#30 これは私に対するもの
催眠アプリを使い私の兄さんと肉体関係を持った。
私は鳥乃先輩のその告白を受けて腸が煮えくり返る思いでした。
私の?兄さんと?催眠アプリで?無理矢理?関係を持った?
一体全体それはどういう了見だと、今すぐにでもこのド腐れ淫乱ビッチ糞豚女の腹を引き裂いて内蔵を抉り出して兄さんと交わった痕跡を跡形もなく消し去りたい気持ちです。
実際、この腐れビッチの続く言葉が無ければ、それを実行していたかも知れませんでした。
腐れビッチは言います。兄さんの事が好きすぎて、どうしても我慢が出来なかったのだと。
嗚咽を漏らし、土下座をして、本当に自分のヤッてしまった事に後悔している。腐れビッチの態度から心の底からそう思っているという気持ちが伝わってきます。
それを見て血の昇った頭が冷えていくのを感じました。
もし、もしもだ。兄さんが選んだのが私じゃなかったとしたら?
腐れビッチと同じで私も催眠アプリを使い兄さんの気持ちを確かめました。
その結果、私は兄さんの気持ちを知り、晴れて兄さんと結ばれた訳ではありますが、あの時、もしも兄さんが私ではなく別の人を好きだと口にしていたら…… 。
私は兄さんを諦める事が出来たのか?
私も腐れビッチと同じような行動をとっていなかったと言いきれるのだろうか?
答えは、否。諦める事など出来る筈がない。
そうして腐れビッチと同じように催眠アプリの力を使い、無理矢理にでも兄さんと既成事実を作り、なんとかしようと思ったに違いありません。
そんな私がこうして自らの罪を認め告白する腐れビッチを捌く権利があるのでしょうか?
出来れば兄さんの傍に居る事を許して欲しいと、そう願う腐れビッチの叫びが私の胸をうちます。
兄さんと私に向けられた謝罪の言葉。
確かに腐れビッチの行いは到底許すことの出来ない事ではあります。ホント今すぐにでも床に擦り付けている頭を踏み砕いてやりたい思いはあります。
ですが、私にも兄さんに対して催眠アプリを使い、同意の上とは言え行為に及んだ負い目がありました。
◇◇◇
ホントありえないんだけど!このメス豚!
あろう事か私の皐月と催眠アプリで無理矢理ヤッたなんて!今すぐにでもミンチにして豚の餌にでもしてやりたい所だわ!
でも、メス豚の気持ちも分からなくもないと思ってしまった。
皐月が私以外を選ぶなんて有り得ないことだけど、万が一、億が一にでも私以外の女を好きだったと言われていたら……。
私もきっとこのメス豚と同じような行動をとっていたと思う。
それに私も同意の上とはいえ催眠アプリを使い皐月とヤッてしまったという負い目がある。
真摯に謝罪し、土下座するメス豚。
これじゃ強く言うに言えないじゃないのよ……。
「上岡……キミも私と同じなのだろ?」
頭をあげたメス豚が俯きながらも、部屋の隅で小さくなっていたダンマリ女に声をかけた。
声をかけられてビクリと身体を震わせるダンマリ女にメス豚は立ち上がり、ゆっくり近づいて行く。
「君も催眠アプリを持っているのだろ?」
◇◇◇
「だからこそ、先程、あの様な突飛な行動をとった。大方、催眠アプリを使えばなんとでもなると思っていたからこその大胆な行動だった」
私は上岡緑に語りかけながら至近距離に近寄り、そして目線を合わせる様にしゃがみこむ。
「悪いようにはしない」
そうして上岡緑にしか聞こえない声で囁いた。
「私に合わせろ」
「……え?」
上岡緑の驚く表情。しかし、この角度ならば私の影に隠れて上岡緑の表情は他の皆には見えない。
「キミも催眠アプリを彼に使いに来たのだろ?しかし、現実はこの場には彼以外の――私達が居た。これだけの大人数だ。彼1人だけなら催眠アプリでどうとでもなったが、そうはいかなくなった。だからキミはどうしようも無くなって沈黙し、そして当然、彼も何が何だか訳が分からないといった状況に陥った……違うかい?」
正直な話。皐月きゅんが誰が好きなのかは分かっていない。
もしかしたらそれは私かも知れないし(だったらイイなぁ)、ここに居る誰か、あるいはここには居ない別の誰かかも知れない。
