第19話

 森に炎が放たれるより少し前――。


 戦場となっているティーパの地では、王国軍がいまだに苦戦を強いられていた。


 現在の王国軍の四万という兵数だけを見れば開戦時とそう変わらないように見えるが、そこにはこの三日間に王都から送られてきた増援が含まれている。

 対して帝国軍の兵数はすでに十万を超えていた。

 その差は、どれほど効率よく戦死者のオーバルを回収出来たかと、マルーティアが拠点としている場所から戦場までの運搬距離の差によって生まれていたのだ。


 オロージュ元帥がそれに気づいたのは昨日のこと。

 敵兵の復活があまりにも早いという報告を聞いてのものであった。


「やはり、デルプールに帝国のマルーティアがいる可能性が高いか……」

「はい……追加の調査によれば、敵部隊長クラス二名の蘇生が確認されましたので、その可能性はより高いものと思われます」

「初っ端から前線にマルーティアを送り込むたぁな…………気合入ってやがるな」


 オロージュは相手の思い切りの良さに感心する様子をみせながらも、その頭の中ではどのように戦いを推移させるべきかと思考を巡らせていた。

 とそのとき、砦の上から戦場を見下ろしていたオロージュがふとした違和感に気づいて声を上げた。


「あん?」

「……どうかしましたか?」

「………………砦を出るぞ」

「はい?」


 顎に当てていた手を下ろしたオロージュは、手短にそう言うとさっさと階段の方へ歩いて行ってしまった。突然砦を放棄すると言われてしまえば、長年部下として付き合ってきたギャエルであっても思考が追い付かずに固まってしまう。


 そうして立ち尽くしていたギャエルに階下からオロージュの怒声が飛んだ。


「いいから早くしろ!」


 砦を立ったオロージュは、五百ほどの騎士と共に防衛部隊との合流を図っていた。

 防衛陣地へと向かう道すがらにギャエルが砦を放棄した理由を尋ねたところ、オロージュから返ってきた答えは、「なんか胸騒ぎがする」というこれまた酷く曖昧なものであった。


「私には今回もこれまでと同じ突撃にしか見えませんでしたが……何か気になることでもありましたか?」

「いや……そっちじゃねえ、おかしいのは帝国のオーバル回収部隊の方だ」


 軍馬を走らせながらのギャエルの問いに、オロージュは振り向くことなく答えた。


「ティーパの森の中にいるのでは?」

「入ったっきり出てくる気配がねぇんだよ……それに、そいつらが森に消えたあたりから匂いが変わった」


 オロージュは何か確信を持ったようにそう言い切る。

 しかし、ギャエルがすんすんと鼻を鳴らしてみても、それらしい匂いは何も感じなかった。

 そしてオロージュらの一団が森を抜け、街道へと出たその時――。

 戦場から遠く離れた彼らのもとに届くほどのけたたましい楽器の音が鳴らされた。


 これまでにない複雑な音色。

 それを聞いて、オロージュたちは軍馬の速度を上げた。






 ◇ ◇ ◇






「ティーパの森への全軍の侵入を確認すると同時に、アレを実行に移します。命令の伝達後はアナタたちも突撃に加わるように」

「は、はい!」


 ローレンツの命令に指揮官たちが焦ったように持ち場へ向かっていく。

 それを笑顔で見送ったローレンツは、背後に控える重装備の鎧騎士に振り向くことなく言った。


「今日で防衛線を突破、もしくは壊滅的打撃を与えるつもりで動きます。おそらく王国の注目は私に向くはずですので、以降もこちらの指示通りにお願いします」

「承知した」


 真っ黒な全身鎧に身を包んでいるその騎士はくぐもった声でそう答えると、少数の部隊を率いて森へと向かっていった。

 そして黒騎士が森へと姿を消すのと同時に、楽器の音が高らかと鳴らされた。


「素晴らしい天気だ」


 燦燦さんさんと日が差している空を見て、これをこそ待っていたのだとひとり呟いたローレンツ。彼はその視線を戦場に向けると、つまらなそうに目を細めた。


 万を超える軍勢同士の戦いにもかかわらず何とぬるいことか――と。


 祖国の存亡がかかっているだけあって王国軍の士気が高いままであるのに対し、侵略者側である帝国軍の士気はそれほど高くはない。戦闘に慣れさせるために行っていた再三に渡る突撃も裏目に出てしまったようだと、ローレンツは己の甘さを恥じていたのである。

