催眠アプリを手に入れた恋する乙女がスマホの画面を見せてくる

#16 血の気の多いヤンキーと？

｢逃げずにちゃんと来たみてぇだなぁ皐月ぃ！｣

本当は逃げたかったけどな！と思わず叫びそうになったが俺はその言葉をグッと飲み込んだ。

鈴木みたいな暴力の化身である奴からの決闘の呼び出しだ。俺みたいな一般学生ではどう考えても身に余る。

だけど、俺が来なかったら鈴木は永遠と待ち続けるんだろうな……なんて考えたら来ない訳にもいかなった。

｢ここで会ったが100年目！テメェと決着をつける時がいよいよ来たみてぇだ！｣

｢一体なんの決着をつけるつもりだよ……｣

｢そりゃオマエ、アレよ。アレ。アレだよ｣

｢どれ？｣

｢えーっと……そう！俺とテメェのどっちがつえぇのか白黒ハッキリさせねぇといけねぇだろ？｣

｢いやいやどう考えたって俺より鈴木の方が強いからな。俺と鈴木を比べたら俺なんて糞雑魚だろ……｣

｢んなことねぇよ！確かに俺は最強だが、テメェもテメェで見所はある！テメェは俺が認めた男だ！そんな糞雑魚なんて言うんじゃねぇ！ぶっ殺すぞ！｣

｢お、おう……そ、そうか？｣

なんか微妙に評価が高い。俺は一体いつ鈴木に認められるような事をしたのか身に覚えが無いのだが。

｢テメェを見てっと、なんかイライラ……はちょっとちげぇな。なんつーかモヤモヤすんだよ。こう心がザワつくっつーのか？そこら辺を転げ回りたくなるような、わけわかんねぇ気持ちになんだよ！｣

確かにそれはわけわからん。

｢日に日にこの気持ちがでっかくなってきてんだ。マジでオツムがどうにかなっちまいそうだぜ。寝ても醒めてもテメェのツラばっかチラつきやがる！テメェ、俺になんかしたんだろッ！？｣

｢そんなの俺が知るか！｣

｢それになぁ！朝、テメェが白井と引っ付いてるの見た時なんかイライラがとめらんなかったぜ！テメェ！白井とはどんな関係なんだよ！｣

｢え、聖歌ちゃんと？イヤ普通に友達だとは思うけど……｣

聖歌ちゃんとは普通に友達だと思ってる。最近はやたらスキンシップが激しい気がするが……。

｢おい……テメェ……白井の事、いつから名前で呼ぶようになった……？｣

｢ん？名前……？あぁ、最近なんか名前で呼んでくれって言われて｣

｢…………｣

｢鈴木……？｣

｢鈴木じゃねぇ……俺の事は火之迦具土神様と呼べよ！｣

｢えっ……ヤダけど……｣

｢んだテメェ……白井の事は名前で呼べて俺の事は名前で呼べねぇってのかよ？｣

｢いやだって鈴木の名前長いし……｣

それに高校生にもなって火之迦具土神とかあんまり言いたくない、ちょっと恥ずかしい。

｢テメェ俺の名前をバカにしてんのか？あぁん？｣

｢いやバカにはしてないから。そのカッコイイとは思うけど｣

｢お、おう……そうか……だよな……俺の名前カッケェよな！｣

やっぱりな！と言った具合に鈴木は顔を綻ばせる。名前褒められると嬉しいのか鈴木は。ホント自分の名前好きだな火之迦具土神。

｢なんにしてもぶっ殺されたくなかったらなぁ！グダグダ言ってねぇで、いいから俺の事は名前で呼べよ！呼べったら呼べ！｣

急にわがままを言う駄々っ子みたいになる鈴木。ホントなんなんだ……。

｢はぁ……わかったよ……火之迦具土神｣

｢…………ッ！？ぐっ……な、なんだこの気持ちは……クソがッ……やっぱりダメだ！テメェは俺の事を名前で呼ぶんじゃねぇ！｣

｢えぇ……｣

もうどっちなんだよ。意味がわからない。

｢たくっ……俺の心を掻き乱しやがって……やっぱりテメェとは白黒ハッキリさせねぇとなんねぇな……ぶっ殺してやんぜ！｣

紆余曲折の末、話題が同じところに着地した。くっ、決闘はやはり避けられないのか……！鈴木との決闘とか理不尽が過ぎる！美春よりタチが悪い！イヤ！やっぱり美春の方がなんの理由も無しに暴力を振るわれるから数段タチ悪かったわ！兎にも角にも痛いの嫌なんだけど！

｢おっぱじめようぜ皐月！俺とオマエでガチンコのタイマンだ！まさかここまで来といてヤラねぇなんて言わねぇよなぁ！？｣

｢やりませんけど！？｣

｢なんでだよ！？｣

｢さっきも言ったけど鈴木の方がどう考えても強いし！一般人の俺が鈴木に叶うわけないだろ！一方的にボコボコにされるだけなのにタイマンなんてするか！｣

｢確かにな普段のテメェと俺を比べたら遥かに俺の方がつえぇ……だがな！俺は知ってんだぜ！テメェの中に眠る力の事をなぁ！｣

｢な、なん、だと……？｣

俺の中に眠る力？なにそのバトル漫画の主人公みたいな奴。無いから。俺の中にそんな力は眠ってないから。

｢心当たりがねぇ、そんな顔をしてるが。とぼけても無駄だぜ皐月！俺は知ってんだよ。あの一緒に手ぇ組んで白井を助け出した時の事だ｣

聖歌ちゃんを助け出した時……？

ま、まさか"アレ"か！？

｢あん時のテメェは俺でさえ舌を巻くバカみてぇな力を出してた……テメェのあの力を見たのはアレっきりだが｣

｢いやまて鈴木！アレはッ……！｣

｢普段のテメェは優しい奴で暴力を振るうような奴じゃねぇのはわかってんだ。だから最近じゃあん時の事は俺の気の所為だったんじゃねぇかと思うようにもなってきたが……そんなことはねぇ｣