誰が好きなのかはわからないが、しかし、その中で明確に皐月きゅんはこの上岡緑に対して好意を抱いてはいないのは確実性がある。
皐月きゅんは上岡緑を「ただの委員会の後輩」と語った。そこに含む要素は何一つなかった。もしここで皐月きゅんが上岡緑に対して好意を持っていたのなら、まだ別の言い方があった筈だ。
つまり皐月きゅんの好きな人は上岡緑では無いと判断していい。
まぁ、その後、皐月きゅんは上岡緑を庇うような真似をしているが、アレは好きだからというよりかは皆から責められる上岡緑を放っておくことが出来なかったのだろう。
皐月きゅんはそういう男だ。ホントしゅき。
そして上岡緑の反応だ。
上岡緑はあのベロチューの現場を見られてから、ただひたすらに沈黙を貫いている。
私はこれに違和感を覚えた。
もし、上岡緑が既に催眠アプリを使用しているのなら、それによって皐月きゅんが自分を好きだと勘違いしている筈だ。
それならば多少なりとも皐月きゅんが好きなのは自分だという主張をしていてもおかしくは無い。
見るからに内向的な性格故、言えてないだけの可能性もある。しかしその割には終始、上岡緑は怯えた様子で身体を震わせていた。
それはまるで悪事がバレた犯罪者の様に怯えている。
上岡緑には悪い事をしている自覚がある。
つまり上岡緑は皐月きゅんが自分を好きじゃないと理解しつつ行為に及んだのだ。
可能性は2つ。
ひとつ。上岡緑が自分を卑下し、そもそも好かれてないだろうと皐月きゅんに好きな人を聞いていない可能性。聞いていなければ勘違いも起きない。
ふたつ。上岡緑が花園に催眠アプリの追加説明を聞いている可能性。まぁ、これは花園が何故、上岡緑にそれを話したかまではサッパリわからんが。
何にしてもだ。
ここで大事なのは上岡緑が皐月きゅんに好かれていないと思っていて、そして催眠アプリでもって皐月きゅんと無理矢理してしまおうとしていた事にある。
これは使える。上岡緑を私側に引き込める。
私はこれでもって、この場の全員に「自分以外にも複数人、催眠アプリを持っていて、それで皐月きゅんと関係を持って居る」と思わせる事だ。
私以外にもう1人同じような奴がいた。
それを聞いた自分が皐月きゅんに好かれてると思っている奴は、はてさてどう思うだろうか?
答えは決まってる。
◇◇◇
「はい……そ、その、通りで、す……」
静かに上岡さんが沈黙を破り言葉を発しました。
それってつまり、上岡さんも鳥乃先輩と同じ様に催眠アプリで皐月くんとシたか、シようとしていたってことですよね?
私、以外にも催眠アプリを持っている人が2人も居たなんて……。
「…………ッ!」
私はそこでハッとある可能性に思い至りました。
もしかしてここに居る全員が催眠アプリを所持しているのでは無いでしょうか?
皆さんが皐月くんの事を好きなのは明白ですが、皐月くんが好きなのは私です。
それをここに居る全員が催眠アプリを使って知ってしまい、そして上岡さんや鳥乃先輩の様に……。
ありえます。
みなさんそれぞれ催眠アプリを使い、そして皐月くんの好きな人が私である事を知りますが、それでも諦めきれなくて……。
考えれば考える程そうとしか思えなくなってきました。
だからこうして皆さんがここに集まってるのではないでしょうか?
「ご、ごめんなさい……」
上岡さんは振り絞るように謝罪を口にしました。これは私に対する謝罪ですね。
その言葉で皆さんは揃って、なんとも気まずそうに顔を背けました。
それぞれ思うところがあるようです。
そうでしょう。おそらく2人だけではなく。全員が同じような事をしているはずです。
かくいう私も思うところがあります。
私の皐月くんに催眠アプリを使い、手を出したことは流石の私でも許したくない思いはありました。
ですが私も同意の上とはいえ皐月くんに催眠アプリを使い。その……行為に及んでしまっています。
その私が果たして声高々に皆さんを糾弾する事が出来るでしょうか?
出来ませんよね……。
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