 そして同時に、作戦の成功に次ぐ成功を経験したことで士気が上がるどころか、もうすでに戦勝気分に浸っている愚か者どもがいることに吐き気すら覚えていた。


 見誤っていたのだ。平和ボケした時代の兵の質というものを――。

 ああそうだ、やはりぬるいモノは熱するに限る。

 そうすればどんな愚物でも一応は役に立つようになるのだから。


 ローレンツは帝国軍全軍がティーパの森及び街道に侵入したことを確認すると、三千の重騎兵らを並べて街道を封鎖した。

 彼が火を放ったのは、その直後である。


 それも――――三日もかけて燃える油をたっぷりと撒いたティーパの森に。






 ◇ ◇ ◇






 オロージュがそれに気づいたのは、前線から十キロ後方にある街道上。そこで今もなお設営作業が続いている第二防御陣地に到着して間もない時だった。


「何だあれは?」


 森の北東部から上がっている白煙を見上げながらのオロージュの言葉に、ギャエルが眉間にしわを寄せながら尋ねる。


「……火災でしょうか?」

「それはあり得ねえだろ……第一、今は雨季だぞ? 木々が湿ったままのハズだ」


 オロージュの言い分はもっともだった。

 雨季の木々が燃えにくく、ティーパの森を天然の要塞として活用できると判断したからこそ、森そのものを利用した防衛線を設定し、こうして今も陣地を構築しているのだから。


 しかし、視覚からもたらされる情報がそれを否定する。

 北東の方角から上がっている白煙の量が尋常ではなく、広範囲に広がる白煙に黒煙が混ざり始めているのを見れば、ティーパの森が燃えているのは一目瞭然であったのだ。


「……まずいですね」


 ギャエルの言葉にオロージュはあからさまに渋面を作った。


「まずいなんてレベルじゃねえよ――――最悪だ」






 オロージュらが森林火災に気づいたのと同時刻。

 ティーパの森東部に配置されていた王国軍は、混乱の真っ只中にあった。


 そこにあったのは、炎に巻き込まれるのを恐れて南部へと抜けようとする異常な数の帝国兵に、その背後を追う狂乱状態となった魔獣の群れと、炎の熱。それらが殺到し、東部に展開していた王国軍の処理能力を大きく超えた結果、彼らは後退せざるを得ない状況に陥っていたのである。


 そこには何の秩序もなく、ただただ混沌が渦巻いていた。


 このとき、逃げ惑う兵士たちは気づくべくもなかったが、帝国軍の後方にいた魔法部隊が発生させていた風の流れが、森林火災の延焼速度を加速させていたのだった。

 その勢いはまるで、味方ごと焼き殺さんばかりのものであった。


 このことは帝国軍の指揮官クラスの者達だけが知っており、彼らが兵士達の流れを意図的に誘導してさえいた。

 つまりは、この混沌はデザインされたものだったのである。


 そしてもちろん、南に向かう人の流れを半ば無理矢理に作り出したその男が、自らが作り出した好機に動かないはずがなかった。


 子羊を追い立てる猟犬が如く、千の騎兵を率いたローレンツがティーパの森に馬を走らせる。炎に獣にと追い立てられる哀れな兵士たちの悲鳴を聴いて、楽し気にわらいながら――。






 ◇ ◇ ◇






 兵士たちが南へ逆走しているという報告を受けたオロージュの決断は早かった。


「全軍を後退させろ! ここを放棄し、退却戦に移る! 森の南端まで引き返すぞ!」


 オロージュはなぜ、街道に展開する部隊を後退させるのか?

