2#3 卑怯者




「おうおうおう。来てやったぜ花園パイセン」



土曜日、前日に言われた通りに俺は花園に呼び出され、落ち合っていた。


場所は繁華街にある客の少ない喫茶店だ。そこに着くと既に花園が茶をしばいて待っていた。


つーか、コイツなんで俺の連絡先知ってたんだろうな。教えたはずはねーんだが。



「やあやあ火之迦具土神くん。昨日ぶりだね。まあ座りたまえよ」



俺は促されるままにテーブルを挟んで花園の対面に腰を下ろした。



「なにか飲むかい?ここはボクが奢るよ」


「そうか?んじゃまぁ遠慮なく頼むわ」



店員を呼び出して飲み物を注文。しばらくして注文した飲み物が運ばれてくる。



「ミルクかい?これはなんとも似合わないものを頼むね」


「あんだよ悪ぃかよ。丈夫な体にゃ、かるしうむが必要なんだよ」



ミルクは良いぜ。かるしうむたっぷりでこいつさえ飲んどきゃ骨が強化されっからな。飲むだけで強くなれるヤベェ飲みもんだ。これを飲まねぇ手はねぇ。何より美味いしなミルク。ったくかるしうむは最高だぜ!



「んで?仲良く茶をしばくために呼んだわけじゃねーんだろ?さっさと要件を話せよ」


「そうだね。それではさっさと要件をすませようか」



ほとんど俺と接点がない花園が俺を呼び出した要件。それは例のブツに対しての話だった。



「火之迦具土神くんキミを呼びつけたのは他でもない。キミに先日渡した催眠アプリについてだ」




◇◇◇




「……――という訳だね」


「ふーん……つまりだ。この"さいみんあぷり"つーのは使うと相手を好きにできて、最中にヤッた事の記憶は消えちまう。そんでもって、使ってる時の事を皐月に話とヤベェ事になるかもって話しか」


「まぁ、概ねそんな感じだね」


「そうか……覚えてねぇのか……」



思い返すのは激しく皐月に身体を貪られた記憶。


確かに少し様子はおかしいとは思ってたけどよ。そういう事かよ。


そういや俺はあん時、皐月に俺の身体を好きにしていいって言った気がすんな。だから皐月は俺の言葉に従って俺をめちゃくちゃにしたわけか……。


って事はだ。皐月は別に俺の事をどうとも思ってねぇのか?



「…………ッ」



ボヤボヤすんな。なんで俺はこんなガッカリしてんだろうな。意味わかんねぇぜ。



「どうしたんだい?そんな落ち込んだ様子で?もしかしてだが、彼が実はキミのことをなんとも思ってないと考えて落ち込んでいたりするのかい?」


「あぁん?べ、別にそんなわけじゃねぇーよ……」



図星。まさに図星をつかれ少し言い淀んでしまった。



「いやいや、それならばまだ諦めるのは早いと思うよ?だってまだちゃんと彼がキミの事をどう思っているのかを聞いた訳では無いのだろ?だったらまだ彼がキミを好きだという可能性は残っているのではないかい?」


「は、はぁあ……!?あ、アイツが俺の事を好きとか……お、俺は、んなこと気にしてるわけじゃねーよ!?」


「ふふふ……到底そうには見えないが、そういうことにしておこうかな。なんにしてもだ。キミにはまだその催眠アプリがある。どうだい?それで彼に自分の事をどう思っているのか?気持ちを聞いてみたらいいんじゃないかい?」


「……俺はもう、こんな卑怯なモンを使うつもりはねーよ」



相手の意思に反して好き放題する。こんなモノは卑怯者のするこった。俺はそんな卑怯なマネはしねぇ。



「そうだねぇ。確かにこんなモノは卑怯な奴が使うものだ。まっ、なんにしても今後コレを使うかどうかはキミ次第。使ってもいいし、使わなくてもいい」


「俺は二度とこんなもんは使わねーよ」




◇◇◇




虚ろな瞳になった皐月が俺を見ている。


その目は何処か俺を攻めているような気がした。そんな事はおそらく無いんだろうけど、なんとも居心地が悪ぃ思いだ。



俺は……さいみあぷりを、また皐月に使っちまった。



「俺は卑怯者だ……」



ポツリと呟いた言葉が実に虚しく響いた。


こんなモンに頼る自分が情けねぇ。


情けねぇけど、それ以上に俺はもうどうしようもなく皐月の事が……。



好き……?



ああ、やっぱそうなんだな。俺は皐月に惚れてる。


好きつー気持ちはこういう事なんだな。


今までボヤついていた気持ちがようやく理解出来た。


俺はもう1人の女として、皐月に惚れていた。


おそらくそれはもうかなり前からだ。俺はとっくの昔に皐月に惚れてたんだ。


だから俺は皐月と戦いたかった。それで俺の事を負かして貰いたかった。それで負けて、皐月に女にされた時、俺はもうどうしようもなく嬉しかったんだ。


全ての行動と気持ちの理由がわかった気がした。



だから俺は皐月に「誰とも付き合うつもりは無いし、告白されたら全部断る」って言われた時、頭が真っ白になっちまった。


皐月は俺とヤッた事を知らねぇ。だからこそ皐月はそんな事を言えたんだろーなって思う。



だけど、だけどな、皐月。



俺はさ。おまえの女でいてぇ……いや、おまえの女になりてぇんだ……。


もう、どうしようもねぇんだ。自分で自分の気持ちを抑えきれねぇんだ。



気がつけば俺は皐月の胸にすがりついていた。


情けねぇ。ホント情けねぇ。この俺がこんなになっちまうなんて自分でも信じられねぇ思いだ。



「なぁ皐月……都合のいい女で構わねぇからさ……だからさ……また俺の事を抱いてくれよ……」



俺は卑怯者だ。





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