だと確信が持てた身延は一瞬めんどくさそうな顔を浮かべるが切り替えて待ち人の元へ歩き向かう。

 待ち人も身延の存在に気付いたのかベンチから腰を上げて立ち上がる。


「……待たせた、悪い」


 上手いことなど言えない身延はまず謝罪から入る。


「ううん。身延君なら来ると、必ず来てくれると信じていたから大丈夫!」


 身延の謝罪を聞いた女生徒は身延が遅れたことに特に気にした様子はなさそうだ。

 身延のことを信じていたなどと言ってくる。

 そんな女生徒の対応に調子が狂うと思う気持ちを隠すために頰を掻く。


 今目の前で笑みを浮かべている女生徒の名前はレナ・グリーンという。

 気さくな性格とその美貌。そして高校一年生から生徒会に入っていたレナは高校二年生となり生徒会副会長に就任した。

 そんな存在のレナが人気者にならないはずがなく、今では葉凛高校では誰もが知っている。

 友人がいない身延も知っているほどだ。それに身延に「ラブレター」をくれた本人で間違いなさそうだ。


 聞いた話だとレナは両親共にアメリカ人で日本で生まれ育ったレナは外国語よりも日本語のほうが好きだとか。


 友人がいない俺はそんな噂しか知らんが。


「そうか。それで」

「う、うん。えっとね……」


 早く話し合いを終わらせたかった身延はレナ相手に真顔で急かす。

 ただレナはレナで身延から視線を外すと体をそわそわと揺らし左手で自分の髪の毛を弄る。


 ふむ。周りには誰もいない、と。まあグリーンがそんな馬鹿な行いをしないことはわかっているが。罰ゲームという線も捨てきれないからな。


 レナの忙しない姿を他所に身延は周りを観察する。


「あ、あのね、その……らぶ、ラブレター! そう、ラブレター! 身延君は読んでくれた、かな?」


 少し挙動不審にそんな事を伝えてくる。

 少し怪しいと思ってしまうが一応の信頼を置いているレナ相手に特に野暮な話題は振らない。


「……あぁ」


 短い言葉だがしっかりと伝える。


「あ、ありがとう。その、それで……あの、いきなりであれだけど……私と、私と……してください!!」

「……」


 顔全体を真っ赤に染めたレナは右手を前に出すと頭を下げる。

 

 身延は仏頂面で硬直。


 あぁ、知ってる。ラブレターをしっかりと読んださ。読んだ上で俺はここに来た。中身も俺のことを「一目惚れです」「好きです」などという眉唾な言葉が並んでいたが。

 ただ「結婚を前提に付き合ってくれ」などと言われるとは露知らず。


 だが返事を返さなくてはいけない。それも既に決まっている言葉を。






「……同意しよう」


 俺はそんな一言を口にすると彼女の出す手を取る。



 



 

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