 それは森に展開する部隊が大きく押し下げられた際に、街道中央に配置していた王国軍の側面が狙われる可能性が高いからだ。


 ともすると、第二防衛陣地周辺まで敵兵が押し寄せてくる可能性があった。

 第二防衛陣地にはおよそ一万の軍が待機していたが、その内訳は予備兵力が五千と支援部隊が五千であり、その実に半数が非戦闘員という状態である。

 建設途中の拠点があるとはいえ、十万以上の人の群れと魔獣の群れに飲まれてしまえば、ひとたまりもないことは明白だった。


 それらの状況と王都からの命令を加味した結果、オロージュは現在実行している縦深防御を取り止め、第二防衛陣地からティーパの森の南端までの残り七十キロの距離を使って遅滞戦術を執るつもりでいたのである。


 舗装されていない場所を含めた街道の横幅最大一キロという狭さが、遅滞戦術に有利に働くだろう。そう考えて、実行に移したオロージュの判断は正しい。


 しかしそこは、ローレンツの方が一枚上手だった。


 オロージュが街道に広がった五千の王国兵に指示を飛ばしていたその時、オロージュの目に森から飛び出してきた軍馬と、それを駆る紫の髪の優男が映った。紫髪の男が後ろに千近い騎兵を従えているのを見て取った途端、オロージュは「クソが!」と呟くと単身で敵集団の前に躍り出たのだった。


「精霊召喚――アースウォール‼」


 オロージュの左手から茶色い光の玉が地面へと落ちる。すると、光の玉が落ちた場所が盛り上がり、体表が岩に覆われたイノシシが生えた。

 それと同時に、イノシシの目の前に魔法陣が展開される――。

 次の瞬間、錐形すいけいで突っ込んでくる帝国騎馬隊の進行方向の地面が一斉に隆起した。


 現れたのは高さ二メートル、横幅十メートルほどの土の壁が十枚。

 ただしオロージュは自身の前方にはその壁を作っていない。

 なぜなら魔法使いと対峙する時は、自身の視界を塞ぐことが致命的な隙となり得るからである。その代わりにオロージュは精霊紋に集中し、その思考を自身の精霊と深く繋げることを選択していたのだった。


 イノシシの精霊に自分の意識が乗り移るような感覚。

 それを感じた次の瞬間、オロージュは己の相棒の中にいた。

 彼の意識がイノシシの目を通して見ていたのは――紫の長髪の男が駆る軍馬。

 その馬が装着している重厚な鎧が眼前に迫る。

 オロージュが歯を食いしばったその直後。

 途轍もない衝撃がイノシシに伝わり――。


 轟音と共に、軍馬の巨体が宙を舞った。


「うらあああぁっしあああああぁ‼」


 イノシシから伝わってくる気絶しそうなほどの激痛を無理やりに噛み潰して、オロージュが雄叫びを上げる。


 通常であれば精霊が軍馬と正面からかち合って勝つことは不可能である。

 それは魔力によって形作られた精霊という半物質半エネルギーの存在が、物理衝撃に対しての耐性が低いためだ。そしてこれは、その精霊の見た目の武骨さや重量などには関係なく、およそすべての精霊に適用される。

 にもかかわらず、オロージュの精霊が軍馬を弾き飛ばせたのはなぜか。

 それはオロージュが精霊の崩壊を力ずくで抑え込んだから、という以外にない。


 そも精霊が己の体を維持できなくなるのは、体を維持する魔力が無くなるか、魔素の結合を物理的にバラバラにするかの二択くらいしか存在しない。であるならば、物理的に破壊できないくらいに精霊に魔力を注ぎ込めばいいではないか。


 それがオロージュの出した答えであった。

 彼を含めてこの時代に生きる人間は詳しい理屈までは知らなかったが、痛覚を共有できるほどにまで精霊とのシンクロを深めた上で魔力を押し込めば、一時的に精霊の体を強固に維持できることを知っていたのである。


