#4 義妹と幼なじみ
朝、目が覚めると妙に身体全身にベタつきを覚えた。そしてやたらとダルい。
夏も近いし最近暑い。寝汗でもかいたかな。シャワー浴びよ。
そこまで考えて台所から物音がするのに気がついた。
おそらく昨日泊まっていった涼花が朝食の準備でもしているのだろう。よくある事だ。
「おはよう涼花」
「あ、起きたんですね兄さん。おはようございます。もうすぐ朝食の準備が出来ますので少し待っててくださいね」
案の定、台所に行くとやたらと上機嫌な涼花がエプロン姿で朝食の準備をしてくれていた。
「なんか機嫌良いな。何かあったか?」
「いえいえ、ナニもありませんよ、兄さん」
答える涼花に普段は感じない色っぽさが見え隠れする。ちょっとドキッとしてしまった。なんだどうした。やっぱりなんかあったのか?
「そ、そうか……朝食の支度してもらってる間にちょっとシャワー浴びてきていい?」
「私にお構いなく、ごゆっくりどうぞ」
「なんか悪いな。寝汗かいたのか、ヤケに身体がベタついてな」
「……昨日は熱くて……いっぱい汗かきましたもんね」
「お、おう……?そうだな……?」
やっぱりなんか義妹が色っぽい。初な乙女がまるで大人の階段を上がったみたいな。
昨日の今日でこんなに変わるものか?
まぁいいか。とりあえずシャワー浴びよ。
◇◇◇
涼花が用意してくれた朝食をとり、身支度を整えて外に出た。本日は平日、普通に学校がある。
涼花とは同じ高校なので2人一緒に登校である。
「お、おい、涼花……急にどうしたんだ……」
「いえ、たまにはこういうのもいいかと思いまして」
やたらと涼花との距離が近いように感じていたら、不意に涼花は俺の腕に絡みついてきた。
カップルみたいな腕組み。
兄妹とはいえ、こんな腕を組んで歩くことには流石に抵抗がある。というかグイグイと涼花が腕にそれほど大きくはないが、やわこいものを押し付けてきて気が気じゃない。
普段はこんなことをする義妹ではないのだが、やっぱり今日の涼花は何かおかしかった。
「流石にこれは恥ずかしいんだが……」
「……学校に着くまで……ダメですか?」
悲しげな表情で俺を見上げる涼花。それは狡い。そんな顔されたらお兄ちゃんとして引き離すに離せない。離せるわけがない。
「ちょっとアンタら!流石に兄妹でそれは仲良すぎない?」
振り返るとそこには腕を組んで仁王立ちする美少女。
幼なじみの
美春は不機嫌さを隠すことなく俺達兄妹を睨みつけている。
「チッ……付き合いが長いだけの幼なじみさんが私達になんの用でしょうか?」
「なんの用も無いわよ!兄妹でも流石にそれは無いでしょ。離れなさいよ!」
わりと御尤も。正直このタイミングでの美春の登場は助かった。
「……イヤですが?」
しかし尚も抵抗を見せる涼花はギュッと俺の腕を抱く力を強める。それを見る美春の目がさらに鋭く尖っていく。怒りのボルテージが上がっていくのを感じた。
「皐月ッ!」
美春の怒声が響く。今にも殴りかかってきそうな我が幼なじみは何を隠そう暴力系。遠慮無しに殴られるし、蹴られるし、締めあげられる。痛いのヤッ!
