幕間
IS#1 白井聖歌
「白井さん、また告白断ったの?」
昼休み私は数人のお友達と机を囲んでお昼ご飯を食べていました。そこでふとお友達のひとりに問われました。
「え?あっ……昨日の事ですか?そうですね。お断りさせて頂きました」
「えー?でも昨日白井さんに告白したのって、あのサッカー部部長のイケメン先輩だよね?」
「あっ!その人、私も知ってる!イケメンで勉強も出来てオマケに性格も良くて、結構、人気の人でしょ?」
「そうそう!その人!私もファンだったんだけどなー!やっぱり白井さん狙いだったかー、って感じ!」
「まぁでも聖歌ちゃんなら納得っていうか仕方ないかなって思うよね」
「そうだねーなんてったってみんなの憧れの聖女様だもんね!」
「も、もう……!せ、聖女様だなんて……やめてくださいよぅ……私はそんな大層な人じゃないですよ?」
「確かにね。めっっちゃ美少女で性格も凄い優しいけど白井さんって意外と普通の女の子だよね」
「聖歌ちゃんこの前の中間テストってどんなんだったけ?」
「えーっと……平均より、ちょっと……ちょっとだけ下です……」
「成績は普通。そして運動は?」
「……全然ダメです」
「コレよコレ。見た目に反して中身は普通というか、わりと鈍臭い所があるっていうね。でもそれが逆に親しみやすいよね」
「わかるわかる。これで他のこともなんでも出来てたら気後れしてこんな仲良くなれなかったと思うわ」
「そうなんですか?」
「そうそう。だから白井さんには今後も変わりなく聖女様でいて欲しいね」
「これからもよろしくねー、聖歌ちゃーん」
「あ、はい。よろしくお願いします?」
話がいまいちよく分からなかったので私はキョトンと首を傾げていました。
「はぁ……キョトンとしてる白井さん可愛よ……」
「マジてぇてぇは聖歌ちゃん」
うっとりとした目で私を見る友人達。時たまにこういう風に見られることがありますが、どういう事なんでしょうかこれは?
まぁ、特に嫌な感じもしないのでスルーしましょう!
「しっかしねぇ。あのイケメン先輩でも白井さんのお眼鏡にかなわないとなると白井さんの理想ってどんだけ高いの?」
「むしろ聖歌ちゃんなんで告白断ったの?私らから見てもイケメン先輩かなりの優良物件だったと思うんだけど?」
「それは、その……あの先輩さんの事をよく知らなかったので……それでは相手に失礼かと思いまして……」
「そっかー、けっこーお似合いだったと思うんだけどね」
「あ、わかるわかる。聖歌ちゃんとイケメン先輩並んで歩いてたらかなり映えそう」
「そ、そうですか……?」
「そうですかって、これはまったくの脈ナシですね」
「あちゃー、こりゃまったく興味無しとは、イケメン先輩ご愁傷さま」
「逆にだけど白井さん実は好きな人とかいたりして?」
「ふぇ……!?」
突然の一言に思わずドキリとしてしまいました。
私の好きな人……思い浮かぶのはクラスメイトの……。
「あ、それ私も思った!というか噂されてるよ!聖女様には好きな人が居て、それで告白されても全部断ってるとかなんとか!」
「実際のところどうなんですか白井さん。ホントに好きな人いたりします?」
「そ、それは、その……私に好きな人なんて……」
「む?この反応……」
「顔つきが乙女のそれになってますね」
「居るな」
「間違いないですね」
「えぇ……!?い、いや!いないですよ!私に好きな人なんていないですから!?」
わたわたと手を振りながら否定するも友人達はそれを信じてくれた様子は無く。むしろ確信を強めました。
「そっかー、白井さんには好きな人が居ましたかー」
「なんかちょっとショックなんだけど……ああ、私達の聖女様が汚されていくー」
「それで誰?誰?」
友人達に問い詰められて私の視線は思わず教室の1箇所に向かってしまいました。
そこには友人達と机を囲み昼食をとる彼の姿。
「むむむ。白井さんの視線が……」
「あっちにいるのは……」
「クラスの有象無象男子諸君ね」
「まさかあの中に?」
「いや、流石にアレは無いでしょー!我らが聖女様が有象無象のフツメン男子になんか恋するわけないって!」
「いやでもわかんないよ?聖歌ちゃん見た目とは裏腹に中身は普通の女の子な訳だし。だったら普通の男子に恋することもワンチャン」
「それで白井さん、あの中に居るの?誰?」
「だ、だから違いますって!もう!」
◇◇◇
私の好きな人、同じクラスの久保皐月くん。
危ないところを助けられ、それから意識し始めて気がついたら好きになっていました。
私が言うのもなんですが、彼は特筆する点が特にない至って普通のどこにでも居そうな男子高校生でした。