 常人であれば意識を飛ばすほどの痛みに耐えきって、オロージュは眼光鋭く土壁の上を睨む。

 その視線の先では、ローレンツがオロージュを見下ろし、楽し気に笑っていた。


「なに上から見てやがんだ? なすび野郎が……」

「ふふっ、これは失敬……愚か者を見下ろすことには慣れているもので」


 さらりと流すローレンツに、オロージュはこめかみに血管を浮き上がらせた。痛む頭に顔を顰めながらも油断なく槍を構えていたオロージュは、その手をぐっと握り込んでから軽口を返す。


「はん、お前……精霊を召喚もしねえで、ずいぶん余裕だな?」

「はて――何を言っているのか分からないですね? すでに精霊は召喚済みですよ?」

「……ああ? なんだと?」


 挑発するような物言いに、オロージュは相手の全身を注意深く観察するが、そのどこにも精霊らしきものを見つけられなかった。


「――ハッタリか」


 そう結論付けたオロージュを、ローレンツが「ふふっ」と笑う。


「あ?」

「すでに召喚していると言っているではないですか――――ティーパの森を燃やした時からですけれどね」

「ああん?」


 その時、オロージュの背後で絶叫が上がった。


「あがぁあああああああっ‼」

「⁉」


 それに続くように、一人また一人と絶叫が上がっていく。

 ピクリと動きかけたオロージュに、ローレンツは余裕の表情を崩さずに両手を上げながら言った。


「振り向くくらいの時間はあげますよ?」


 ローレンツを警戒しながら後ろを振り向くオロージュ。

 ちらりと振り返った先にあったのは、鎧の隙間から紫色の炎を吹き出し、地べたを転げまわる王国兵の姿だった。


「なんだ……こりゃあ」


 王国兵の体の上を小さい何かが這い回っている。

 その何かが兵士たちの鎧の隙間に入り込むたびに、そこから紫色の炎が噴き出していた。


 そうしてのたうち回る王国兵を、帝国兵が流れ作業のように殺していく。

 帝国兵らとまともにやり合えているのは、ギャエルが引き連れて来た五百の騎士のみであった。

 それを見て愕然としているオロージュに向けて、ギャエルが叫ぶ。


「上です‼ 蜘蛛に注意してください!」


 そう言われて急いで空を見上げたオロージュは、上空に蜘蛛を探してその目を細め――。

 そして、見つけた。

 上空から雨粒のように降り注ぐ子蜘蛛の群れを。


「……時間切れですよ?」


 余裕綽綽とそう言うローレンツの肩口から、赤子ほどの大きさの赤紫色の蜘蛛が顔を覗かせた。


「ちぃっ! アースウォ――――」

「させるわけないでしょう?」


 防御行動を取ろうとしたオロージュの顔目がけて、真っ黒なブロードソードの一撃が放たれる。それを間一髪のところで槍で弾いたオロージュに、ローレンツがにこやかに話しかけた。


「アナタも味わってみませんか? ニンゲンの鎧焼き♪」

「――っ!」


 無駄口を叩く余裕のあるローレンツと切り結んでいる間にも、オロージュの体に子蜘蛛がどんどんと付着していく。

 鎧の下へ潜り込もうとするそれを取ろうにも、そんな隙を許してくれる相手ではなかった。


「こんのくそがっ!」


 槍を横なぎに振り抜きながら、目の前の男をこれでもかといわんばかりに憎々し気に睨みつけるオロージュ。彼は怒声を発しながらも、その思考だけは冷静に戦況を見つめていた。


