夢の始まりの3cm

「4番。青鷺学園大学」

そう告げられたアナウンスと共に、6人の選手が並ぶ。

手を挙げて一つ返事をすると応援席の方からまた、たくさんの声が出される。


「青鷺〜!!ファイト〜!!!!」


その声に吸い寄せられるように俺は今日何度も見ている四角形のマットに目を落とす。


選手が形をとる。カチカチと時計の音が鳴り出し音が流れ始める。

1人が動き出した瞬間他の5人も一斉に動き出す。まるで操られているかのように皆動きが揃っている。かと思えば、くるくると周りだしあっという間にまとまり、ポーズをとった瞬間音が止まる。そのたった数秒すらない時間時が止まった。


音楽が始まった瞬間四隅に散らばっていく。

すると、1人が飛んでいくのを皮切りに交互に6人が飛んでいく。

トントンと軽々と飛んでいくその姿に息を呑んだ。


片側が飛んだかと思うと斜めのほうからすぐに飛んでくる。思わずぶつかるのではないかとドキドキしたがスレスレのところを軽々と飛んでいく。

あまりにも早い展開に思わず目を見張る。さっきまで全然違う動きをしていたのにいつの間にかまとまって6人全員同じ動きをする。手先までまっすぐと伸びたその目線はどこか儚く感じた。


サッと広がったかと思うと両手を広げ片足をあげそのまま止まる。まるで時が止まったかのように一つも動かず6人全員が動きを止める。なぜここまで合わせられるのか。気づいたら周りの声も聞こえなくなるほど夢中になっていた。

かと思ったらピンと伸びたまま背中から倒れそのまま倒立をする。でも片足だけ曲げてるように見える。


倒立なんてしたこともなかった俺は驚いた。たった2秒ほどだけどその間も足の角度が揃っていて人間じゃないのではと思わず疑った。


選手が配置につく。軽々と飛んでいく。1人が隅まで飛んだかと思うと土台を準備している3人のところに1人が乗る。何をするのかと思ったらその1人を土台が高く上げ宙でくるくると回る。

スルスルと動きを合わせて広がっていく。手を広げていくその姿は羽のように見えた。


さっきまで別々の動きをしていたかと思えば操り人形のように全く同じ動きをする。

くるくると飛んでいたかと思えばゆったりとした動きになる。

展開が早くてかといって抜けもない。


その時、6人全員が全く同じ動きで飛んでいく。先ほどあれはバク転というのだと父さんに教えてもらった。全く同じ動きで手から足まで揃っていた。


また交互に飛んでいく。「タンブリング」というそれはあまりに綺麗だった。

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