IS#4 上岡緑
「俺、緑ちゃんの事が好きなんだ。俺と付き合ってくれませんか?」
「は、はい……こんな私でよければ……よろしくお願いします……」
「こんな私とか、そんな自分を卑下することないよ。俺は緑ちゃんだから好きになったんだから」
「皐月先輩……」
「緑ちゃん……」
放課後の図書室。私は憧れの皐月先輩にそっと抱き寄せられて、そのまま唇を重ねます。
心臓の鼓動が早く早く脈打って、身体が火傷しそうな程に熱くなりました。
溢れ出てくる幸せな想いに全身がつつまれて、頭がぼんやりとまるで夢の中のようです。
こうして私と皐月先輩と恋人になりました。
◇◇◇
「緑ちゃん今度デートしない?」
「で、デート……ですか?」
「そうそう。付き合い始めたけど、まだデートしたこと無いじゃない?だから今週の日曜にでもどうかと思ったんだけど……嫌だった?」
「い、嫌じゃ……!ない、です……で、でも、その……私とデートしても……楽しくない、かも……」
「大丈夫。楽しくなくても俺は緑ちゃんと一緒に居たいだけだから」
「楽しくなくて、いいんですか……?」
「そうそう。楽しくなくても、ほら緑ちゃんと一緒に居られたら俺は幸せだからさ。あんまり気負わなくていいよ」
楽しくなくていい。そんなことはないと思いました。楽しい方がいいに決まってます。
私はダメな子です。きっとデートしても上手く出来ません。皐月先輩はそれを分かってるからこそ、楽しくなくてもいいとそう言ってくれたのでしょう。
皐月先輩の優しさが身に染みます。
「だからさ。2人でデート行こう?」
「は、はい……行きます」
こうして私は皐月先輩とデートすることになりました。
そこで私は思いました。着ていく服どうしよう……と。
快諾した後に気が付いてしまいました。
私、私服がほとんどありません。ましてやデートで着ていく様なお洒落な服なんてある訳がありません。
ど、どうしよう……。
◇◇◇
駅前。待ち合わせの時間に遅刻しないように30分前に約束の場所に着きました。
するとどうでしょうか。皐月先輩は既に来ていて私の事を待っていました。
「あっ、緑ちゃん、おはよう。随分と早いね。まだ30分前だよ?」
「お、おはようございます……えっと……せ、先輩の方が早いんですが……」
先輩は一体いつから待っていたのでしょうか?早くついて先輩を待つつもりだったのに……先輩に申し訳ない思いです。
「俺もたった今来たところだから、そんな待ってないよ?」
「そ、そうなんですか……?」
「そうそう。たまたま似たような時間に来て、たまたま俺の方がちょっと早かっただけだから」
「それならよかったです……」
先輩のその言葉は少し嘘くさかったけど、先輩の折角の気遣いなので、深くは追求しませんでした。
「それにしてもその服、可愛いね」
「は、はい……」
先輩に褒められて顔が赤くなります。先輩に可愛いって言われた……嬉しいです。
「でもちょっと緑ちゃんにはサイズ大きくない?」
「あ、はい……実はその……これネットで買いまして……それでサイズが……」
ファッションセンスが皆無の私はネットで調べた服を1式注文しました。おかげでそれなりのモノにはなりましたが、サイズが思ったより大きく少しブカブカになっていました。
「なるほどね。緑ちゃんちょっと手を伸ばして」
「……?こう、ですか?」
「ふむ。これが萌え袖……可愛い」
◇◇◇
先輩との初デート。
午前中は2人で映画を見て、それから昼食を取りながらその映画の感想を言い合ったりしましたが……。
案の定、私は先輩と上手く会話が出来ません。
初デートの緊張に上手くやらねばと思いばかりが先走って、なにも上手く出来ませんでした。
でも、そんな私でも、先輩は嫌な顔ひとつせず、穏やかな笑みを称えて相手をしてくれます。
先輩に申し訳ないです……。
「午後からどうしようか?」
「…………」
先輩の問いかけに私は何も答えられませんでした。
「緑ちゃんは何処か行きたい所ある?」
「……特に、無いです」
強いて言うならもう帰りたいと思っていました。決して先輩と一緒に居ることが嫌なのではありません。ただ、もう先輩をこんなダメな私に付き合わせるのが申し訳なくて仕方がなかったのです。
「よし、それならアソコ行こうか」
先輩は何か思いついたのか私の手を取り歩き始めました。
◇◇◇
先輩が私を連れてやってきたのは漫喫……漫画喫茶でした。
そこの個室に入室し、今は2人で肩を寄り添い合わせて読書しています。
会話は特にありませんでしたが気まずさもありません。
穏やかな時間がゆっくりと流れていきました。
先輩と2人きりの静かな空間で、時折聞こえるページを捲る音。触れ合う肩から感じる先輩の体温に、先輩の匂いがして、凄く安らかな気持ちになれました。
折角の初デートがこんな漫喫で読書だなんて、これでは普段図書室で過ごしているのと大差ありません。私としては凄く幸せだったのですが、これでいいのかと思い先輩に尋ねました。
「俺は緑ちゃんと一緒に居られて満足だよ」
ただそれだけでいいと、なんの裏表も無く先輩はそう言いました。
無理しなくていい。いつも通りでいい。ありのままでいいと、そう言われている気がして、こんな私でいいのかって、それが凄く嬉しくて、
やっぱり私は先輩の事が好きだなって、そう思いました。
◇◇◇
虚ろな瞳の先輩のに激しく打ち付けられて私の意識が覚醒しました。
どうやら少し意識が飛んでいたようです。
ああ、私はなんてありえない夢を見ていたんでしょうか?
先輩とあんな普通な関係になんてもう慣れる筈もないのに。
「ああ、ああ……先輩……先輩……好き……好き……好き……もっと……もっと激しく私の事を滅茶苦茶にして!足りない足りない足りない足りない足りないッ!先輩が全然足りないッ!もっともっともっと先輩を私にッ!私にくださいッッッ!!!先輩の全部全部吐き出してッ!そうですそうです先輩の全部ぜーんぶ私のモノなんですから!うひっ!うひひひっ!愛してます……皐月先輩……この世の誰よりも、先輩だけを愛してます……だから先輩も私の事……」
普通じゃなくても何でも構わない。私はただただ先輩が欲しい。欲しくて欲しくてたまらない。
例え何を犠牲にしてでも先輩だけは私のモノだ。
他の誰にも渡さない。
絶対に渡さない。
だってこれは何より先輩自信が望んでる事だから。
そうですよね先輩?
先輩は私の事を
「愛してくれてますよね?」
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