｢そんなことはなくなくないから！あの時の俺は俺であって俺じゃなかったんだ！｣

｢わかってんぜ。あのイケすかねぇ女から聞いてる。テメェは誰かがピンチにならねぇとあの力を出せねぇんだろ？｣

イケすかねぇ女……？会長か！？まさか会長が鈴木に何か吹き込んだのか！？

｢皐月よぉ。俺はな、最強だ。誰も俺にはかなわねぇ。大人も子供も俺にかなうやつなんざ、これまで1人も居なかった。俺は孤独だ。強すぎんだよ俺は。俺に付いてこれる奴なんざ誰もいねぇんだよ｣

孤独。そう語る鈴木の表情は少しだけ悲しげだ。

｢だがな皐月！テメェは違う！あの時の"狂った"テメェなら、もしかしたらって俺は思っちまった！俺にかなわなくても、もしかしたら俺と肩を並べられるぐらいではあるんじゃねぇかってな！｣

鈴木はズンズンとこちらに向かって歩いてくる。手にはスマホが握られていた。

｢俺はあん時のテメェと戦いてぇ。だから手は打たせてもらったぜ？｣

｢くっ……何をするつもりだ鈴木……！｣

｢テメェなら"花園"って言えば、わかんだろ？｣

ぐぅうう！！！やっぱり会長の差し金かッ！？ホントアンタって言う人はぁ！

だがしかし、あの時のアレは会長が俺に盛った"薬"が原因だ。鈴木を見るにあの薬を持っている様子は無い。

鈴木は一体どうするつもりだ？そして会長は鈴木に何を仕込んだ？

｢あの女からコイツを皐月に見せりぁ、ぎじてきに？あん時の再現が出来るって聞いてるぜ｣

そう言いながら鈴木は自分のスマホを操作し始める。

あの時の再現？スマホで？

いやそんな事を出来るはずがない。アレはあくまで薬の影響だ。脳のリミッターを外して強制的に火事場の馬鹿力を引き出すとかなんとか、そんな感じの薬だったはずだ。おかげで後遺症が酷くて暫く入院したほどだ。あんな薬は二度と飲みたくない。

だったらなんだ？鈴木は俺に何を見せようとしてる？

｢ま、まさか人質かっ！？｣

あの時の再現。それは薬と、そして聖歌ちゃんが人質に取られた事だ。その事もあって俺は異常な力を発揮出来たらしい。だったら鈴木が俺に見せようとしているモノは誰かしら俺の関係者を人質として拉致監禁したモノ？

いやいやまって、そんなの見せられても覚醒しないと思うんだけど……。

｢くくくっ……そりゃ見てのお楽しみだ！｣

そして俺は鈴木のスマホの画面を覗き込んだ。

◇◇◇

｢コイツはスゲェぜ……｣

俺は歓喜に震える。皐月の目。それがあの時見た皐月の目に酷似していた。

あのイケすかねぇ女から貰ったさいみんあぷりって奴を皐月に見せると明らかに様子が変わった。あの女の言ってた通りだぜ。

｢…………｣

無言で佇む皐月。普段の雰囲気とはうって変わって、まるで人でも殺してそうな雰囲気だぜ(勘違い)

えーっと、確かこうなったら……。

｢皐月。脳のりみったーを外して全力で俺とタイマンだ｣

｢はい｣

淡々と答える皐月。こう言えば皐月はあん時と同じ力を発揮するって言ってたが……。

ダンッ！

地を蹴る音が聞こえたと思ったら目の前には既に皐月が拳を振りかぶっていた。

速ぇ……！？

｢ぐっ……！｣

咄嗟に腕でガードするが衝撃を殺しきれずに吹き飛ばされた。受け身をとりつつ体制を立て直す。

なんつう力だ……ヒトのそれじゃねぇぞ！

｢……やっぱテメェは俺の見込んだ通りの奴だったみてぇだ｣

滾る。全身の血液が熱く熱く燃え盛るのを感じる。こんな感覚は初めてだ。

目の前にいる皐月は今まで相手にしてきた誰よりも、強い。

その事がたまらなく嬉しい。俺と肩を並べられる奴が居る、そしてそれが皐月であることが嬉しくて嬉しくてたまらない。

今の一撃、俺と今の皐月の実力は5分ってところか……くくくっ……いいじゃねぇか！

皐月、やっぱりテメェは最高だぜ！

｢そういや皐月。タイマンの報酬を決めてなかったな。そいつを今、決めさせてもらうぜ！俺が勝ったらテメェは俺のモノになれ！一生、俺の手足として使ってやる！そして、万が一にでもテメェが勝ったらだが……俺をくれてやる！俺の身体を好きにしていいぜ！テメェの欲望のままに俺の身体を使わせてやるよ！あぁ、なんだってしてやる！俺の全部を捧げてやるよ！まぁテメェが俺に勝てるなんて有り得ねぇけどなぁ！｣

◇◇◇

俺は負けた。

そして……。

あああああああああああああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁッッッ！！？？！！！！

確かに好きにしていいとは言ったがよ……！言ったけどよ……！言ったんだけどよぉ……！

んな、まさか、こんな、いきなり、あんなッ……！

ぐっおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオおおおお…………！！！

皐月の……ヤベェ……。

お、おい……！待て、皐月ッ……！？ま、またかッ！？

いや、ちょっと、休みをだな……！

あっ……休むんか……。

むずっ……くっ……。

さ、皐月ぃ……。

俺は皐月の女にされた。