 小蜘蛛の雨から逃れる術はなく万事休す。

 背後の軍は崩壊し、遅滞戦術の続行は不可能。

 さらには、第二防衛拠点より北方に見える、混沌とした人と魔獣の波。

 それらを顧慮こりょして、自分はここで負けるのだとの確信したオロージュは――――叫んだ。


「俺らの負けだ! ギャエル、後は頼んだぞ!」


 オロージュがそう叫んでいる間も、王国兵は次から次へと倒れていく。


「…………っ⁉ り、了解っ‼」


 オロージュ同様に自軍の敗北を肌で感じていたギャエルの行動は迅速だった。

 彼は倒した帝国兵の軍馬に跨ると、命令通りに兵を率いて西の森に消えたのである。


「負けを認めたのなら、さっさと降伏してくれませんかね?」

「ああ⁉ バカかてめえは⁉ 降伏なんざするわけねえだろーがっ‼」


 ローレンツの軽口にそう返しながら突きを放とうとした瞬間、オロージュの利き手である右腕の籠手から紫の炎が噴き出した。


「がああああぁっ!」


 オロージュが肉の焼ける痛みを堪えながら、ローレンツの首を狙う。

 その一撃はいとも簡単にいなされ、流された。

 と同時に、体重が乗っていたオロージュの右足を覆うグリーブから紫炎が上がった。


「ぐうっ⁉」


 踏ん張りが利かず、勢いを殺せないまま地面に倒れ込んでしまうオロージュ。

 起き上がろうともがくオロージュの上に子蜘蛛の群れが降り注いだ。


「何か言い残すことはありますか?」


 すぐ側から掛けられた声をオロージュは「はっ!」と笑い飛ばすと、敵将の足に唾を吐きかけた。


「くたばりやがれ、下種が」

「そうですか…………それでは、さようなら」


 ローレンツがそう言い残して去っていく。その時、彼の背に取り付いていた大蜘蛛の八つの目がしっかりとオロージュの目を捉えた。


「――――リビング・ヘル!」


 大蜘蛛の前に魔法陣が広がった瞬間、オロージュの体に群がっていた子蜘蛛たちが一斉に爆炎に変化した。

 赤紫の炎がオロージュの全身を飲み込み――。

 ローレンツの背後で、筆舌に尽くしがたい絶叫が上がった。


「やはり、戦はこうでなくては」


 ローレンツはそう呟くと、風に乗ってやって来る蛋白質が焼ける匂いを嗅いで、満足げに微笑んでみせたのだった。






 それから数時間と経たず第二防衛拠点は帝国軍に制圧され、総大将オロージュを含む多数の指揮官を失った王国軍は崩壊した。


 こうして、ランクロワ王国の建国以来敵の侵攻を許さなかったティーパの地は、開戦から四日目にして帝国軍の手に落ちたのである。


 この戦いで王国軍は大きくその数を減らし、王都まで辿り着いた兵士はオーバルを含めても一万人にも満たなかった。

 王国軍がここまで大きな被害を出したのは、単にオロージュが討たれたことによる指揮系統の崩壊や拠点防衛の失敗だけが原因ではない。その原因は、夜間もその速度を下げることなく燃え広がり続けた森林火災と、帝国軍の行った残党狩りにあった。


 王国軍にとっては不運なことに、夜間においてティーパの地を北から南へと吹き抜ける陸風が、森林火災の南下する速度を上げていたのである。

 自然の力は帝国の魔法使い達が送り込んでいた風力を容易く上回り、さらにこの夜間偵察についても、森林火災を光源とすることで通常よりも効率的な偵察行動を可能にしていたのだ。


 それらの要素が合わさった結果、ティーパの地に雨が降るまでの三日間――王国兵は昼夜を問わず執拗しつような追撃に晒されてしまったのである。

 第二防衛拠点から森を抜けるまでは七十キロ、王都までは更に百キロほどの距離があることを考えれば、兵士が一万も残っていたことは幸運であったといえよう。


 また、第二防衛拠点の制圧後、敗走兵を狩りながら六日を掛けてティーパの森を攻略した帝国軍はというと――さらに森の出口から十キロほど南にあった小さな町セグミールへと進軍し、丸一日かけて占拠することに成功していた。

 これによりティーパの森からの補給網を確保した帝国軍は、セグミールの町から百キロほど東にある王都シルアスへとさらなる進軍を開始したのである。

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