婚姻届けと掃除、あと赤面
御厨カイト
婚姻届けと掃除、あと赤面
「まーた、こんなに散らかして!この間掃除したばっかでしょ!」
「……すいません」
「まったく……私が今日来なかったらどうなっていたことか……」
「ホント持つべきものは友だなと思います。マジで感謝です」
「こういう時だけ
「……はい」
そんな事を言いながら、香織は大きなビニール袋を手に部屋の掃除をする。
普段、仕事ばかりで家の事を全くと言って良いほどやらない私。
そんな私を心配して昔からの大親友である香織が週に1,2回安否確認と共に部屋の片付け及び掃除に来てくれている。
今日は別にその日では無かったんだが、たまたま近くに来たからついでに寄ってくれたんだそう。
ホント有難い限りだ。
「ホントにもー、毎回思うんだけど一体どんな生活したらこんなになる訳?」
「うーん、私は至って普通に生活しているだけなんだけどね。と言うか家には寝に帰っているだけだからなんでこんなに散らかるのかがよく分かんない」
「いや原因どう考えてもそれでしょ」
「えっ?」
「だって、それだけ忙しいってことは物とかもろくに片付けたりしていないわけでしょ?それにあんたの場合は休日でも疲れで1日中寝てる時が多くて、掃除機とかも掛けないわけだからそりゃこんなにもひどくなるよね」
「な、なるほど」
「って言うか家には寝に帰ってるだけってどう考えてもヤバいでしょ……。そんな会社辞めた方が良いんじゃない?」
「まぁ、確かにヤバいとは思ってるけどさ遣り甲斐とかもやっぱり感じてるんだよね。上司や同期とかも凄く優しいし、私的には不満は無いというか……」
「……そう?なら良いんだけど。でも本当にしんどくなったりしたら直ぐに私とかに相談してね?」
「うん、分かってる。ホントいつも心配してくれてありがとう」
「当たり前でしょ、凛はずっと一緒にいた大親友なんだから心配するに決まってるわよ……ってうん?」
香織は掃除の手を止め、床に落ちている何かを拾い上げる。
……あれっ?
それってもしかして……
「これって……婚姻届け……?」
「え、あ、ちょ、ちょ、ちょっと待って香織!」
「ご丁寧に右側だけちゃんと埋めてある……」
「ギャー!やめてー!見ないで―!」
「えっ、凛結婚するの?」
「ち、違う、違うの、それは前に親が送ってきた荷物の中に入ってた雑誌の付録についてたやつで……いや、皆書くじゃん、そういうのさ!」
「……」
私は持っていたゴミ袋から手を離し、その手で自分の真っ赤になった顔を覆う。
いや待て待て待て、流石に恥ずかしすぎるんだが……
と言うか香織黙っちゃったし……
やっぱり引かれたかな?
いやでも皆1回ぐらいは目の前にあったら書いちゃうもんだよね……?
そんな事を思いながら香織からの反応を待つが、一向に無い。
それに自分の顔は自分の手で覆っているせいで彼女が今何をしているのか、どんな表情をしているのかも見ることが出来ない。
ふぅ、見るかー……
もしかしたら一番の親友を失ったかもしれない状況だが、ここは流石に勇気を出して手を離す。
「あ、あの香織さんや、反応が無いのが一番辛いんだけど…………えっ、香織?」
すると、そこには机に座り真剣な顔で私の婚姻届けの左側の欄に自分の名前を書き込んでいる香織の姿があった。
「え、あ、あの香織?な、何してるの……?」
「あっ……バレちゃった」
そう心底残念そうに、そして恥ずかしそうに微笑む彼女。
そんな彼女の様子を見て、何だか胸のドキドキが止まらない。
顔もさっきよりも熱く感じる。
……でも多分、この顔の熱さは恥ずかしさだけでは無いのだろうな。
婚姻届けと掃除、あと赤面 御厨カイト @mikuriya777
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