#2 暴走聖女様と?



「はぁ……はぁ……」



鼓動が早まって、特に動いてもいないのに息が上がります。暑さも相まって頬から汗が流れ落ちるのを感じました。


皐月くんの話を聞けば、皐月くんの好きな人は多分、私であろう事はなんとなく予想は出来ました。


それを直接聞くのがあまりにも怖い。


もし彼の口から私以外の子の名前が出たならばと考えれば、胸が張り裂ける思いでした。


ですが、この絶好のチャンスを私は逃したくは無かった。



「皐月くんは……私の事をどう思ってますか?」


「聖歌は凄く優しくて、あまりにも可愛いし、スタイルもヤバい。非の打ち所が無いパーフェクトな美少女だと思ってます。そんな聖歌と最近よく接するようになって俺は彼女に好意を抱いています」


「ふわぁ……」



彼の言葉を聞いて頭が真っ白になりました。天にも登る気持ちとはこの事を言うのでしょう。


皐月くんが私に好意をもってる?それって皐月くんは私の事を好きって、そういうことですよね?



「皐月くんは私の事が、好きですか?」


「はい。好きです」


「さ、皐月くんは私の事を、あ、あい、愛して、ますか?」


「はい。愛してます」


「皐月くんにとっての……1番は誰ですか?」


「白井聖歌です」


「皐月くんは私と……ど、どうなりたいですか………?」


「結婚して幸せな家庭を築きたいです」


「皐月くんは……私の事……どう、したいと思ってますか?」


「今すぐにでも襲いかかって滅茶苦茶にしたいです」


「……そ、そうですか……そうなんですか……そ、それなら――」



淡々と答える皐月くんと打って変わって私の気持ちは荒ぶり乱れて最高潮に達しようとしています。


息が荒い。身体が焼けるように熱くて、心臓が痛いほどに脈打つ。皐月くんの解答に絆されて、アタマが熱に浮かされぼんやりとして上手く回らない。


皐月くんは私の事が好き。皐月くんは私の事を愛してる。皐月くんの1番は私。皐月くんは私と結婚したい。皐月くんは私を……襲いたい。


もし……もし、わたしが……わたしが、つぎの……つぎの、ことばをくちにしたら、さつきくんは、さつきくんと、わたしは……。


頭の中はもう滅茶苦茶で、幸せで、もう皐月くんの事しか考えられなくて、気持ちが抑えられなくて、驚くぐらい高ぶってて、



そうして私の感情が暴走した。



私は次の言葉を口にする。



「……襲っても、いいですよ?」


「あっ……あっ……うがぁぁああ!」



放課後の教室に恋する乙女と、虚ろな瞳のその想い人が2人きり。


禁断の果実を口にした私と、理性のタガが外れ獣となった彼。



――私は彼に襲わせた……。





◇◇◇





ふぁ……皐月くん……しゅきぃ……。



未だ冷めぬ興奮と倦怠感。学校の教室という日常的な場所で行われた非日常。いけないことをしてしまった背徳感。


教室の隅で2人座り込み。果てて意識を失っている皐月くんの腕に縋りついて彼の温もりを感じていました。



アレがまさかこんなに気持ちいい事だったなんて、これに夢中になってしまう人達の気持ちがよくわかりました。



理性を失った皐月くんはまさにケダモノ。


皐月くんは己の欲望を吐き出す為だけに私の体を求め、尽き果てるまで貪りました。


愛する相手に激しく求めれる快感に、深いところで繋がっていると思うと私の心は満たされて凄く幸せな気持ちになりました。


皐月くんとひとつになってしまった……。


意図せず勢いに任せてしまった所はありましたが後悔はありません。


これで私と皐月くんは結ばれたんですから、もう他の人達に皐月くんは渡しません。


だって私が皐月くんの1番なんですから。


それもこれも皐月くんの気持ちを知り、皐月くんを正直にしてくれた催眠アプリのお陰です。



催眠アプリ……最高ですね!




◇◇◇




翌日。



俺が学校に登校し教室に着くと、俺に気がついた白井聖歌が早足で迫ってきた。



「おはようございます皐月くん!」


「え、あっ、あぁ、おはよう白井さん」



やたらと上機嫌に白井は俺に詰め寄ると手を取り、朝の挨拶をしてきた。


手!?なんで急に握ってきたの!?スベプニでやたらと気持ちいいんだが!?というか白井の突然の行動で周りから嫉妬交じりの視線が!


なんか距離感が近いんだけど俺なんかしたか?




「もう!皐月くんったら白井さんだなんて他人行儀な呼び方……私のことは名前で呼んでくださいって言ったじゃないですか!」



至近距離で上目遣いに頬をプクッと膨らませて訴えかけてくる白井。なにそれめっちゃ可愛い。



「え?あぁ……そうだっけ?ご、ごめん……白井……じゃなくて聖歌、ちゃん?」



そんな約束しただろうかと記憶を巡らせたが、記憶に一切引っかからない。


わからん……白井は急にどうしたっていうんだ。昨日の今日で何かあったのか?


というかまだ手を握られたままで、居心地が大変悪い。周りからの視線も痛い。みんなの聖女様に何やってんだテメェと言った具合に。いや俺から握ってるわけじゃないんだけど、そんなのお構い無しだ。



「あー……その……聖歌ちゃん?えっと……手……」


「手?あ、あぁ!す、すいません……ちょっと気持ちが先走ってしまいました!」



俺の手を離しアワアワとする白井。他の奴がやればあざといであろうその行動も、我らが聖女様がやれば実に可愛い所作である。


こんな可愛い子と付き合える人は相当な幸せもんだろうなと思う俺であった。




◇◇◇




放課後。



今日はやたらと気疲れする1日だったが、なんとか終わりを迎えた。


白井……いや聖歌ちゃんがやたらと話しかけてくるし、なんかスキンシップも多めだし、さらにそれを目撃した同じクラスの幼なじみ殿がギャースカ騒ぎ出したりするし……。


ホント聖歌ちゃんに何があったんだろうか。



そんなんあって俺は授業が終わると同時に逃げるように教室から抜け出した。



疲れたし今日はもう帰ろう。同好会の方もいいや。活動してるんだか、してないんだかよく分からないようなとこだし。


会長に今日はいけない旨を伝えようとスマホを取り出しメッセージアプリを起動した。



ピコンっ!



そのタイミングで丁度なにかメッセージを着信したようで、その内容を確かめる。



[涼花:今日行っても大丈夫ですか?]



それは義妹の久保涼花くぼすずかからのメッセージだった。





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