「は、はいっ!今、離れますっ!ごめんな、涼花。この埋め合わせはなんかするから、今は、な?」
「……約束ですよ」
そうして渋々と言った具合に涼花は俺の腕を解放した。
◇◇◇
「たくっ……アンタはなんでああも義妹に甘いのよ……」
「そりゃ義妹だからな」
あれからギャースカと口論の末に涼花は不承不承ながら俺の腕を解放し、3人で登校。昇降口で涼花と別れ、美春と2人、自分のクラスに到着した。
正直、あのまま涼花と腕を組んでの登校はメンタルに来るものがあったので、美春の登場は助かったといえば助かった。
矢田美春。
幼い頃から付き合いがあり、幼小中と一緒にすごし、高校も同じ、さらにはクラスも一緒と、もはや腐れ縁の幼なじみだ。
幼い時は結婚の約束をしたりもしたが、中学ぐらいに急に美春の性格がキツくなった。
俺に対する態度がやたらとツンツンし始め、あれやこれやとやたらと文句を言われるようになり。さらにはアレコレとパシられる事もよくある。
嫌われたのかとも思ったが、なんやかんやで一緒に居るし、高校に関しても美春は俺の志望校を聞いて自分の志望校を決めたぐらいだ。
あれこれキツい事を言われる毎日だが、それはきっと俺の事を思って言ってるのだと思ってる。
好きの反対は無関心だって言うぐらいだし、多分、嫌われてる訳では無いと思う。多分。
「なによ……私だって腕組んだことないのに……私の方があの義妹より付き合い長いのよ……」
「え?美春も腕組みたかったのか?」
「腕組みたいなんて言ってない!だ、誰がアンタなんかと……!」
「いや別に俺じゃなくても……美春モテるし彼氏とか作らないのか?」
「ぐぅ……!アンタそういうとこよ!ホント信じらんない!」
プリプリと怒る美春は幼なじみである俺の掛け値無しの評価でも、かなりの美少女だ。校内でもかなり噂になっているし、かなりの頻度で告白もされているらしい。
まぁ、美春はその全てを断っているようで、彼氏は居ないようではある。誰か他に好きな人でも居るんかね。
俺?普段から美春には罵詈雑言を浴びせられるし、馬車馬の如く扱き使われて、サンドバッグにされてるのに?無い無い。
付き合いが長いってだけで一緒に居るだけだろうし、美春が俺に恋愛感情を持っているわけが無い。好きな人にこんなキツいこと言わないし、顔面殴打とかして来ないでしょう、普通。
「ホントもう鈍感なんだからアンタは!ボケボケしてんじゃないわよバカ!」
「わ、悪い……謝るから許してくれって……!」
「悪い、じゃないわよ!ご・め・ん・な・さ・い!ごめんなさいでしょ!」
「ごめんなさい……」
「まぁ許さないけど」
「えぇ……」
幼なじみ殿、今日も変わらず理不尽の権化である。
「アンタ……今日、放課後なんかある?」
「放課後?同好会あるぐらいだけど」
「同好会ぃ?あぁ、あの女の……ナンタラ同好会だったかしら?」
「ナンタラ同好会て何一つ覚えてないじゃん……空想科学同好会な」
空想科学同好会。俺が所属する同好会だ。
会員は俺と会長の2人だけで学校側には部活動としてすら認められてない小規模な集まりである。
名前は会長が適当に付けた。活動内容も会長のその時の気分によって変わる。そして俺は会長によって毎回毎回振り回される。
なんで俺がそんな同好会に入ってるのかと言うとやむにやまれぬ事情があるのだが……それはまた別の話。
「別に名前なんてどうでもいいのよ。今日は休みなさい」
「いやまぁマトモな活動してるわけじゃないから、それは別にいいけど……なんで?」
「いいからアンタは黙って私に放課後付き合う!いいわね!?」
相変わらず強引だなぁ。基本的に美春は常にこんな感じだ。今に始まった事でもない。あれやこれやと色んな場所に連れ出される。
断れそうにもないし、会長には今日は行けない旨を連絡しとこう。
◇◇◇
放課後。
「アンタの部屋行くわよ。あと涼花には適当に理由つけて今日は絶対来るなって言っといて」
との事で自宅に美春と共に帰ってきた。まだ何をするかに関しては教えてもらってない。
帰宅中、珍しく美春は一言も喋らなかった。いつもならあれやこれやと俺を罵ったりするのだが様子が少しおかしい。
気が付かれぬように横顔を見ると、何やら緊張している様子ではあった。一体、美春は何を考えているのか……。
「今、なんかお茶でも入れてくるから、適当に座ってて」
「…………」
来客用のクッションを置きながら言うも、美春は相変わらず黙ったままだ。
何も言わずに美春は俺が置いたクッションの上に座るのを見届けて、俺は台所から2人分のお茶を用意して持ってくる。
戻ってくると顔を落として美春はスマホを弄っていた。
「それで、今日は何の用なんだ、美春」
お茶をテーブルに起きつつ美春の対面に腰を下ろすと、美春は顔を上げ、こちらに向き直る。相変わらず緊張した様子だ。
今度は一体どんな無理難題を言い渡されるのか。ため息しそうな所をぐっと堪える。そんな顔されると恐怖心が倍増するんですが?
「ねぇ、皐月。ちょっとコレ見なさい」
「ん?なんだ?」
美春は自分のスマホの画面を俺が見れるように突き出してきた。
軽いデジャブを覚えつつも俺はその画面を覗き込んだ。
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