IS#3 矢田美春



「さつきくん……大きくなったらけっこんしよ?」


「うん!いいよ!」


「えへへ、やったぁ……やくそくだからね?わすれちゃダメだよ」



そんな約束をしたのは確か幼稚園の時だった。


今だからこそわかるが、この当時の私たちはけっこんの意味をちゃんと理解はしていなかった。


ずっと一緒に居ようとか、そんな感じの意味合い。だからこそ皐月のアホは深く考えもせずに二つ返事で返してきたのだと思う。



皐月とは家が近所で、幼稚園が一緒だった。よく一緒に遊んでいた。


当時の私は少し引っ込み思案で大人しい子だった。


オイ……今誰か鼻で笑ったな?表出ろ。



ゴホン。



そんな引っ込み思案で大人しかった私に友達は少なかったけど、その中で皐月は常に私と一緒に遊んでくれていた。



「ねぇ……さつきくんはなんで私とあそんでくれるの?」


「なんでって……美春ちゃんの事が好きだからだけど?(友達として)」


「そ、そっかー……さつきくんは私の事が好きなんだぁ……」


「うん!美春ちゃんの事、大好きだよ!(友達として)」


「えへへ……うれしいな……私もね……さつきくんの事が好き、だよ……?」


「ホント!?ありがとう!」



当時は好きと言われて舞い上がって気がついてなかったが、皐月のアホはわりと誰彼構わず好き好き言っていた。ホントあのバカはアホだ。


それから小学生になっても私達は変わらず仲良かったが、ここで少し変化が起きた。


皐月に義妹が出来たのだ。


それから私と皐月と涼花の3人で居ることが増えた。私達の仲は良好で何をするにも3人で行動していたと思う。あの頃は特になんのわだかりもなく楽しくて幸せだった。


だけど、この頃からほんの少しだけ心がモヤモヤするようになった。


特に皐月と涼花が2人で仲良くしているのを見るとチクリと心に違和感を覚えた。


それが何か分からないまま時は流れて、気がつくと私達3人の中に夏雲が加わっていた。


正直な話。当時の私は夏雲の事が好きではなかった。もはや嫌いと言ってもいい。


あのアホ2号は純粋に性格が悪い。


生意気で口が悪く。他人を馬鹿にするし、すぐ調子に乗るし、やかましいし。ホント最悪であった。


こんな奴ほっとけばいいのにと何度思ったことか。



「ねぇ。皐月はなんで夏雲ちゃんと一緒に居るの?」


「え?なんでって……カズとは友達だろ?美春はカズの事、嫌いか?」


「うん……あんまり好きじゃない……」


「そっか……」



それでも皐月は夏雲と一緒に居た。その事が凄くモヤモヤして、いつからかイライラへと変わっていった。



「もういい加減にしてよ!」


「ひゃぅ……!?ご、ごめんなさい……」



そして私は我慢できずに夏雲にブチギレた。


原因は覚えてない。なにかとても些細なことだったと思う。普段の行いが積もり積もって堪忍袋の緒が切れたのだ。


私が怒鳴りつけると夏雲は予想以上に大人しくなった。


なるほど巫山戯た事を言ったら怒鳴ればいいのね。


そんな事があり夏雲は多少はマシになった。生意気言ったら怒鳴られると私に対してビクビクするようになったのだ。


それからというもの私達の関係は良好になっていく。夏雲の性格は変わらず悪いが怒鳴れば平伏して大人しくなる。あまりに弱い。ただの雑魚。


このアホ2号は取るに足らないただの雑魚だと思うと普段の言動も特に気にならなくなって、皐月がいいならどうでもいいかと思うようになった。


それにちょっと夏雲がビクビクしている姿を見るのが楽しい。



そんな具合に多少問題はあったが私達4人は仲良くなれた。



それから中学生になっても皐月とは仲がよかったのだが、この頃から私達の関係に変化が訪れる。思春期である。



仲のいい私と皐月を見てはみんなが私達を夫婦だ、なんだとからかい始めたのだ。


私にとってそれがなんだか、凄く恥ずかしくて、皐月と距離を置こうかとも思ったけど、それでもやっぱり皐月と一緒に居たかった私は……。



「皐月のバカ!」


「ゲぼッ!?」



とりあえず怒鳴って殴ってみた。


それが私なりの皐月とは仲良くないですよアピールであった。



まぁ、それは結局、夫婦喧嘩と扱われ上手くは行かなかったのだけど。



しかし、1度そんなことをやってしまうと引っ込みがつかなくなってしまって、私はそれを続けることになる。


皐月には嫌われると思ったし、後悔もしたけど。態度を変えた私とはうってかわって皐月はいつも通りだった。


皐月は何も変わらない。


しかし私は変わってしまった。


好きな人を怒鳴り、殴る、蹴る。


その事に私は快感を覚えてしまったのであった。




◇◇◇




「サーツーキーッッッ!!!」


「あばらしっ!?」



勢いのままに皐月の背中に飛び蹴りをかました。ズザーと地面を転げる皐月。



「いったぁ……美春。……急になんなんだよ……」


「蹴りやすそうな背中があったからなんとなくよ!」


「普通に酷い!」


「うっさいわね。ほらさっさと立ちなさい。行くわよ」


「驚きの理不尽!」


「あん?なんか文句あんの?」


「ございませんっ!」



だっと立ち上がり背筋を伸ばす皐月。



「ほら行くわよ」


「うっす!」



言うが早いか私は皐月に背を向け歩き始めると皐月は小走りで私の隣まで駆け寄ってくる。



「それで美春。今日は何の用だ?」


「用?別になんもないけど?」



休日。私は皐月を呼び出して繁華街までやってきた。



「はぁ……」


「何よ。用が無かったら呼び出したら悪いわけ?」


「いや悪くないよ」



溜息しつつ呆れた顔の皐月。



「まぁ、最近2人で出かけてなかったしな。それで何処行こうか?」


「何処でもいいわ。アンタが決めなさいよ」


「はいはい。それじゃエスコートさせていただきますよ、お嬢様」


「ちなみに変なとこに連れてったら、ぶっ飛ばすから」


「これは高難度クエスト」



用は無いとは言ったが、用が無いわけではなかった。


ただ皐月と一緒に居たかっただけ、それだけの要件。


一緒になら何処でもよかっただけ。


最悪、変なところに連れ込まれても、ぶっ飛ばしはするが行かないわけじゃない。


まぁ、このヘタレが私を変なところに連れ込む事は無いだろうけど。


少しだけ、ほんの少しだけ。変なところに連れ込んでくれないかなと思う私であった。








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