#15 火の神



『果たし状』


貴殿に

決闘を申し込む

放課後の屋上

に一人で来い!

逃げんなよ!


鈴木火之迦具土神




◇◇◇




鈴木すずき火之迦具土神ひのかぐつち



急になに?何か別の始まったの?となるかもしれないが落ち着いて聞いて欲しい。



ヤンキー女子の名前は鈴木火之迦具土神。



あだ名でも、通り名でも、2つ名でもない。本名である。


極まるに極まったキラキラネームだ。キラキラを通り越して煌煌で神々しさすら覚える名前だ。


なんの冗談かと思うが冗談では無い。


父はアメリカンマフィアのビックボス、母は極道の組長の一人娘。そんな生粋の危ない人達のサラブレッドが鈴木火之迦具土神。バリバリの日本名ながらハーフである。


父方のビックボスが「ジャパニーズゴッドメッチャクール!」と日本神話をいたく気に入り、その影響での命名だそうだ。こんなキラキラネーム、役所で止められそうなモノだけど相手はマフィアに極道。止められなかったんだろうね、きっと。


幸いなことに鈴木火之迦具土神は自分の名前に不満は無いどころか、逆にかなり気に入っている。


「いやだって火之迦具土神とかメッチャかっこよくね?」


この親にしてこの子あり。コイツらは間違いなく親子だな、と思った。



そんな鈴木火之迦具土神の性格は過激で凶暴、苛烈。誰彼構わず喧嘩を吹っかけては、その悉くを燃やし尽くす生粋のヤンキーでチンピラだ。


そして恐ろしい程に、強い。


ここいらの不良共をたった1人でまとめてブチのめし一帯を焦土にしたとか、暴力団を1人で壊滅させて焼き払っただとか、様々な武勇伝がまことしやかに語り継がれている生ける神話。それが鈴木火之迦具土神だ。



それで、なんで俺がそんな何もかもがヤバい奴に目をつけられているのかと言うと、聖歌ちゃんの1件が関係してくる。


ガラの悪い連中に絡まれ、拉致されそうになった事がある聖歌ちゃん。その時に俺と鈴木火之迦具土神、それと会長で聖歌ちゃんを助け出したのをキッカケに鈴木火之迦具土神との関わりが出来た。


それ以来、何かと鈴木火之迦具土神は俺に絡むようになったという訳である。




◇◇◇




昼休み。



前日同様、美少女達に襲撃を受け、しっちゃかめっちゃかになり収拾がつかなくなったところで俺は図書室に逃げ込んだ。


はぁ、俺の安息の地……図書室。


奴らもここまでは追ってこまい(多分)


今日は図書委員の当番では無かったが、今日当番の生徒に代わりに当番をやると申し出ると喜んで了承を得た。


まぁ、普通なら昼休みの貴重な時間をこんなところで費やしたくないわな。


図書室のカウンターで放課後の呼び出しについて考えながら胃を痛めていると、これまた前日と同様に後輩の上岡緑ちゃんがやってきた。



「緑ちゃん、こんにちわ」


「こ、こんにちわ……先輩……今日も……?」


「ちょっと訳あってね。今日の当番の人と変わってもらった」


「そ、そうですか…………やった…………」


「……?」



俺は難聴系と言う訳では無いと思うが、今のは聞き取れなかった。


口が僅かに動いたから何かを呟いたように思えるが、ただでさえ小声の緑ちゃんにさらに小声で話されると流石に聞き取れない。


まぁ温厚で物静かな緑ちゃんだし変な事は言ってないだろうし、変な事はしないだろう。



「あ、そうだ。緑ちゃんにこれあげる」



俺はポケットに忍ばせていたソイってるジョイを緑ちゃんに差し出す。



「えっ……あの……これ……」


「お節介かも知れないけど、緑ちゃんはもうちょっと食べた方がいいかなと思って」


「あ、あぅ……」


「迷惑だった?」


「い、いぇ……!ぃただき、ます……」



緑ちゃんは俺のジョイの包みを丁寧に開封し、はむりと俺のジョイをくわえた。


図書室は一応、飲食禁止だがとやかく言うまい。そもそも、あげたの俺だし。誰も見てないし。バレなきゃいい(クズ)



「はむ……はむ……」



俺のジョイを先端から少しづつ、ゆっくりと咀嚼していく緑ちゃんは小動物感があって実に可愛らしい。ちょっと変な気分になる。いかんいかん。邪念を振り払え。



しかしまぁ……なんだか癒されるなぁぁぁッ……!



