妻とふたり健康保険と年金の手続きのため市役所に来ぬ(医師脳)
窓口で説明を受けているうち少しずつ〈無職〉の老いの身を痛感させられる。
「いざとなったら医師免許証は使えるのだから」と強がってはみるものの……。
そこで捻りだしたのが新しい肩書――(心得)付でも憧れの〈コラムニスト〉である。
コラムニストなら、ボブ・グリーン。
さっそくアマゾンで検索し、新品のなかから最安値のものを発注!
ところが宅急便で届いたのは、講談社英語文庫『CHEESEBURGERS』だった。
「ボケ予防になるだろう」と負惜しみで辞書を取り出す。英文の意味は取れても話のツボが分からぬまま読み進む……。
『Cut』野球チームをクビになった少年時代の悲話は心に響いた。
そして自分の悲話二題も思い出す。
青森市立橋本小学校に通っていた頃、クラスごとに野球チームがあった。
「今日も打たせてもらえなかった」と母に話した翌朝、4枚の小座布団が入った袋を持たせられた。四角形3枚のほかに(ホームベースのつもりの)五角形を、夜なべで作ってくれたのだろう。
「ゆきおのおかあさんはスゴイな!」とチームメートは喜んだが、レギュラーで打った記憶はない。
医者になってからは、大学病院の医局対抗野球チームに(女医さん以外は皆)入れられた。胸に〈OB & GYN〉のユニフォーム姿で、バッターボックスに立つ。
「曲げてやれ!」と後ろでキャッチャーが怒鳴る。――サインは出さないの?
「カーブは打てない」と、ハナから読まれていたのだ。それでも数年間は「8番ライト中村君」を続けられた。
誰にだって得手不得手はあるだろう。
「医者でコラムニスト」なんていう人生も悪くはないぞ!
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