第50話:教皇と聖女 聖王国




「聖女が到着した!」

 馬車が2台聖王国に到着し、その様子が一部地域を除いた全世界へと配信されていた。

 教皇が皆に姿を見せる時の為に、聖王国の1番大きな神殿である教皇殿の前には、何万人も集まれるような広場がある。


 教皇は、教皇殿の奥にある謁見の間に居た。

 前教皇ならば建物の前で聖女を迎えたであろうが、現教皇の中では聖女は自分より下の存在だった。

 そもそも聖女誕生も、自分が神から啓示されたものでは無い。

 神の啓示など、眉唾物だとすら思っていた。



 全世界に配信されているのと同じ映像を、教皇も眺めていた。

 どこかの国の王族用の豪奢な馬車の扉が開く。

 降りて来たのは、顔色の悪い不健康そうな青年だった。聖女のエスコート役にしては、貧相な人物に見える。

 差し出された青年の手を掴み、一人の少女が降りて来た。

 いや、少女だと思ったのはヒラヒラとしたドレスのせいで、顔は完全な成人女性だった。


「なんだ、この女は!」

 思わず教皇は叫んでいた。

「ちょっと天真爛漫過ぎるとの噂はありますが、聖女でごさいます」

 教皇の横に控えていた神官が答える。

「似合いもしないドレスを着て儂に挨拶に来るのがちょっとか!」

「ドレスコードは外れておりません」

 神官の言葉に、教皇は顔を真っ赤にして、無言で椅子の肘置きに拳を叩きつけた。



 一人目の聖女であるイザベラが降りると馬車が移動し、2台目の馬車が到着した。

 扉が開いて何かが降りて来る。

 そう、何かだ。

 決して生者には見えない乾燥した肌に、虚ろな目。動いているのが不思議なくらいの完璧な木乃伊ミイラだった。


 教皇殿前の広場に、悲鳴が響き渡る。

 いや、配信を見ていた全世界で、同じような悲鳴があがっているだろう。

 そしてその木乃伊が差し出した手を掴む、浮腫むくんだ青白い手。

 木乃伊など比較にならないくらいのおぞましいものが、馬車から降りて来た。

 腐敗が進んだ水死体。

 アモローサだ。


 広場では何人もの人間が倒れた。

 配信先でも、何人も、いや何万人も倒れているかもしれない。

 子供は泣き叫び、広場は怒号や悲鳴が渦巻いている。

 それに気付いたのか、水死体はにこやかに手を振った。

 アモローサには、自分の美しさに驚いた為の混乱だと見えていた。




 教皇は、顔面蒼白で映像を眺めていた。

 木乃伊や水死体が生きて動くなど、普通は有り得ない。

 間違い無く、神の御業だった。


「あれが……あの化け物が聖女だと?」

 教皇の問い掛けに、神官は頭を下げながら答える。

「今は試練を受けているのだとか。女神が聖女だと認めたそうです。試練を乗り越えれば祝福に変わると」

 教皇が映像を眺める。

 頭の中では、損得勘定をしている。


 聖女だと判定された女に強制送還された神官の報告とは、どちらの聖女も見た目が全然違うが、教皇にとっては瑣末さまつな事だった。


「試練の内容は判っているのか?」

「判定式におもむいた神官によれば、姉のイザベラには『愚かなもの、心を磨け』と。妹のアモローサには『醜きもの、心を磨け』と出たそうです」

 神官の言葉に、教皇はニヤリと笑う。


「それでは、聖王国でその試練とやらを乗り越えさせれば、神の恩恵は聖王国のものになるな!」

「その可能性はあります。但し乗り越えられれば、ですが」

 神官の言葉は、教皇には届かなかった。

「すぐに聖女夫婦の住居を手配しろ!試練が終了するまで、聖女は聖王国預かりとする!」

 教皇は、聖女二人を聖王国に留まらせる事を宣言した。



 前教皇の時から教皇補佐を行っていた神官は、聖女二人の諸々の手続きを終え、聖王国を去る自分の手続きもした。

 前教皇がヒッソリと暮らしている、もう一人の聖女が居る国の、キャスパー辺境伯領を目指して出発した。


 判定式に赴いた神官も、聖王国から離れ、前教皇の世話をしながら暮らしているはずだ。

 運が良ければ、死ぬまでに一度くらいは神にお目に掛かれるかもしれない。

 年甲斐もなく、ワクワクしながら旅を続けた。




 終

―――――――――――――――

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


性格の悪い聖女。

もうちょっと面白く書けたのでは、と思ってしまいました。

あと、短編はちゃんと短編で終わらせたいです(-_-;)


そんな反省ばかりの作品ですが、少しでも楽しんで頂けていると良いなぁ……と思っております。


また他の作品でお会い出来たら幸いです。

(*^_^*)

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聖女が性格良いと誰が決めたの? 仲村 嘉高 @y_nakamura

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