私に対する接し方も特に何がある訳でもなく、私の事を特別扱いすることはなく、ごくごく普通に接してきます。
だからでしょうか、そんな彼と一緒に居ると凄く自然体で居られるのです。なんの気負いもない、ありのままの自分で居られる気がしました。
それがとても楽で穏やかな気持ちになれます。
劇的な事は本当に最初だけで、それから特に何があった訳ではありませんでしたが、彼と接する度に私は徐々に彼に惹かれていきました。
そうやって積み重なっていった気持ちが私の恋心を形作ったのです。
気がついたら彼から抜け出せなくなっていた。
「あれ……白井さん、今帰り?」
「あ、久保くん」
放課後、昇降口で声をかけられて振り返るとそこには久保くんが居ました。
何やら久保くんはなんたらかんたらという同好会に所属していて普段なら久保くんと帰りが一緒になる事はありません。
ですが今日、私は先程まで屋上に呼び出され愛の告白されていて少し帰るのが遅くなっていました。
それでバッタリというわけです。これは運が良いですね。
「この時間に居るの珍しいね」
「はい。実は――……」
そこで私は言葉に詰まりました。
なんとなく。ホントなんとなくなんですが、私が久保くん以外の人に告白されていたということを言いたくありませんでした。
「えっと、ですね……」
「……?まぁ、白井さんにもいろいろあるよね。それじゃ、また明日」
「あっ……」
言い淀む私に不快感を表すことも無く、久保くんは別れの挨拶を告げます。
「あ、あの……!」
この場を立ち去ろうとする久保くんに思わず私は声をかけていました。
「どうかした?」
「あ、いえ……その……」
しかし、続く言葉がなかなか出てきません。私は久保くんを引き止めて何を言おうとしていたのか?
ああ、これからどうすればいいんでしょう……。
あたふたする私に困惑する久保くんでしたが、少し考えて彼は何かを閃いた様に言います。
「ああ、そうだ。また変なのに絡まれるかもしれないし、途中まで一緒に帰る?」
「あ、はい!よろしくお願いします!」
私は彼の問いかけに二つ返事で了承しました。
◇◇◇
夕暮れに染まる帰り道を彼と2人で並んで歩きました。2人で穏やかに談笑しながらの帰路です。
初めのうちは2人きりということに少し緊張していましたが、なんてことはありません。彼と一緒に居ると自然と普段通りになりました。
なにも気負わなくていい。
ありのままの君で大丈夫だと、そう言われているような気がして凄く気持ちが楽になりました。
心地いい。
彼との間に出来るこの空気感がやっぱり心地よくて好きで、もうずっとここままでも良いなんて思える程で。
私はやっぱり彼の事が好きなんだなって、そう思いました。
「あの……久保くん」
「……ん、なに?」
「ちょっと聞いてもいいですか?」
「どうぞどうぞ」
「久保くんって……その……好きな人って居たりしますか?」
「好きな人?えっと……友達に義妹に幼なじみに、あと生徒会の人とか委員会の人とか……他にもいっぱい居るけど?」
「…………」
このタイミングでのこの質問はそういうことじゃないと分かりそうなものじゃないでしょうか?
普段は察しのいい久保くんですが、なんかめちゃくちゃアホになる事がたまにあります。
「ああ、もちろん白井さんの事も好きだよ?」
「……ッ!?」
そういう事をなんの躊躇いもなく言う久保くんはやはりアホだと思いました。
「あれ?もしかして俺に好きって言われて照れた?顔真っ赤だよ?」
「あ、赤くなんて、なってませんよ!」
「白井さんなら好きとか言われるの慣れっこだと思ってたけど、そんな事もなかった?」
「し、知りません!」
顔を背けて少し早歩き。彼の前に出て顔を見られないようにします。
確かに好きと言われる事はよくありますし慣れてもいますから、好きと言われてもそうそう顔に出るような事にはなりません。
ですが彼から言われるソレはまた別です。
それが分からない久保くんはやっぱりアホです。
「久保くんはアホですね!」
「アホねぇ……よく言われるなぁ」
「久保くんのアホ!」
「ごめんごめん。からかって悪かったよ」
まったく久保くんという人は……ホントにアホです。
でも、そんなアホを好きになってしまった私も大概アホなのかも知れませんね。
結局、久保くんに好きな人が居るかどうかは分かりませんでした。これははぐらかされてしまったのでしょう。
はぐらかしたということはやはり好きな人が居るということでしょうか?
もし、久保くんに好きな人が居るのだとしたら、願わくばそれが自分だったらいいなと、そう思いました。
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