光を知った4cm
「父さん!俺男子新体操やりたい!!!」
会場を出て開口一番にそう言った。
父さんの目が見開かれるのが見える。そこまで驚くのも無理はない。
俺は体が弱く、入院することもしょっちゅうだった。病院という存在が俺にとって第2の家のようだった。そんな環境だったため、せっかくできた友達ともうまく話せずいつしか俺は何に対しても心を開かないようになっていた。
あまり物事に興味を示さなかった俺からそんな言葉が出るとは思ってもいなかったのだろう。
「怜央、それでまた体調が悪化したらどうする。」
心配と不安の感情が入り混じった瞳で父さんが尋ねてきた。
「それでも、俺はやりたい。」
俺の確固たる意志が伝わったのか半ば諦めたように家に帰ったら母さんに相談しようと言ってくれた。
「ダメです。」
そう告げられた声は俺の頭の中に響いていく。母さんの口から告げられたその言葉は流れからいけば当然のものだった。父さんもわかっていたようで俺の背中に手が当たる。
悲しみと悔しさを通り越して冷静になった俺は無になっていた。
確かに、病弱な7歳程度の子供がいきなりスポーツをするとなるとまずは反対するだろう。
その上、厳しいようで俺に対して過保護な母さんと父さんからすれば賛成という言葉は最初には出てこない。
わかっていたようでどこか期待してしまった。
目を閉じる。瞼の裏には青々とした緑のマットが浮かぶ。軽々と飛ぶ6人の姿。
手の先から足の先まで動きが揃ったタンブリング。
まるで一心同体になったかのような動き。
俺にはとても輝いて見えた。他の人から見たらなんともないかもしれない。けれど、ずっと家かベッドの上にいた俺にとってあんなに輝く世界は初めてだった。
思わずこぼれてくる大粒の涙を見られたくなくて家から飛び出す。
ガチャリと重く閉じるドアの音と俺の名前を呼ぶ母さんの声。
走って走って走りまくった。こんなに走ったのは初めてだった。ドクドクと脈打つ心臓が、地面を蹴る足が痛かった。
目の前に見える公園のベンチに思わず腰を落とす。息も絶え絶えだった。ゼイゼイと肺から酸素を求める音が耳に響く。
1つ2つと大きく深呼吸をする。マットの上の6人のように。不思議と心は落ち着いた。
手を挙げて軽く地面を蹴る。草と砂の音が公園に響く。
両手をくるくると回してみる。世界が広がったように思えた。
そういえば、団体の学校の名前と俺が見た個人の学校、名前が同じだった。
「青鷺学園」
それが俺の目指す光。
「空を、跳びたい」 椿レイ @otoufu15
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