#14 特攻服
労い合戦という美春対鳥乃先輩の謎の闘争に散々付き合わされた挙句。何故か俺が2人を労う事になり、2人に夕飯を奢った。全く意味がわからない。
そして夜遅いこともあり2人を家まで送り届け、帰宅。やっと帰ってこれたのは、もはや深夜に近い時間帯だった。
……疲れた。
最近やたらと女の子達に絡まれる事が増えた気がする。そしてなんだかみんなの様子がちょっとおかしい。これといって何かした覚えはなく、何かあった訳でもない。はずなんだが。
俺の知らないところで何かあったのかもしれないと考えるようになってきた。
思案するも、疲れているせいか頭は全く回らない。
とりあえず寝よう。そうしよう。体も最近なんかやたらダルいし。疲れが溜まってる。
寝室に向かうとベットがやたらと綺麗にメイキングされていた。おそらく涼花が綺麗にしてくれたのだろう。自分の寝床が手を加えられてる事に少し恥ずかしさを覚えたが、そんなことより俺の為にこうして綺麗にしてくれた事に対する嬉しさが勝る。
ホント出来た妹だよ、涼花は。
心の中で感謝を述べながら、俺はベットに倒れ込んだ。
◇◇◇
翌日、金曜日。
あれこれ会ったからか今週はやたらと長く感じたが、今日で終わりだ。明日は土曜日で学校は休みだ。
今日は何事も無く過ごせるといいなぁなんて思いながら通学路を歩く。
「あっ!皐月くん、おはようございます!」
「あ、聖歌ちゃん。おはよう」
するとそこで偶然にも聖歌ちゃんにエンカウントした。
俺を見つけた聖歌ちゃんが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「えいっ!」
「あ、ちょっ……」
白井聖歌の攻撃。絡みつく。
久保皐月の腕に白井聖歌が絡みついてしまった!
「朝から皐月くんに会えるなんてラッキーです!一緒に登校しましょ?」
「あ、うん……それはいいんだけど……」
「……どうかしましたか?」
白井聖歌の攻撃。押し付ける。
久保皐月の腕が凶悪な2つのスライムに挟まれる!
久保皐月の精神にダメージ!
「その、腕を……」
周囲の学生達が殺気立ち、今にも飛びかからん様子でこちらを見ている。
白井聖歌から離れますか?
はい←
いいえ
逃げらない!久保皐月の腕は力強く固定されている!
「……腕?腕がどうかしましたか?」
「いやなんで急に絡んで来たのかと」
「ダメでしたか……?」
白井聖歌の攻撃。潤んだ瞳。
久保皐月の精神にダメージ!
「いやそのダメではないけど、周りに人が多いから」
周囲の人間の睨みつける攻撃が久保皐月へ継続されている!
久保皐月の精神にダメージが蓄積!
「大丈夫ですよ!私は気にしませんから!」
ミス!白井聖歌はダメージを受けない!
白井聖歌の攻撃。満面の笑顔。
久保皐月の精神にクリティカルダメージ!
久保皐月はバトルに敗北してしまった!
「はぁ……まぁいいか……」
こんな嬉しそうにされたら引き離すに離せない。
周囲からのやっかみの視線がゴリゴリ精神を削りに来てはいるが役得だと思って受け入れよう。
腕に押し付けれる聖歌ちゃんのやわこがべらぼぅにやわこい。なんじゃこりゃエンゼルスライムか。強そう。勝てる気が全くしない。
「皐月くんとぉ一緒に登校ぉ……えへへっ……」
鼻歌混じりに言う聖歌ちゃんはこれでもかってぐらいに上機嫌であった。俺と腕組んでの登校がそんなに楽しいのか。
周囲の殺気の篭った視線に耐えながら俺と聖歌ちゃん2人で登校。
学校に近づくに連れて学生も増え、そして俺達を見る視線も増えていく。
ヒソヒソとこちらを見てなにやら話す声も聞こえる。
こんなガッチリ腕組んでたら目立つよなぁ。しかも相手はかの有名な聖女様だし。
「なんで聖女様が腕組んで登校してんのよ」
「え?まさか聖女様に彼氏が……」
「おい聖女様と腕組んでるアレって」
「アイツだろ。あのよく問題を起こす奴とよく一緒にいる」
「おいおいこれなんの冗談だよ」
「聖女様もしかしてあの男に弱みとか握られてるんじゃ……」
「あのクソ野郎ぶっ殺してやる」
「血祭りに上げろ」
「コロスコロス」
物騒だなぁ……夜道には気をつけようと思った。
◇◇◇
校門付近に到着するとガヤガヤと何やら騒がしい。
「何かあったんでしょうか?」
「なんだろうね?」
疑問を口にしながら騒ぎのする方に近づいていく。胸騒ぎがするが気のせいだと思いたい。学生達が何かを遠巻きに見るように人だかりを作っていた。
人だかりの中心にソレは居た。
登校する学生なんてお構い無しで道の真ん中に陣取り、腕を組んで仁王立ちする1人の女生徒。
燃えるような真っ赤な頭髪。日本人離れした整った容姿。
そして何より目を引くのは学校指定の制服の上から羽織っている白い特攻服。
そう暴走族が着るあの特攻服である。
見るからにガラの悪いヤンキー女子。
うわぁ……凄い見覚えがある奴が居る……。
「あぁ、アレって鈴木さんですね」
「そうみたいだなぁ」
俺はそれを見て即座に回れ右をしたくなったが、聖歌ちゃんに引っ張られるようにして、否応なしにそれに近づく。
そして、その特攻服の女生徒――鈴木とバッチリ目が合ってしまった。
「皐月ぃッ!ようやっと来たみてぇだな!待ってたぜ!」
やはりと言うべきか。鈴木の目的は俺だったようで、俺を見つけた鈴木はズンズンとこちらに近ずいてくる。
「たくっ!てめぇは朝っぱらから女はべらせて随分といいご身分だなぁ?あぁん?」
もはや唇が触れてしまいそうな至近距離でメンチ切られた。近い!近いって!
「朝からなんの用でしょうか鈴木さん」
明らかなヤンキーである彼女に対して聖歌ちゃんは物怖じせずに言う。それもそのはず俺だけでなく、このヤンキーとは聖歌ちゃんも面識があった。
「よう白井ぃ。なんでてめぇが皐月と仲良く登校してんのか問いただしてぇとこだが。今てめぇに用はねぇから引っ込んでな。用があんのは皐月の方だ」
「え、えーっと……す、鈴木……俺になんの用だ?」
「てめぇにコレを渡したくてな」
鈴木から押し付けられるように差し出されたのは一通の封筒。
そこにはデカデカと『果たし状』と書かれていた。
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