最終話 強制終了
――訳が分からない。訳が分からない。
まるで現代の日本の理不尽な労働現場を過度に誇張したようなオフィスから階段を抜け、さらに下り階段を進み続ける。目の前には階段を下る足の感覚以外には、暗闇しか感じられない。
一体何なんだ。この奇妙で危険な空間は? 何故俺はこんなところに放り込まれて、危険な目に遭わなくっちゃあならないんだ。
――精神的にギリギリの恐怖を味わう中、無情にも先ほどから
『――なあ。もうさすがに無理なんじゃね?』
『無理かあ』
『無理だな……』
――――無理? 一体何なんだ、さっきから。
初めから訳の分からないことばかり起き、必死に逃げてきた俺。「無理」という言葉に、なおさら絶望的な気分になってくる。
――俺は……このまま訳の分からない空間で、あの魔物に喰われて死ぬのだろうか。
――走り続けて行くと、徐々に辺りが明るくなってきた。
そこは幾何学模様が張り巡らされた意匠の、知的だが冷たさを感じさせる、生命感の無い回廊のような場だった。天井から明かりは落ちてこず、逆に足元が狭い道の端からライトアップされている。とても無機的な空間だ。
「――あっ!」
道を進んでいるうち、奥に人影が見えた。
今度は、まともな人間なのだろうか。
「――やあ。よくここまで辿り着いたものだね。」
そう言って微笑む女は、最近流行りのVチューバーのアバターを思わせる、アニメ的で、サイバーらしい雰囲気の衣装を着ていた。
「――あんた、俺が解るのか!? た、頼む!! 早くここから出してくれ!! 襲われているんだ!!」
「――知っているよ。一部始終見ていた。」
「えっ?」
「初めての試みにしては……まあまあ、良い結果じゃあないかな――――」
「な、何を――――」
「しかし、ここまで人間の感情を模していると、いささか殺生な気分になって来たね。良いだろう。解放してあげよう――――強制終了だ。」
「え――――」
――――ブツンッ。
そう、回路が途切れるような音が聴こえたと同時に、俺はもう、何も考えられなり、何も感じなくなった――――
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【管理人からのお知らせ】――――本日はSNSを自律思考して行動するAI『オレ』のライブ配信を御観覧頂き、誠にありがとうございました。
AIは、我々人間と変わらぬ思考と感情を持って活動し、SNS世界にもたらされるあらゆる現実世界の情報をヴァーチャルヴィジョン化した電脳空間を逃げ回る、という試みでした。
本日は正式リリース前のオープンベータテストでしたが、SNSに氾濫する情報を投影した電脳空間を活動するAI『オレ』は、開発陣としてもなかなかのリアリティに富んだイベントになったと思います。
引き続き、正式リリースに向けて、『より現実世界の世相をリアリティを持って反映し』、『より人間に近い感情や感受性を持ったAI』に、この新技術を発展させていこうと努力を重ねて参ります。
ユーザーの皆様には、より深く、充実したリアルの憂さを代わりにAIにぶつけてもらうべく、応援と支援をよろしくお願いいたします。
以上、『SNSVRドリーマー』開発一同より――――
END
カクヨム×ツクール企画用短編『SNSの怪異』 mk-2 @mk-2
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