第2話 身延


 ◇


 放課後


 身延は「ラブレター」の相手が指定してきた屋上に行くわけでもなく、一人自分の教室に居残り教室の掃除をしていた。


「……」


 ホウキを片手に無言で黙々と一人で行う。

 本当は何人かで掃除をするのが決まりだが今は身延以外誰もいない。

 身延とて何人かで掃除をやれば早く済むので相手を待たせることなく屋上に行けると思っていた。


 だがそれは身延の思い違いだった。


 身延が在学している「葉凛ようりん高校」は帰りのホームルームが終わると週に決まっている掃除当番のクラスメイトで教室の掃除を行うのが決まりだ。

 クラスメイトや担任の先生が出て行った教室。さて掃除でもやるかと思っていた矢先。


『あぁ、俺達この後部活あるから後頼む』

『そそっ! は暇だろ? 部活もやってないみたいだから頼むわ!!』

『大丈夫、大丈夫! は引き受けてくれるよ〜。マジ卍だからな!』


 一緒に掃除をするクラスメイトにそう言われてしまう。


 そんな中身延は。


『……あぁ』


 簡単に引き受けることにした。


 これも理由は簡単だ。

 リスクを避けるためだ。

 わざわざ掃除のことで言い合いになるのも癪だ。

 それにこんなことで後一年過ごすクラスメイトと荒波を立てる必要性もない。


 身延の了承の言葉を聞いた三人は嬉しそうにお礼を言うと身延一人を残して部活とやらに向かう。

 三人を見送る身延は色々と言いたいこともあった。


 まず俺の名前は「身延」だ。

 「み、の、べ」。「〇〇べ」と最後に「ベ」を付ければいいもんではない。

 それに最後のやつ。お前は一体何をどうして大丈夫だと思った? なんでお前だけ名前当ててる……最後に余計な言葉もあったが。そもそもお前の名前もしらねぇよ。卍固めするぞタコスケ。


 ……とは心の内だけで終わらせる身延。


「……チッ」


 舌打ちぐらいは許して欲しい。


 掃除を速やかに終わらせた身延はようやく待ち合わせがいる放課後の屋上へと足を運ぶ。

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