最近になって変化を見せる周囲の人達に対して緑ちゃんはいつも通りで何も変わらない。その事に安心感を覚える。


2人きりの図書室で穏やかな時間が流れた。



うーむ……これが俗に言う嵐の前の静けさ?



俺は知らない。前髪の奥に隠された緑ちゃんの瞳が狂気を携えている事を。




◇◇◇




放課後。



俺は放課後の屋上でアイツを待っていた。



たくっよぉ……ムシャクシャするぜ……。



俺、鈴木火之迦具土神は今朝の事を思い返してはボヤつく心に憤りを感じている。


"秘策"を手に入れた俺はアイツとの決着を付ける為に拵えた果たし状を手に、校門でアイツの事を待ってやった。


しかし、姿を見せたアイツは何故か白井と腕を組んで仲良さげに登校してきやがったじゃねぇか。



それを見た俺の心がボヤ着く。これまでに何度か味わった事のある感情だ。だがそれがなんなのか俺にはさっぱり理解出来ねぇ。


そんなアイツの姿を見るのが嫌なことだけはわかる。わかるがなんで嫌なのかは皆目見当もつかねぇ。


それが非常に腹立たしい。



クソっ!ムカつくなッ……!



今までに味わった事の無い感情だ。アイツと関わると度々こういった事がある。


また、それとは別に謎の感情も湧き上がって来やがる。



アイツは今までに出会った事の無いタイプのヤロウだ。


俺みたいな荒くれに偏見や色眼鏡無しに普通に接しやがる。あろう事か俺に舐めた口まで叩きやがる。アイツは俺が怖くねぇのか?



この泣く子も黙らす鈴木火之迦具土神様にだ。マジでナメたヤロウだぜアイツはよ。



だが、アイツと一緒に居るのは悪かねぇし、アイツと一緒に居る時の嫌な方じゃない謎の感情も嫌いじゃねぇ。むしろもっと味わいてぇと思うほどだ。


それでか気がつけばアイツの事ばかりを考える俺が居やがる。寝ても醒めてもアイツの事ばかりだ。鬱陶しくて仕方ねぇ。


ボヤボヤしやがる。なんで俺がこんな思いをしなきゃなんねぇんだ。それもこれも全部アイツの責任だ。



だからアイツにはケジメをつけさせるッ!



まぁ、この謎の感情もいつも他でナメた奴らをぶん殴ってる様に、アイツの事をぶん殴ればスカッとすんだろうさ。



……早く来ねぇかなぁ……まだか?



ガチャリ。



そんな事を考えていると不意に音を立てて屋上の扉が開いた。



くくくっ……どうやら来たようだなぁ!



開いた扉の先にはアイツが居た。


アイツの姿を見ると心が燃える。まるで俺の欠けた魂が満たされるように熱く熱く燃え盛る。全身が熱くなる。頭がボーッと熱に浮かされた様に熱くなる。


あぁ、いいぜぇ……コレだよ、コレ。この感覚だよ。アイツを見るといつもこんな感じだ。悪くねぇ、悪くねぇぜ。喧嘩は大好物で熱くなれる。だが、この感覚は喧嘩よりも遥かに堪らなく熱くなりやがる。



さてと……それじゃぁ久保皐月よぉ!俺をこんなにしちまったテメェにはしっかり落とし前つけさてやるからよ!覚悟しやがれクソヤロウッ!



ぶっ殺してやんぜッッッ!!!









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